Neetel Inside ニートノベル
表紙

ぺなるてぃ!
一章 折れず、曲がらず、全くキレない!

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「趣味」ってものが、誰でも何かしらあると思う。いや、無い人も居るかも知れないけど。私の場合、それは他人に誇れるようなものではない。ああ、いつの頃からだろうか、私が「ゲーム」というものに魅了されてしまったのは。
「私は人間をやめるぞー!……えーっと」
などと、どこぞの台詞を流用してきたところで聞く者はいない。所謂独り言だ。それというのも、今日も今日とていつも通りに一人でゲームに没頭しているからだ。
 高校入学を機に、念願の個人端末を買ってもらったわけで。これまた念願だった「オンラインゲーム」を早速ダウンロード。やばい。ニヤつく顔を抑えることが出来ない。自分自身でこの様子を客観的に見ようものなら、あまりの痛々しい姿に目を背けたくなるに違いない。ああ、だとしてもなんて甘美なのだろう、「オンラインゲーム」というものは!今私がプレイしようとしているのは「トゥインクルスター」という、絵柄が可愛い系のオンラインゲームだ。特に前情報を調べているわけではない。だってやったことないし。チョイスは完全にノリだ。楽しめれば何でもいい。そう、初めはそんな軽い気持ちだった。
「スタイル的にやっぱり格闘家だよね~、魔法はなんか性に合わない気がするし。」
誰も聞いちゃいない独り言をぶつくさ呟きながら職業を選ぶ。こんなことを言ってはいるが、現実の私は格闘どころかチビでひ弱な、友達の居ない根暗女に過ぎない。別に友達が居ないことに思うことがあるわけじゃないけど、何もゲームの中でまで現実を踏襲する必要などないのだ。
「名前?うーん何がいいかなー」
自分の分身となるキャラ名につまづいた。変な名前を付けてしまうとそれをずっと使い続けなければならない。はたして女の子のような名前がいいのか、はたまたそのことは隠した方がいいのか。……分からないな。だってやったことないし。大切なことですので二回言いました。まあキャラが女の子なんだし、ここは女子ネームで構わないだろう。悩んだ結果、分身の名前は「彩葉雪」となった。

「なんだ、これ……どうしたらいいんや……」
死ぬ。とにかく、死ぬ。いや、厳密には「死」んでるわけじゃないんだろうけど。とりあえず便宜上死ぬ。そう。私は別段上手いわけではない。単にゲームが好きなのだ。RPGなのだから、とりあえずレベルアップを、と思ったのはいいが、敵を倒すことが出来ない。なんだこれは、クリックすればいいのか、スキルを覚えればいいのか、誰か教えてくれ。だー!!また死んだ!これは慣れるまでに時間がかかりそうだ。ダウンロードとインストールを経て、時刻はもう0時を回っていた。明日も学校だし、この辺にしておこう。追々分かってくるだろう。ゲームできるくらいの脳みそは持っている。……はずだけど。



「……ダメだ。」
トゥインクルスターを始めて今日で5日目だが、非常に重大な問題が発生した。とにかくキャラが弱いのだ!!堪りかねて○○kiで調べてみたのだが、まず根本的にステータスの配分方法(通称「振り」)がダメだ。補助的に魔法も使えればカッコいい、とか思い、魔法ステータスにも振っていたのだが、とにかくキャラが脆い。速攻で死ぬ。どうやら格闘家は体力系のステータスに振らなければやっていけないらしい。加えてスキルの問題だ。適当はダメだ、戦闘にならない。これらも踏まえて、さあ生まれ変わる時だ!
 こうして「彩葉雪」は消滅し、新たなキャラでの再スタートを着ることになった。……5日目で。
「先が思いやられるな……。他のゲームもやってみた方がいいのかな……」
いやいやいや、それでは堪え性が無さすぎる。一端のゲーマーならもっと遣り込んでみるべきだ。

