Neetel Inside ニートノベル
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 葉も実も落として寒々とした桜並木の下を歩きながら、直近の模試の結果ーー縦に並ぶEの列を思い出す。
「気にすることはない。俺がついてるからね」
 そう先生は言ってくれたけれど、もう12月だ。先生はもちろん、私だって出来ることはそんなに多くない。むしろ志望校の変更を言い出してくれなかった先生を不誠実だとすら感じた。母も同じことを思ったようで、志望校を変えた方がいいと言った。
「構わないわよ。塾の先生なんて塾の実績のことしか考えてないのよ。あんたのことはあんたが一番分かってるし、あんたが駄目だって思ったんなら志望校変えるのだってあんたの自由よ」
 しかし結局第一志望の大学に出すことにした私は、この2ヶ月を地獄のような気分で過ごしてきた。カバンから手鏡を取り出して確認すると、げっそりこけた顔、くっきり出たクマ、まるで幽霊だ。夜道に遭遇したら逃げるだろう。
 そこまでしても、頭の中にちらつくのはE判定、合格率20%以下……。
「誰か、私の代わりに受けてくれたらいいのに」
 そういう非現実的な妄想が口をつく。最近お気に入りなのか、精神が痛むとすぐに替え玉の妄想を始めてしまう。例えばそう、塾の先生。彼が私をけしかけたのだから、彼にはこの受験の責任を取る義務があるはずだ。身体の大きさ? 性別? そんなの気合いで乗り越えろ、何か方法はあるはずだ、例えばそう……。

 気付くと私は会場の正門前で棒立ちしていた。まさか? 空に目をやると日は西に傾き始めている。スマホのデジタル時計を見ると、試験時間はとっくのとうに過ぎていた。妄想に浸る悪癖はあったが、まさかこんなところで最悪の形で出現することになるとは……。
 とにかく報告して、善後策を話し合わなければ。母は仕事で留守だったので塾に連絡すると、先生が出た。
「先生、やってしまいました……ごめんなさい。どうしましょう」
「うん、上手くいったね。良かった良かった」
「は? いやだから私、すっぽかしちゃって……」
「だから大丈夫。僕が責任を持ってやっておいたからね」
 全く話が噛み合わない。先生、とうとうおかしくなってしまったのだろうか? 頭の中が疑問符でいっぱいになる私の耳に、先生の朗らかな声が飛び込んできた。
「今日、意識が途中でなくなってただろ? 僕が幽体離脱から憑依して、代わりに受験してたんだよ。やっぱ責任は取らないといけないからね。ほぼ全完しておいたから」

       

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