Neetel Inside ニートノベル
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「はい、今回の分」
 昼下がり、都内の大手チェーン展開する喫茶店の一席で男女が向かい合い座っている。
 女性はビジネススーツに、丁寧に結った長い黒髪。童顔のため新人社員のようにも見える。『相手が相手』ならば商談中に見えただろう。

 テーブルに置いた封筒を前方へ滑らせる女性に対し、男は迷彩のジャンバーにジーンズ、ウェーブする髪に無精髭。異様に日焼けしたその肌も含め、常人ならば近寄りがたい存在。
男は差し出された封筒が彼女の手から離れる前に勢いよくそれを手に取る。
「大谷、これは足元見すぎてるんじゃねえか?」
 女性をジロリと睨み、見た目通りの太い声で威嚇した後、人差し指で封筒の中身を出さず上下に動かしている。
 それに対して大谷は天を仰ぎ、表情で精一杯に呆れたと表現してみせる。

「あなたの実績はもちろん評価されてきたわ」
「きた、か」
「そう、評価されてきた、よ。いい? 川口さん。もう状況が昔と違うのよ。確かに10年前はこんな事態になって世の中大荒れだった」
「俺はそんな中、最前線でやってきた。今もそうだ」
「言ったでしょう、時代は変わったの。今は後釜もたくさんいるし、先に知名度を上げた人たちはスポンサーを付けたり、より評価されるために組織化したり」
「ああ、なるほど。歌を歌って踊ってか。全く笑えてくるぜ。木村もそれを望んでいたわけだ。で、気に入らなくてお前みたいなガキを」
「主任は今でもあなたの昔の活躍をよく話す。――少なくとも彼はあなたを誇りに思ってる」
 川口は顎肘を付きガラス窓から外の景色を眺める。そんな川口を見て大谷は何度か溜息交じりに声を掛けようとするが言葉は出なかった。

 沈黙の中、大谷は自身のバックから書類を取り出しテーブルに並べた。
「次の依頼だけど、内容を説明してもいいかしら」
川口が視線と顎先でそれに答えると大谷が続けた。
「先に担当したチームが取り逃がした相手。実際のところ、取り逃がしたというのは体のいい表現でほぼ返り討ち。三人掛かりでね」
「情けねぇ」
 舌打ちする川口を睨み付けながら大谷は続けた。
「三人の負傷具合などから継続は不可、このまま長期化すると割れている根城も変えられてしまうかも」
「どんなやつなんだ?」
「ソーシャル型、普段は擬態して暮らしてる。職を転々と変え、狩りに成功した場合は成果物を根城へ運ぶ。それもかなりの距離を移動するのが特徴ね」
「厄介なやつだな。用心深い上に賢い」

「半年以上追いかけて用意周到に計画したにも関わらず返り打ち、だからね」
 大谷は腕時計に目を向けながら続けた。
「更に詳しいことは概ね書類に記載されているから目を通しておいて。受ける受けない問わず、明日までには連絡を頂戴」
レシートを取り席を立つと大谷は思い出したように振り返り追い打ちをかける。
「器物破損は最小限、人命救助は最大限。少なくともこれは守って頂戴。マスコミだろうと一般人を殴るなんて以ての外だから」
 指差しながら指摘する大谷を川口は書類を見つめながら手を上げて見送った。

       

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