Neetel Inside ニートノベル
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 世界が終わるという予測は地震学者によって為されたらしい。全世界的な同時多発性地震、それにともなう巨大津波。大陸の内部なら大丈夫かと言うとそうでもなく、今まで何もなかったところに火口が生まれて大噴火が起きるんだとか、それによって火山灰でスノーボールアースになるとか。まあ理屈は分からないが、とにかく地球は滅びるんだそうだ。
 俺はと言えば、電話をしようと携帯を取り出してアプリを立ち上げると同時に着信画面。別れた妻だった。
「……もしもし」
「もしもし。元気?」
「……ああ」
「そう……」
 しばらくの無言。
「……あのさ」
「……なんだ?」
「そっち……行っても、いいかな」
「……」
 まさか同じ理由でまさに電話を掛けようとしていた、とは言えなかった。黙っているのを否定と捉えたのか、彼女が言葉を繋ぐ。
「せめて世界が終わるまでは、誰かと一緒にいたいじゃない」
「……そうだな。いや、どうせなら俺がそちらに行こう」
 ようやくそれだけ絞り出した。
「いいわよ。どうせ男やもめで部屋も汚いんでしょう? ついでに掃除とか洗濯とかしてあげるし」
「世界が終わる日に掃除なんかしたってしょうがないだろう」
「ああ、そうね……ごめんなさい、なんかまだ実感が湧かなくて」
「謝るようなことじゃない。誰だってそうだ」
 それにしても、まさか同じことを考えていたとは。同居してた時はあれほどソリが合わなかったというのに、意外にも程があった。別居しても夫婦は夫婦ということか。

 彼女は全然変わっていないように見えた。いや、心持ち綺麗だった、かもしれない。その日我々が語り合ったことは、ここに書き連ねるにはあまりに恥ずかしすぎる内容なので、多くは晒さない。ただ、その夜は久々に人の温もりを感じながら眠った、ということだけは書いておこう。勿論翌朝、滅びていなかった世界で昨晩の恥ずかしさに悶え苦しんだことは言うまでもない。写らなくなっていたテレビも復活し、世界は何事もなく回っているなかで、我々だけが変化に取り残されたかのようだった。
 妻(と呼んでいいのやら)がシーツを身体に引き寄せながら呟いた。
「もう、電話なんて掛けるんじゃなかった……」
 こんな時に考えることまで同じか、とは言えなかった。

       

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