またもキャラ名に苦悩し、新たなキャラの名前は「風雪佳」となった。……今度は長生きするといいんだが。……それにしても、ゲーム内で友達の一人も出来やしない。どうなっているのか。弱過ぎるのがいけないのか。まあ追々そういう機会もあるだろう。今はただ、ストイックに上を目指そう。初心者に何か教えられるくらいになれば、友達くらいできるだろう。現実世界では誰からも頼りにされない私だが、遣り込めばきっと!
「……おっとっと。そういう考え方は良くないよね。現実世界で頑張らなきゃならないんだよなあ。……面倒だなぁ。」
 二次元を逃げ場にしようっていうのはダメだ。ダメな気がする。私あっての「風雪佳」だと、そう思わなければ。……と、この時はまだこう思っていた。友達も居ないしね。

     


さて、「風雪佳」が生まれてから今日で節目の五日目。面白い。「彩葉雪」と比べてメキメキと成長していく。討伐やダウジングで収集品を集めつつクエストをこなしていく。俗にいう作業ゲーと忌み嫌われる状態だが、強くなっていく風雪佳がたまらなく楽しい。こうなってくるとパーティプレイに興味が出てくる。やったことないので、プレイマナーやその他についてそこはかとなく不安がよぎるが、まあ初めてである旨を伝えればきっと大丈夫だろう。パーティ募集掲示板から自分と同じくらいのレベルのパーティ募集を探す。
【ロイヤルフォレスト1‐誰でもどうぞ‐】
ふむ、一つ良さそうなパーティを見つけた。掲示板の情報からして、パーティ平均レベルが21レベル。風雪佳のレベルが現在20だから、ほぼちょうどいい。問題は「ロイヤルフォレスト1」というマップに行ったことがないが、全体マップを参照すれば辿り着けるだろう。ここは覚悟と度胸も必要だろう。覚悟を決めて加入しよう。緑色のパーティ加入というボタンをクリックする。ぴこーんと言う小気味のいい音がして、インターフェースにパーティメンバーの情報が表示される。
リーダー【鴉鬼】レベル22  【リュシア】レベル18 【そらっち】レベル21 
これに【風雪佳】レベル20が追加され、4名のパーティとなった。鴉鬼さんは男性の魔法使いキャラ。リュシアさんは私と同じ女性の格闘家キャラ。そらっちさんは銃を使うエンジニア系だ。早速チャットで挨拶が飛んでくる。
『こんばんは。宜しく。』
『こんばんわー!よろしくお願いしますねっ!』
『こんばんは、よろしくねー』
三者三様の挨拶に対し、返事をしないのも失礼だ。トゥインクルスターをプレイして初めてのチャットをしよう。
『こんばんわ、よろしくお願いします。』
やばい。すごく緊張する……変じゃないだろうか、不愛想じゃなかっただろうか。第一印象を明るく見せなければならなかったのではないか。考え出すと収まることのない恐怖が、コミュ障の脳をぐるぐると周回し続ける。まずはメンバーのいるマップへ移動しなければ。「ロイヤルフォレスト1」へ行くルートを全体マップで参照する。どうやら今居るエリア、「レイクアイランド」から洞窟マップを経由して行けるらしい。私は早速移動を開始した。
『今湖か、こっち来れる?』
『移動しています。パーティプレイは初めてですので、ご迷惑をおかけするかも知れませんが、よろしくお願いします。』
リーダーの鴉鬼さんからだ。そちらのマップへ向かっている旨、初めてである旨を伝えつつ「ロイヤルフォレスト」を目指す。
『初めてなんですか、楽しく狩りしましょうねw』
『分からないことがあったら、何でも聞いてねっ』
リュシアさん、そらっちさんから頼もしい反応があった。これは早く行かなくては!スマートにプレイできる所を見せて第一印象を良くしないと!

