雪は止み、東の空がわずかに明るくなり始めた頃にヘリが作戦本部付近に到着した。
年の頃40前後、短髪でスーツを着た男ともう一人、大谷が降りてくる。男は雪景色に不似合いな軽装であることから余程急いでいたことが伺える。警戒隊に車の後部座席へ搭乗を促されるも二人の表情は険しいままだった。
「申し訳ありません。私がもっと」
「川口とは当時から喧嘩ばかりしていた」
大谷の言葉に被せるように男は車の窓から流れる景色を見ながら話した。
「俺が右と言えばあいつは左、青と言えば赤、電車と言えば飛行機。全く滅茶苦茶なやつだ」
大谷は俯いたまま黙っていたが息遣いは震えていた。
「だが、あいつには他の奴にはない太い信念がある。正義のヒーローに相応しい」
「主任が引き続き彼の担当であればこんなことには――」
「それは違う。俺がお前を選んだのは、俺に似ていたからだ。お前が何か失敗したなら、それは俺でも同じように失敗していたさ」
「ですが」
「それに大事なのはこれからをどうしていくか、だ」
沈黙する二人を乗せた車は古いコテージの前に到着した。
周囲を封鎖する警戒隊の一人がスーツの男へ近づく。
「封鎖中の間、特に変わったことはありませんでした」
「中の様子は」
「指示通り、そのままの状態です。地下倉庫に標的の死体を発見。後は―――」
口を閉ざした警戒隊員に対してスーツの男は頷くと、玄関に近づく。後から付いてくる大谷を掌で抑制しドアを開け、一人で室内へと入った。
中は暖炉の火がまだ残っているため、十分に暖かい。しかし、この室内で激しい戦闘があったことも伺えた。家具は壊れ、食器類は割れ飛び散っている。
柱が数本折れている先にある、一際大きな柱を背に川口が座り込んでいた。視線は一点だけを見つめ廃人のように見える。
「川口、俺だ。木村だ分かるか?」
木村は川口と目線の高さが合うようにしゃがみ、肩をそっとゆすった。視点の定まらない川口はやっと木村の目を見る。
無言のままゆっくりと木村の胸倉を掴み、それを揺さぶりながら唇を噛みしめている。しかし、すぐに視線が元の位置へ戻るとその手も無気力に放した。
木村は川口の視線の先を見なかった。突入した警戒隊から既に報告は受けている。
成人男性が一人死亡していること。それに被さるように『人間』の子供が死亡していること。