雪が深々と降り積もる中、川口は徒歩で、恐らく道であろう木々の間を突き進む。標的に察知されないよう、複雑に移動することもあるが、そんな行為自体、今回は意味がないだろうと川口は思う。
どれほど進んだか、坂道がやがて平坦になったころ前方に灯りが見えた。古いコテージ。窓から漏れる灯りは温かみがある。屋根の煙突からは降り積もる雪を押しのけるように暖気が立ち昇る。
気配を伺うまでもなく、あそこに標的がいることを川口は確信した。
問題はどう仕掛けるか、川口は悩んだ。これほど堂々とされると逆にやり難かった。こんな時に川口が取る行動は一つ。
正面玄関に立つ。耳元の無線機に内蔵されているGPS、位置情報を見ているのか大谷が耳元で何か騒いでいる。
本来彼らが活動する際、可能な限り五感を研ぎ澄ませるよう配慮される。まして片耳を塞ぐヘッドセットなど装着しない。川口の場合作戦中も取り付けるのは『首輪』のような役割だが、ほとんどの場合、意味を成さない。
ドアのノック音でも聞かせてやれば無線機が爆発するんじゃないかと川口は頭の中でほくそ笑んだ。が、今回は無視するだけでそれは控えた。
一旦下がり助走分の距離を確保したところで、川口にとって予想もしないことが起きた。
「川口さん! 良かった。この雪だから道に迷ったのかと思ってたところ」
ドアが勝手に開いたかと思うと、子供が嬉しそうに顔を覗かせ川口を出迎えた。
「寒かったでしょう? 中に入って」
ドアは一旦閉まり、取り残された川口は立ち尽くす。
それは呆気に取られていた訳ではない。川口の頭の中はかつてないほど集中し、考察していた。そして一瞬で『こいつはヤバい』という結論に行き着く。
「何が星2だ。遊びに付き合ってやるよ化け物」
そう呟くと、川口はドアをゆっくりと開け、中に入った。