 と、気合十分に出発したのはいいが、洞窟マップで迷った。洞窟マップは画面右上の地図が限定的にしか表示されず、どちらが目的地方面なのか分からない。加えて敵が強過ぎる。私がいた「レイクアイランド」の敵キャラは、こちらから手を出さなければ攻撃をしてこない非アクティブ型だったが、ここの敵は自ら攻撃してくる。おかげで近寄られたら倒さなければならないし、手に負えない数が来たら逃げるしかない。まずい。みんな待ってるのに、辿り着くことすら出来ないなんて。
『大変申し訳ございません。洞窟で迷ってしまいました。』
現在の状況をチャットでメンバーへ報告する。正直文字を入力している時間も惜しい状況だ。周りにいる敵キャラが否応なしに向かってくる。
『マジか、俺ちょっと迎えに行ってくる。』
『あ、鴉鬼さん私が行きますよ。今洞窟のポータル目の前ですからw』
『俺じゃ洞窟の敵は手に余るから、リュシアさんよろしく頼むよ;』
『はーい』
助け舟を出してくれるらしい。パーティに入れてもらった挙句、迎えにまで来てもらうとか、何たる醜態……穴があったら入りたい。
『すみません……不甲斐なくて。リュシアさんよろしくお願いします。』
なんとか隙を見つけ返事を送信するが、気が抜ける状況ではない。ここは敵と戦わず、一気に駆け抜けよう!洞窟内で私を探しているのか、リュシアさんからの返事はない。何とかして合流しなければ。
 以下、風雪佳視点の「トゥインクルスター」(妄想)

まずい。まず過ぎる。何とか敵をすり抜け進んだはいいが、進んだ先が行き止まりだったなんて。引き返すにはやり過ごしてきた敵が余りにも多すぎる。この洞窟に入った時から一切気の抜けない状況ではあったけど、現状が最も危機的と言って間違いないだろう。狩りのために用意したポーションも残り少ない。このままではやられて街マップへ逆戻りだ。そんなことになったら嫌われてしまう。それだけは嫌だ。まだ直に逢ったことも無いのに。でも生きてここを抜ける為には、覚悟を決めて戦うしかない!
「よし、やってやる!!とあああああぁああ!」
「ハードナックル!ワンツーパンチ!」
敵に技を叩き込みながら、包囲を破りにかかる。しかし戻りの道にウロつく敵たちは膨大で、なかなか前へ進むことが出来ない。小さな傷を積み重ねていき、その度にポーションを減らしていく。
(くっ、まずい。このままじゃ……!)
ポーションが足りない。持てるだけ持ってきたつもりだったが、戦士の私は荷物を持てる量が限られているのだ。戦線を維持するための物資をすり減らし、ジリ貧に追い込まれていく。
(もう、ダメ……かも)
いっそもう街マップへ戻った方がいいかも知れない。これでは合流できてもろくに狩りを出来そうにもない。ああ、私はなんて無力なんだろう。半ば諦めていた時だった。
 不意に体の芯が暖かくなり、力が漲ってくるような感覚が走った。なんだろう、と思った瞬間、通路の奥で敵が倒される音が聞こえた。音の主は瞬く間に近寄ってきて、私を守るように前へ立った。
「お待たせ!遅くなっちゃいました!」
目の前へ現れたその人は、長い黒髪を靡かせる女性の格闘家だった。もしかして、この人がリュシアさん?
「あ、えーっと……ありがとうございます。」
「いえいえ!大変でしたねw風雪佳さんこっちですよ!おりゃあああ!!」
言うや否や、リュシアさんは華麗な動きで敵の攻撃を回避し、間髪入れずに技を叩き込み倒していく。技はなんの変哲もない、私も習得している「ハードナックル」だ。でもそれ以外は私と違っていた。的確に命中させ、一撃で倒すこ都の出来る十分な攻撃力。同じ職業なのに、使い手が異なるとこうも違うものなのか。
「私から離れないでくださいね!アクセラレータの効果が乗れば、風雪佳さんでも戦えると思います!」
先ほどの力が漲る感じはそれか。どうやら攻撃力を上げることのできる技があるらしい。でもそれ以前に、リュシアさんの動きが熟練されていて私では同じことが出来そうにない。
「すみません……ポーションがもう残り少なくて……」
「分かった!すぐここから出ましょうw」
……その後何とか敵の包囲を抜け、リュシアさんの道案内でロイヤルフォレストへ着くことが出来た。私たちを心配してくれたのか、残りの二人も出口のところで待っていてくれた。
「お疲れー。初めましてだね。パーティリーダーの鴉鬼です。」
「大変だったね!やっと会えたねw俺がそらっちだよw」

(以上 妄想終了)

