Neetel Inside ベータマガジン
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ハルドゥがボロールカビを摂取して数日後・・・
彼は意識を取り戻した。最初に見た光景は束ねた丸太で作られた天井だった。丸太は幾層にも連なり、その丸太の合間には乾いた藁や葉っぱや、布きれや板が挟まっている。見たところ、寄せ集めた材料で作られた小屋かどこかだろう。
ハルドゥは何かが身体に乗っているのを感じた。
布団か何かか? だが、その割にそれは重くまるで石のような重量感を感じさせている。

「??」
それを退かそうと手をやると、何やら何かしらの肌触りを感じた。この感触にハルドゥは覚えがあった。そう、かつて愛した女とベッドを共にした時のあの感触だ。
「え?なに?」
答えを理解する前に首を起こしたハルドゥの目に飛び込んできたのは、人らしきものの髪の毛だった。
「え?え?え?」
思わず肘で上体を持ち上げると裸の女(ミランダ)が自分に溢れんばかりのおっぱいを押し付けてすやすやと眠っているではないか。
「うわわゎああああああぁああああぁあ!!!!!」
ハルドゥは叫んだ、理解が及ばずただ叫んだ。
まさかまさかの肉布団に彼の思考は完全に停止した。
「おい!!うッせぇぞ!!」
隣の部屋で寝ていたヴィンセントがたまらず飛び起きる。
「わわわゎああああーッ!!」
部屋の入口を覗き込むなり、真っ先にヴィンセントの目の前にいたのはミランダだった。
目の前で両足の間にお尻をつけたままペタンと座り、動揺したのか口元に人さし指と親指を当て、目線の先にいるらしきハルドゥを見つめていた。
「おォいッツ!!ミィラァンダァアッ!!」
「ひぅ!!」
ヴィンセントは罵声のような怒鳴り声でミランダの名を呼びあげながら、ミランダに歩み寄る。
「こンのッ!!メスイヌがァッ!!また性懲りもなくやらかしやがッツたのかァア!!ゴゥオラァア!!」
もはや、獣というより鬼か悪魔か分からない程の恐ろしい声を張り上げ、鬼の形相で迫ってくる兄のヴィンセントに、ミランダはたまらず脅えて腰を抜かした。ミランダは粗相をした時はいつもヴィンセントに何発も頭を叩かれている、特に男と寝た後は特にそうだ。ヴィンセントがそうしてミランダを叱りつけるのは理由があった。元々、ミランダは情欲を抑えきれず、兄を含めた何十人とファックを繰り返し、その度に死産や奇形児出産を繰り返している。このままでは、母体への負担も大きく最悪子供の出来ない身体になりかねない。だが、それでもミランダは情欲を抑えきれずファックを止められなかった。ヴィンセントは遂に暴力をもつてミランダを叱りつけるようになる。ヴィンセントからの暴力を恐れたミランダは証拠を隠滅するために、ファックした相手を喰い殺すようになる。
「貴重な花婿を食いやがったのかァア~ゴラァアァ!!」
拳を握り締めながら闘牛のような威圧感と剣幕で近付いてくるヴィンセントに、ミランダは首を何度も横に振る。兄の言葉はところどころ、理解できなかったりはするが今回ばかりはミランダも兄の意図を察した。今回ばかりはちがうと必死に訴えかけ、それから身を守るため咄嗟に頭を庇いながら、精一杯誤解を解こうと必死にハルドゥに向けて指を差す。
「う!! う~~~!!」
叩かれるのがよっぽど嫌なのだろう・・・ミランダはハルドゥを差す指の生えている腕を何度も振り回す。ヴィンセントがその指差す方向を見るとそこには頭を抱え、壁に何度も身体をぶつける全裸のハルドゥが居た。
「ァアッ!!ァアあぁあーッ!!」
ハルドゥは状況が全く飲み込めず、頭を抱え錯乱していた。それはそうだ。ウルフバードの暗殺に失敗し、喚き散らしたことははっきり覚えている。それ以降は、懲罰小屋に入れられ全身に樹液を塗りたくられ虫に集られるわ、日差しに当てられ一日中寝転がっていたわ、無理矢理水を飲まされるわでひたすら拷問されっ放しで何が何だか覚えていない。感触として分かるのはいつの間にか何者かに抱きかかえられ、ひたすらうなされながら看病されていたことぐらいだ。それが目を覚ましていきなり裸の女におっぱいを押し付けられているのだ。意味不明にも程がある。
まさか自分はこの女と寝てしまったのか。
正直言ってこの女が肉布団になってくれていたせいか、かなり気持ちよかったのは事実だ。結構、何度か動いたような覚えがある。まさか、自分はこの女と肉体関係を結んでしまったのか!?
だとしたら、天国の妻にどうして詫びよう?
いいや、もしこのことが娘のハレリアに知れたら私は一生軽蔑されるだろう。なんとしても、それだけは・・・!!それだけは!!
ヴィンセントはハルドゥを抱きしめようと引き起こす。

ヴィンセントは錯乱するハルドゥの顔を両手で包み込み、目を見つめて語りかける。
「落ち着けよ、もう大丈夫だ。怖くねぇから、な?」
ミランダを宥める時のように、ヴィンセントはハルドゥの頭を優しく撫でる。
「なんなんだ!? 一体どうなッてんだ・・・!」
「落ち着けよ、もう大丈夫だ。何も怖がるこたァねぇ。ここは安全だ。」
「誰だ?! 誰だ!!」
「俺はヴィンセントだ、ウルフバード開拓団で一緒だった・・・!」
落ち着くハルドゥはヴィンセントを見つめ、
必死に記憶を探っていた。
「ヴィンセント・・・」
「アンタ、ウルフバードの野郎のド頭かち割ろうとしてたろ? アンタがドジった後、奴の顎握り潰した奴だ 覚えてないか?」
ハルドゥは思い出した。このヴィンセントという青年を。ウルフバードを殺そうとした時に一緒になって奴につかみかかってくれたヘアバンドの青年が、そこには居た。
「君は・・・あの時の」
「思い出してくれたか?」
ロベルトを目の前で助けられず、仲間を殺してしまった罪悪感で押しつぶされそうだったハルドゥはウルフバードを殺そうとして叶わなかったことを悔やんでいた。あろうことか、ヴィンセントというこの青年の身を案じていた。安堵し、喜びと感動のあまり、滝のように涙が流れる。
「よかった・・・うぅ・・・ うぅう・・・」

ヴィンセントはハルドゥを抱きしめるとひとまずため息をつく。

       

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