Neetel Inside ニートノベル
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 霞が関にヒーロー達を支援する異生物研究所という施設がある。名前は当初、モンスター達の発生に対応したのは国防の役割であり、その生態を研究することに重きを置いて建設、名付けられた。やがてヒーローの存在が明確となってからは徐々にその活動内容は大きくなり、国家の名の元に研究所総括の情報収集員、モンスター警戒隊、ヒーロー支援員などが新たに編成されていくことになる。結果、民間の者達が率先して『ヒーロー本部』と呼ぶようになり、内外いずれも本来の名で呼ばれることは少なくなった。

 モンスターの生態調査は討伐後に遺体の状態から行う。設立当初の目的を遂行している研究員の多くは『通常の人間』で構成されているためだ。
 また、戦闘時に負傷したヒーロー達の医療と、遺体解剖による死因調査も当研究所で行われている。
 
「エーコ。お願いします」
 透き通るような男性の声が、白く狭く密閉されたヒーローの遺体安置所内に反響する。
 地下100メートル弱。セキュリティが幾重にも施されたはずのこの場所に、誰にも気付かれることなく3人はいた。
 
 真ん中に立つ男は長身で肩に掛かる長い黒髪。キャソックを身に着け、黒のソフトハットにマフラー。十分特徴的だが、なによりもこの男を証拠として提出すれば、美の神が存在することを証明出来るのではないかと思わせる程に美しい。
 男の左右に立つエーコともう一人。表情こそ男に似ている双子の様で、二人とも小学生に上がるくらいだろうか、幼く小さい。エーコの二つ結いの髪、長袖黒のワンピース。もう一人の少し長めのボブヘアとサスペンダーで止めた半ズボンのフォーマルスーツ。これらを入れ替えてしまえば見分けはつかない。
 
 声を掛けられたエーコはただ男を見上げる。二人はしばし無表情で見つめ合った後に、男が閃いたようにポンッと手を叩き、脇に挟んでいた黒色の金細工が施されたステッキを壁に立てかける。そして両手を広げて迎え入れる姿勢を取ると、エーコが飛びついた。
 
 「向きが逆です」
 
 しばし抱きかかえた後、男は呟く。
 一旦エーコを降ろし、背後から脇を持ち上げる。3段からなるスライド式の引き出しの内、『2段目』が既に一つ開いている。先に男がわずかに開けた保護袋のジッパーを手で広げ、中に収納された遺体の額にエーコが口づけをする。

男がエーコを降ろすとほぼ同時に、中の遺体がジッパーを両手で広げ、上半身を起こした。

「こんなに待たされるなんて聞いてませんでしたよ! 黒川さん」
コテージで食卓を用意していた少年が中央の男、黒川に対して声を上げる。

       

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