ああ、よかった。何とか合流できた。それにしてもリュシアさんは上手だったなぁ。私もいつかあんな風に戦えるようになりたいな。パーティでクエストをこなしながらレベル上げをして、レベル24になった。1日の成果としては十分過ぎる。やっぱりパーティプレイは効率がいいものらしい。
『俺はそろそろ落ちるよ。』
『あ、なら俺も~』
『解散ですかねw』
もう時刻は1時近い。今日はこれでお開きだろう。さすがに眠気が来てるし、明日も学校だ。
『今日は楽しかったです。ありがとうございました。』
『あ、待って待って。風雪佳さん友達登録いい?』
『良ければ俺もお願いw』
『私もいいですか?』
解散の空気の中、別れの挨拶をする前に友達に誘われた。……やったー!初めての友達だあああ!!!
『はい。是非お願い致します!』
3人と友達登録を済ませ、挨拶をしてログアウトする。心地よい疲労感を感じつつ、床に就くことにした。
「ん~~!今日は楽しかったなー!なんだかクセになっちゃいそう。」
背伸びをしながら、また明日のプレイに思いを馳せて、私は眠りについた。

     

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   「初めてのギルド」

「さて、今日もやりますかー」
あれから毎日のように遊び続け、ゲーム内フレンドとの関係も良好となってきたある日のこと。相変わらず彩羽は高校はそこそこに(一人の友人もいない)ゲーム漬けの毎日を送っていた。

【風雪佳】 Lv42/格闘家
以下、風雪佳視点(ゲーム内)
『風雪佳がログインしました。』
「こんばんわ~」
ログインした私は、フレンドチャットに対して挨拶する。鴉鬼さんは結構早い時間からいることが多い。
「こんばんは。いつも通りだね。」
「はーい!それだけが取り柄ですから!鴉さん、今日はどうします?狩り?それとも先約有りですか?」

最近フレンドもぼちぼち増えてはきたが、プレイが板に付くにつれて固定のメンバーと活動することが多くなってくる。私の場合は最初に友達になったあの三人のグループだ。グループは以前の三人に加え、生産職系男性キャラのクァーツォさん、女性魔法使いキャラのユウナさん、生産職系女性キャラのにゃんたまさん、私を加えた7人グループである。日によって一緒に活動したりしなかったりだけど、取り敢えずログインしてる人には何かする前に声掛けする、みたいなルールがなんとなぁーく出来上がっている。自らの居場所が存在しているようで心地良かった。

「んー、ふーかが良かったら、今日はこれから『ギルド』作ってみないか?」
「ぎるど??」
ふーかというのは私のあだ名だ。名前の風雪佳のもじりらしい。だが「ギルド」というとイマイチピンと来ない。確かにそういうものはあるらしいのだけど、作るとは一体?
「そう、仲良しグループで作る、なんのことはない集まりみたいなもんだよ。ほら、最近遊ぶメンバーが固定してきたしさ。楽しいんじゃないかなーと。」
うん。それは非常に興味深いなあ。是非流れに乗りたいところだ。
「ふふん、いいですねそれ!乗った!!」
「おうよ、そう言ってくれると思ってたぜ。」
お互い顔を突き合わせニヒヒ、と企み顔になる。
「さしあたってはどこでどーすればいいんでしょうね、鴉さん分かります?」
「ああ、ちょっと待ってな。ロイヤルシティ広場の近くにギルドオフィスがあるからそこで登録するらしい。詳しい方法は……まあ現地で確認しよう。俺も良く分かんないわ。」
「りょーかい!!私ロイティの羽持ってますよ。」
「ないす!ワープで直ぐ行けるな。」
「れっつごー!」


