Neetel Inside 文芸新都
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「変じゃない」
 僕はなんとか声を絞り出した。シュルレアリスム。破滅的な夢だ。きっと変な夢なんだろう。誰からも理解されない夢だ。タラララッ、タラララッと笹崎はテーブルを四本の指で叩いた。
「どんな夢だって理由があんのさ。見るに足る理由がね。誰もそれを信じちゃいないが、信じちゃいないものがこの世に存在しないわけじゃない」
「難しいこと知ってんだね」
 僕は黙った。それから、スマートフォンに向き直って、予約を進めた。なんて返せばいいんだろう。こんなことを言われたことはなかった。
「どうすんのよ。これから」
 彼女は、トレーやら皿やらを僕のに重ねた。僕は肩をすくめた。
「僕らはその『愛すべき芋虫さん』を解放してやろうじゃないか。どこにいるか分からんけどね。貯金は三十万あるんだ。さて、笹崎さん、どこに行こうか?」
 彼女はじっくり考えてから、おもむろに切り出した。
「……あんたが育ったところ。そこにいそうな気がする」
 間。
 あの場所にいるのだろうか。僕は考えた。あの場所に、笹崎の言う、芋虫男が住んでいるのだろうか。そんなことはないのだ。結局、夢は夢でしか無い。キング牧師は死んじまった。シャヘラザードはうまくやったよな。でも、死なないためだけに生きるってのも嫌なもんだよな。包帯。ぐるぐる巻きにされてさ。ジョニーはどこに行ったんだっけ。
 僕は考えた。そして、タイムズのレンタカーを乗り捨てワンウェイで予約した。受け取り時刻までまだ時間があった。僕は笹崎を促した。
「立てよ、服、買いに行くぞ。山梨まで、そんなにかからんさ」
 僕は考えた。笹崎がそばに座っていたい男について。崇められた男について。
 僕たちは何を喋るのだろう。囁くのだろう。囁き。どこか懐かしい響き。笹崎と似ているのだ。
 音だけが。

       

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