Neetel Inside 文芸新都
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 ノートリアス。いい言葉だ。フェイマスよりもいい。母音字が数えやすいだろう?
 まあ、ノートリアスという言葉の良さとは裏腹に、その時に僕が――冗談半分で――実名のソーシャルメディアに発表した小説がよくなかった。顔も知らない周りの人から言わせれば、タイトルがよくなかったらしい。こんな題名だ。

『嘆きの壁の隣に古紙回収ボックスを設けて財産を築いたユダヤ人の生涯』

 いい題だ。力強さと鮮烈さがある。現代的ながらも、どことなく十九世紀のフランス哲学論文のような荘厳さを感じる。僕はこのタイトルを気に入っている。
 しかし、周りの評判はすこぶる悪かった。確かに、小説の内容はちょっと読むに耐えないものだった――具体的には、タイトル以外の内容が書いていないという致命的な欠点があった――が、それでもタイトルは気に入っていた。僕には君たちが叫ぶのが聞こえる。《お前は結局、一瞬だけ目立っただけの、新作のスニーカーみたいなもんじゃないか》、と。それはそうかもしれない。いや、その実、そうだったのだが。その通り。結局は、僕も上辺の新規性だけを狙っていたということになる。結局は僕も何らかの形であげつらわれ、肩書をつけられ、名前を貰いたかったのだ。タイトルだってそれを狙ってつけたのだ。多くの人が僕を叩くようにだ! こんなタイトルがなんだ。くそくらえ! 題名までも俗物じみている! 死にさらせ!
 これで僕も『一貫性』とやらを失ったことになるのだろうか?
 本題に戻ろう……。

       

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