私と鴉さんはワープアイテム『羽』を使い、ロイヤルシティへ飛んだ。パーティリーダーが使用すれば、付近にいるパーティメンバー全員がワープできる便利な道具だ。
「広場の近くのギルドオフィス……何回もこの広場に来てますけど、記憶にないですね……」
「うん。俺もwやっぱそんなもんだよねぇ」
広場付近のギルドオフィスを二人で捜すが、程なくして
「あ、あれじゃないですか?北側のほら。」
「あれだな……ほんとに直ぐそばじゃないか。」
「あっはっは……」
目的のギルドオフィスはほんとに広場の直ぐ隣だった。レトロな赤レンガ造りの建物に、二人でお邪魔する。
「ぎるどを作りたいんですが。」
担当と思しき人に対し、ずいっと効果音が鳴りそうな感じでカウンターに身を乗り出し、用件を伝える。これを見て鴉さんは
「いやいやいや……まず落ち着け。ギルド作成の要件をお聞きしたいのです。」
「むむ。普段の若干尊大かつ半分気取ったような独特の態度である鴉さんは、普段のそれとは全く違う低姿勢で丁寧な言葉で担当の方に話しかけ、少し見直した反面、少し悔しいです。」
「ふーか、心理描写をいちいち口に出さなくていいぞ……」
「和ませようと思いましたのにw」
担当の方は、そんな私たちのやり取りに笑みを浮かべながら、これまた丁寧にギルド作成要件を説明してくれた。……なにやら私が一人だけ子供みたいじゃないか……。説明によると、ギルド作成の要件は以下の3つ。

 ①事務手数料100万ギル(たっけえ……)
 ②最低4人のギルドメンバー
 ③4人のメンバーでパーティを組んで、リーダーが担当の方に話し掛ける

だそうだ。
「ひとつも満たしてないじゃないですか!!お金どーします!あと二人どーします!」
「落ち着けてば。あと二人くらい待ってりゃ誰かくるんじゃないか?」
「お金は!!私は30万くらいしかないですよ;;」
「うむ。俺が50万程度だ……足りんな。」
「ちくしょー!」
「女の子がそんな言葉使うんじゃないよ;」
一通り二人で途方にくれた後、真面目に相談を始める。
「で、人だが。」
「いつものメンツですよねーやっぱり。今日そらっちは顔出せないって言ってましたよ。」
「リュシアは多分まだまだ来ないな。あまり早い時間には顔見せないからな。」
「リュシアさんお金持ってるかなあ;」
「持ってないだろう。一昨日くらいに武器を新調したって言ってなかったか。」
「あとにゃんたまさんとユウナさん?あの二人ならお金もってそうじゃないですか?」
「確かに持ってそうだ。だが協力してくれると思うか?」
「別の『ギルド』に所属していた訳ではなさそうでしたから、土下座すれば何とかなりませんかねw」
「ちょ、プライドまでかなぐり捨てる!?」
結局お金も人も都合出来るいい案は浮かばず、狩りに行く気力も萎えた私たちは、オフィス前でぼーっと座って、誰か他のメンバーが来るのを待つことになった。


[おばんっす!]
と、しばらくグダグダしながら待っていたら、私のフレンドチャットにメッセージが届く。よく一緒に遊ぶメンバーの一人、生産系職のクァーツォさんだ。
「お、鴉さん!クァーツォさん来た!!!」
「ん、そう言えばカツたん居たっけな、何で忘れてたんだ?」
「あははははは……鴉さんそのあだ名クァーツォさん嫌がってませんでしたっけ;;怒られますよ;」
「いやぁカツたんの名前入力し辛いんだよねぇ~」
「とりあえずここに呼び出しましょうw」
「ふーかも意外と強引だよなぁ」
[クァーツォさんこんばんは!大事な用がありますからロイティ広場に来ていただけませんか!?]
とりあえずフレンドチャットで半ば強引に呼び出す。ただクァーツォさんがお金持ってるとは思えないんですけどね。(ぉぃ
[ん?なになに?]
[ひみつwwお願いしますねw]
[分かったすぐ行くよー]
ふっふっふ、これであと一人か。
「すぐ来ますってw」
「さすがカツたんだな。ふーかの呼び出しなら断れまい。」
「はい?」
「いや、気にすんなー」


