Neetel Inside ニートノベル
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 村山は社外へ出ると耳を澄ませた。それは目の前を照らす各色とともに人工音が混ざっているのを期待したわけではない。
 そもそも、音を発生させるようなことは無いことも知っている。あれはあくまで邪魔をしないようにという意味合いが強いのかもしれない。
 それよりも村山はこれから起こる事態が『まだ他人事』のエンターテイメントであるかのように期待感が強まっていた。しかし、わずかに吹く風の音以外に期待した何かは今のところ得られなかった。

 車内に戻ると地図が表示されたナビゲーションを操作し、ラジオに切り替えた。いくつかある方法の一つで、携帯電話のGPS機能を有効にし、国営のアプリケーションを実行すると指紋認証画面が表示される。親指を数秒押し当てるとラジオバンドが数字で表示された。
 国は十年前のあの日からそれに対応する法の整備が急務となった。その一つとして、彼らが活動する場合、緊急放送として特定のラジオバンドで周辺の民間人へアナウンスされる。この様に非常に回りくどい公開については賛否両論あるが、事前に察知されることを警戒した上で、なるべく多くの人たちに配慮した有効策であるという。

 ラジオを調整し終えると村山はコーヒーを片手に耳を傾けた。

「現在、周辺で討伐行動が開始されています。周辺の民間人は外出を控えて下さい。また、周囲に異常を感じた場合、これから申し上げるダイヤルにご連絡ください」

 何度か繰り返し聞いた後、村山は少しがっかりした。以前防災訓練のテスト放送として流れていたのを友人と聞いたことがあったが、内容は全く変わらず新鮮味に欠けた。彼の好奇心は収まるどころか、更に高まっていく。
アナウンスされている番号を控え、電話を掛けてみる。が、話し中。掛け直しても同様であった。
 
 期待感だけが置き去りに高まっていく中、村山はお役所仕事だと憤慨した。ハンドルを握り指でノックする。いよいよ出来ることが限られてくる中、彼はその行動を取るべきか悩んでいた。

       

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