Neetel Inside 文芸新都
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 なあ、感傷にひたるのはおよしよ、馬鹿げてるぜ。だって俺はもう二十二だぜ? はっ、きっと二十歳まで童貞だったせいだろうな。いわゆる『純真無垢』ってのを持ってさえいればグーグルかアップルかハーバードに行けると思ってたんだろ? 馬鹿が。その間に因数分解の一つでも覚えとくべきだったな。ざまあ無いぜ。通信簿の五の数を増やしときゃ(マジで)幸せになれたに違いないんだよな。よしんばそうじゃなかったとしても、今みたいな状況になっちゃいないことはまずもって間違いがない。
 僕は電気ケトルでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れて飲み干した。相変わらず死ぬほど寒い。カレンダーを見ると金曜日だった。彼女に言われたのは日曜日だった。
 僕は夕方まで寝て、夜から歩いて五分のコンビニの深夜バイトに出た。
 店長は近所の人妻と逢引きしていた。ぶっ飛んで眉毛の濃い、はっきりした顔の男だった。コンビニの店長ということを除けば申し分なかった。彼は「おい、笛吹、ぜってえ休憩室来んなよ」と言って、僕の手に五千円を握らせた。その気になりゃあんたのナニも握ってやるぜ、と言いそうになったが、貴重な資金源がなくなるのはどう考えてもまずかった。
 僕はそれから五時間、『逢引きしている店長と愛人を巨大なミキサーに掛けて合い挽き肉として販売する』という内容の小説のプロットを練っていた。偶発的に、土方のお兄ちゃんが「な、ちくわと、つくねと……」とおでんを注文し始めて、僕の中で『合い挽き肉の練り物』『逢引き』『プロットを練る』『愛人と寝る』などの文章がとめどなく溢れてきた。だいたいそういう一日を過ごした。
 土曜日も同じように過ごした。夕方まで寝て、深夜のコンビニバイトをする、という流れだ。なんとも素晴らしい。タバコを買いに来た高校生に向かって年齢確認をするという嫌がらせをして気分をすっきりさせた。まともな男はピアニッシモを買わねえ。
 ――いや、女装用具にね。ヤマトタケルノミコト。平成の伊勢。威勢よく異性に。一斉蜂起のその後は? 後は野となれ山となれ。能登半島に都を移して……しまったな、移民が……。

       

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