程なくしてワープで到着したクァーツォさんがくる。エンジニア風の見慣れたシルエットの人物が広場の少々離れたところに現れた。ほんとに早いなあ。パーティ羽ソロで使ってまで来たのか。
「いよっす!」
「こんばんは!」
「カツたんおばーん。早速なんだけど20万くんね?」
鴉さんが先程オフィスに行ったときの私を彷彿とさせる様な真意が伝わるのか伝わらないのか判然としないような要求をする。
「ヤダwなにに使うんだよw」
ほらやっぱりな。普通そんなもんぽんぽんくれるわけが無いです。
「ちょ;鴉さん……もっと言い方ってものがあるでしょう;;」
「しょうがねーな、ふーか頼んでみろよ。多分くれると思うぜ。」
「いやいやいや、意味分かんないですから;;いいからもう鴉さんは黙ってて下さい、私が交渉しますから!」
仲間相手にはとことんテキトーというかなんというか、鴉さんなりの冗談のつもりなんでしょうけど、分かりづらいのですよね。彼の口調的に不機嫌そうにも見えますし。
「実はギルドを作ろうっていう感じの話になりましてですね、要するにギルド解説の事務手数料と創設メンバーが足りないという話でして。」
クァーツォさん、彼は空気の読める男だ。私たちが得体の知れないやり取りをしている間も隣で静かに聞いてくれている。私は彼に向き直り、『なるべく』真面目な顔を作りながら説明する。
「うん、ギルドいいね!俺が加わればあと一人と銭20万で作れるっていうことだよね?」
「そういうことです。本来なら私たちで用意しなきゃいけないのですけど、宜しければ工面していただけますでしょうか;」
ここまで話を切り出して、クァーツォさんが難色を示す。
「すまない、メンバーとして加入するのは大歓迎なんだけど、お金の持ち合わせが無くてね;」
「なんだよカツたんww武器売れば20万くらい工面できるんじゃね?」
「おいwwww武器売ったら狩りできねーわwwww鴉さんこそ武器売ればいけるっしょ?」
「あ、俺の武器安モノだからさぁ」
「まあまあ待ってください……誰かの武器を売るネタは封印しましょう;」
結局、とりあえずあと一人+20万になり、状況が好転したとポジティブに考えることにした。そろそろログインするかも知れないにゃんたまさんとかユウナさんを当てにするしかないらしい。

     

「あ、このアバター可愛いなあ。……むむ、28万ですか……」
ギルドの件は取り敢えず保留になり、誰か他の人がログインするまで各自自由行動となった。クァーツォさんと鴉さんはなにやら二人で出掛けてしまい、私は仕方なく露店の物色をしていた。露店とは、NPCではなく、プレイヤーが自ら品物を販売できるシステムである。確か正式なシステム名は「個人商店」だったと思ったが、プレイヤー間では専ら「露店」としか呼ばれない。ゲーム内にて自身の見た目をコーディネートする「アバター」というものが存在するが、このようなアイテムは総じて高額である。例に漏れず、私が今見ていたボレロとロングスカートの組み合わせで、大人の女性な感じを演出するアバターは少々敷居が高く、私には届きそうにも無い。

(むむ、これを買ってしまってはギルドに投資する分がなくなってしまうな。現状ですら足りていないのに。仕方ない、諦めよう;)
暇でやる事のなくなった私は、かと言っても狩りに行くような気力も無く、二人と別れた地点のロイヤルシティ広場にてボーっとしていた。やりたいことも思うように出来ず、テンションが落ちてくる。あーあ、こんな時なんか気が紛れるような面白いことないかなあ。

[こんばんは~!]
(お……?)
今日はもうログアウトしようか、と思ってボーっとしていた所に、フレンドチャットが届く。普段は大抵もっと遅い時間にログインする、リュシアさんからだ。
[こんばんは!リュシアさん、今日はちょっと早めですねw]
[うん、珍しく早く来れたwみんな今の時間は狩りかな?]
[あ、私グルチャ作りますねwちょっと待ってて下さいw]
[あ、りょーかいwみんな一緒じゃないんだw]
グルチャとは、グループチャットの略で、フレンドチャットの複数版と言った所のものだ。お互いが別の場所に居る場合、誰かを経由せずとも全員に連絡を取れる便利な機能である。
【てな訳で!みなみなさま、リュシアさんがいらっしゃいましたよー!】
私が口火を切るメッセージを送ると、他の3名からも続々と返事が来た。
【ふーちゃんテンションたけーなwwリュシたんおばーんw】
【リュシアばんわー、今日は早いな。】
【二人ともこんばんはー!今日は早く来れたよぉーwみんなで狩りにいこーよw】
【んー狩り良いねーwでもどうする?さっきの話の続きする?】
【人数的にはクリアなんだけどな。ふーかはまだ広場?】
ぐ。バレてる。だってしょうがないじゃないですか、二人とも示し合わせてさっさとどこか行っちゃうし;一人で狩りするほどの気力もあんましないし。
【御明察ですわ、鴉さん。お二人がわたくしを差し置いてさっさと出掛けてしまいましたものでw】
【あ、それひどいねーw二人とも雪花さんいじめないでよw】
私がむくれて講義すると、リュシアさんが庇ってくれる。あぁなんて優しい人なんだ。
【あはは、ごめんごめん、すぐ戻るからwさっきの話進めようぜ!】
【予想に反してふーかが一番ノリノリだったからなぁ。俺はてっきりカツたんが乗り気になると思ったんだが。】
【ここで待ってますので、リュシアさんもロイヤルシティの広場に来ていただいても宜しいですか?】
【はーい、なになに?たのしー事?w】
【元々は鴉さんプレゼンツですよw】
【それは面白そうだ!なんたってクロさんだもんね!】
【思ってもいないこと言って無駄にハードルを上げるなよ……まあ、今行く。】
【ちょっと待っててね!】

