Neetel Inside ニートノベル
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人の笑っている顔が好きだ。
新しいオモチャを見つけた時に目をキラキラさせながら夢中になって弄り回す子供たちの笑顔が好きだ。
子供たちが元気にはしゃぎ回るのを眺める母親の幸せそうな笑顔が好きだ。
優勝とか新記録とか新発見とか、困難な課題をクリアした瞬間の達成感溢れる歓喜の表情が好きだ。
興奮した友人の意味不明な説明を交わそうとして浮かべる女子大生の曖昧な笑顔が好きだ。
街の不良どもが弱い奴をいたぶろうとする時に浮かべる世の中を舐めくさった全能感溢れる野性的な笑顔が好きだ。
店長がやらかした新人バイトに喝を入れる直前、怒りを隠そうとして隠し切れていない凄惨な笑顔が好きだ。

そう、私はこの世に存在する、ありとあらゆる笑顔を愛し、慈しみ、そして欲している。願わくばいついかなる時でも笑顔に包まれて、笑顔を愛でながら生きていきたい。
笑顔というものはありふれている。しかし一方で、笑顔そのものは一瞬の産物でしかなく、その瞬間に世界を留めておくことは出来ない。
それならば、仮初めの笑顔でも妥協しよう。別なモノに固定された笑顔はもはや笑顔そのものではないが、それでもなお笑顔の美しさの残像をたたえている。その美しさを愛でることで、現実へのささやかな慰めとしよう。そんな思いを抱いて私は今日も、笑顔の人の前へ現れる。
笑顔の瞬間を切り取るのは難しい。私も最初はタイミングを逃がして失敗することがよくあった。少しでも手元が狂ったり、動作が遅れてしまったりすると、魅力的だった笑顔は露と消えてしまう。後に残るのは怪訝な表情や苦痛、恐怖の顔だ。そんなものは愛でるに値しないから捨ててしまうが、笑顔の損失が何よりつらい。コツは気付かれないタイミングで手際良く、だ。サッと近付き、サッと実行する。

今日の収穫は笑顔がひとつ。私は担いできた笑顔の少女を床に降ろすと、早速剥製にするための準備を始めた。

       

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Neetsha