七歳まで、僕は山梨県の団地に住んでいた。団地は一号棟から五号棟まであって、固く煮しめられた豆腐のように並んでいた。
 裏地には小さな公園があった。公園の隅に、大きな木が一本植えられていた。心優しい年老いた巨人が二千年前に腰掛けたみたいに、穏やかに曲がった樹だった。その周りにはシロツメクサが群生していた。
 僕の母親は、毎年四月になると、僕をそこに連れて行った。柔らかい草の上に僕を座らせた。シロツメクサの葉は、しっとりと厚く、人差し指と親指でつまんでこすると、ちょっとツンとした青臭さのある、深緑色の塊になった。
 彼女は僕のために、シロツメクサを二十本程度摘んで、花の冠を作った。シロツメクサの茎は、どれもまだシャキッとしていて、まるで、たくさんの薄い緑の針が、そっと絹の保護剤を纏っているように見えた。彼女は僕の頭に、その冠を静かに載せて微笑んだ。そして僕の写真を、毎年、一枚だけ撮った。
 家はひどく貧乏で、僕は幼稚園にも、保育園にも入れてもらえなかった。我が家にあった価値のあるものといえば、彼女が使っていた、その――透明なプラスチックの、フラッシュさえ無い――小さなカメラだけだった。
 僕は毎年、「いつになったら写真になるの?」と尋ねた。母親は小さく笑うだけだった。