「おまたせ~!」
ロイヤルシティ広場前に先程の三人プラスリュシアさんが集まってきた。首尾よくことが運ぶといいのですけど;
「さて、リュシアも来たことだし、早速だが。」
「あ!!その武器いいですね~!私もほしいな~」
「雪花ちゃんは私と職業おんなじだもんねーw」
「それ高そうだよねwリュシたんお金持ちw」
到着したリュシアさんを囲んで私とクァーツォさんがやいのやいのと話しかけるので、一向に話題が先に進まない。
「……おめぇら人の話を聞けええええ!」
「あっはっはwwwごめんなさいw」
「鴉さん怒ったなーw」
「クロさん、どうどう。」
「いいから進めるぞ……」
で、誰かがログインするたびに似たような話をしなければならないっていうのも、じれったい気がしますよね。というわけで↓↓

「ギルドいいねーw私も是非入れて!」
「ふふ、決まりですねw」
「うむ。あとは金だけだな。リュシアは武器新調したばっかだからもってないとして。うーむ」
「あ。私前の武器売ったお金持ってるよ?少しだったらw」
「まじで!?(ですか!?)」
なんと、誰よりもお金がないと思っていたリュシアさんが残りの20万を持っているという大穴が発生。なんにしてもこれで!!
「さあ結成だ!」
「ギルド名何にします!!?」
「リーダーどうすんの?」
「クロさん50万も出してくれるの??」
4人全員違うこと言ってた。全然息が合わない……ね;

まずは順繰りに処理することとなり、さしあたってギルドマスターを決めることにした。
「言いだしっぺは鴉さんですよ?」
「俺よりふーかのほうが人望あるんじゃない?」
「リュシたんが向いてるんじゃないかと思うんだよなー。戦闘に対してもかなりストイックだし。」
「クァーツォさんだとみんなの面倒見てくれそうじゃないかな?」
またもや全員が違うことを言い出した。
「いや、鴉さんは譲れませんね!一番お金出してるんだしその方がいいでしょう!」
「ふーかのほうがいいって!」
「別に何としてもリュシたん推しってわけではないけどさ……」
「いや、まあ私も……;;」
この時点で鴉さんか私に決定。でも
「私やりたくないですー!素質ないよ!向いてないよ!!鴉さんやってえええええ」
「わ、わかったよwwどんだけ嫌なんだ;」
次にギルド名を決める。
「鴉麻と愉快な仲間たち。」
「真面目に考える気ないですよねw」
「暇人連合。」
「だっせぇwwww」
「夜の森隊。」
「もう鴉さんのセンスには任せておけませんね。」
「ほんとだよね、レイヴンなんちゃら、とかがゃないかな?」
「いや、なんか武骨じゃない?俺ならそうだな、流麗の風雪佳とか……」
「私のギルドになってますから;」
その他諸々非常に難航しましたが、ギルド名「らびあん・ろーず」ギルマスター「鴉麻」に決まりました!これからますます楽しくなりそうな予感がするトゥインクルスター!!これからもよろしく!

この時はまだ、楽しい時間がずっと続くと、そう思っていました。出会いがあれば別れもあることなど、その時は微塵も考えずに。

       

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Neetsha