Neetel Inside ニートノベル
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「あ、このアバター可愛いなあ。……むむ、28万ですか……」
ギルドの件は取り敢えず保留になり、誰か他の人がログインするまで各自自由行動となった。クァーツォさんと鴉さんはなにやら二人で出掛けてしまい、私は仕方なく露店の物色をしていた。露店とは、NPCではなく、プレイヤーが自ら品物を販売できるシステムである。確か正式なシステム名は「個人商店」だったと思ったが、プレイヤー間では専ら「露店」としか呼ばれない。ゲーム内にて自身の見た目をコーディネートする「アバター」というものが存在するが、このようなアイテムは総じて高額である。例に漏れず、私が今見ていたボレロとロングスカートの組み合わせで、大人の女性な感じを演出するアバターは少々敷居が高く、私には届きそうにも無い。

(むむ、これを買ってしまってはギルドに投資する分がなくなってしまうな。現状ですら足りていないのに。仕方ない、諦めよう;)
暇でやる事のなくなった私は、かと言っても狩りに行くような気力も無く、二人と別れた地点のロイヤルシティ広場にてボーっとしていた。やりたいことも思うように出来ず、テンションが落ちてくる。あーあ、こんな時なんか気が紛れるような面白いことないかなあ。

[こんばんは~!]
(お……?)
今日はもうログアウトしようか、と思ってボーっとしていた所に、フレンドチャットが届く。普段は大抵もっと遅い時間にログインする、リュシアさんからだ。
[こんばんは!リュシアさん、今日はちょっと早めですねw]
[うん、珍しく早く来れたwみんな今の時間は狩りかな?]
[あ、私グルチャ作りますねwちょっと待ってて下さいw]
[あ、りょーかいwみんな一緒じゃないんだw]
グルチャとは、グループチャットの略で、フレンドチャットの複数版と言った所のものだ。お互いが別の場所に居る場合、誰かを経由せずとも全員に連絡を取れる便利な機能である。
【てな訳で!みなみなさま、リュシアさんがいらっしゃいましたよー!】
私が口火を切るメッセージを送ると、他の3名からも続々と返事が来た。
【ふーちゃんテンションたけーなwwリュシたんおばーんw】
【リュシアばんわー、今日は早いな。】
【二人ともこんばんはー!今日は早く来れたよぉーwみんなで狩りにいこーよw】
【んー狩り良いねーwでもどうする?さっきの話の続きする?】
【人数的にはクリアなんだけどな。ふーかはまだ広場?】
ぐ。バレてる。だってしょうがないじゃないですか、二人とも示し合わせてさっさとどこか行っちゃうし;一人で狩りするほどの気力もあんましないし。
【御明察ですわ、鴉さん。お二人がわたくしを差し置いてさっさと出掛けてしまいましたものでw】
【あ、それひどいねーw二人とも雪花さんいじめないでよw】
私がむくれて講義すると、リュシアさんが庇ってくれる。あぁなんて優しい人なんだ。
【あはは、ごめんごめん、すぐ戻るからwさっきの話進めようぜ!】
【予想に反してふーかが一番ノリノリだったからなぁ。俺はてっきりカツたんが乗り気になると思ったんだが。】
【ここで待ってますので、リュシアさんもロイヤルシティの広場に来ていただいても宜しいですか?】
【はーい、なになに?たのしー事?w】
【元々は鴉さんプレゼンツですよw】
【それは面白そうだ!なんたってクロさんだもんね!】
【思ってもいないこと言って無駄にハードルを上げるなよ……まあ、今行く。】
【ちょっと待っててね!】

「おまたせ~!」
ロイヤルシティ広場前に先程の三人プラスリュシアさんが集まってきた。首尾よくことが運ぶといいのですけど;
「さて、リュシアも来たことだし、早速だが。」
「あ!!その武器いいですね~!私もほしいな~」
「雪花ちゃんは私と職業おんなじだもんねーw」
「それ高そうだよねwリュシたんお金持ちw」
到着したリュシアさんを囲んで私とクァーツォさんがやいのやいのと話しかけるので、一向に話題が先に進まない。
「……おめぇら人の話を聞けええええ!」
「あっはっはwwwごめんなさいw」
「鴉さん怒ったなーw」
「クロさん、どうどう。」
「いいから進めるぞ……」
で、誰かがログインするたびに似たような話をしなければならないっていうのも、じれったい気がしますよね。というわけで↓↓

「ギルドいいねーw私も是非入れて!」
「ふふ、決まりですねw」
「うむ。あとは金だけだな。リュシアは武器新調したばっかだからもってないとして。うーむ」
「あ。私前の武器売ったお金持ってるよ?少しだったらw」
「まじで!?(ですか!?)」
なんと、誰よりもお金がないと思っていたリュシアさんが残りの20万を持っているという大穴が発生。なんにしてもこれで!!
「さあ結成だ!」
「ギルド名何にします!!?」
「リーダーどうすんの?」
「クロさん50万も出してくれるの??」
4人全員違うこと言ってた。全然息が合わない……ね;

まずは順繰りに処理することとなり、さしあたってギルドマスターを決めることにした。
「言いだしっぺは鴉さんですよ?」
「俺よりふーかのほうが人望あるんじゃない?」
「リュシたんが向いてるんじゃないかと思うんだよなー。戦闘に対してもかなりストイックだし。」
「クァーツォさんだとみんなの面倒見てくれそうじゃないかな?」
またもや全員が違うことを言い出した。
「いや、鴉さんは譲れませんね!一番お金出してるんだしその方がいいでしょう!」
「ふーかのほうがいいって!」
「別に何としてもリュシたん推しってわけではないけどさ……」
「いや、まあ私も……;;」
この時点で鴉さんか私に決定。でも
「私やりたくないですー!素質ないよ!向いてないよ!!鴉さんやってえええええ」
「わ、わかったよwwどんだけ嫌なんだ;」
次にギルド名を決める。
「鴉麻と愉快な仲間たち。」
「真面目に考える気ないですよねw」
「暇人連合。」
「だっせぇwwww」
「夜の森隊。」
「もう鴉さんのセンスには任せておけませんね。」
「ほんとだよね、レイヴンなんちゃら、とかがゃないかな?」
「いや、なんか武骨じゃない?俺ならそうだな、流麗の風雪佳とか……」
「私のギルドになってますから;」
その他諸々非常に難航しましたが、ギルド名「らびあん・ろーず」ギルマスター「鴉麻」に決まりました!これからますます楽しくなりそうな予感がするトゥインクルスター!!これからもよろしく!

この時はまだ、楽しい時間がずっと続くと、そう思っていました。出会いがあれば別れもあることなど、その時は微塵も考えずに。

       

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Neetsha