Neetel Inside 文芸新都
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  なんとかとかいうミュージシャンのなんとかとかいうアルバムを二周半したところで、僕たちは高速を降りた。三千円ちょっと。まあそんなもんだ。勝沼のインターチェンジ。慣性力がぐーっと掛かって、またすっと抜けた。カーブの中心には、雨か何かでしっとりと濡れた松が、冬の光を浴びてくすくすとけぶっていた。
 僕は何だか腹が減ってきた。彼女に訊いた。
「腹がぶったまげて減ってんだよ」
「二時間」
「は?」
「あんた、二時間、ずっと一言もしゃべんなかった」
 そうかもしれない。でも、これでも結構楽しくやってたんだぜ。僕は話の種がないし、才能には芽が出ない。そんなこと無いって否定してディナイくんねえかな。これは冗談でない。
「だから? 女の子って、しゃべんないと腹が減らねえのか。じゃあ喋ってろよ」
「そういう意味じゃない」
 あっそ、と僕は言って、適当に車を流し始めた。彼女はそこら辺にぽつんと立っていたラーメン屋に行こうといった。よって僕はそこに車を止めた。
 人が住み着く前から存在したみたいな、小さなラーメン屋だった。のぼりはすっかり色あせていたし、看板には『ラーメン』としか書いていなかった。何より、入り口のガラス戸はひどく砂が詰まっていた。
 僕たちは店内に入った。
 カウンター席が少し。テーブルが四つ。先客は二人しかいない。金髪の若い男と、何だか怪しげな老婆だった。若い男の方はわかりやすく荒れていた。こういうのは好感が持てる。どこに交換に出しても恥ずかしくない。彼はスマートフォンをいじりながら、カウンター席を三つ分使って、寝そべるようにして何か(少なくとも食い物)を待っていた。老婆の方は、黒尽くめの服を着込んでいた。フェイクファーと思しきもこもこをテーブルの椅子の背にかけて、神経質そうに煙草の灰を落としている。
「二人で」
 化粧もしていない、中年の女性が、投げやりに「テーブル」とだけ言って、それから店主が「らっしゃあ」と呟いた。テーブル。らっしゃあ。ひとつの詩だ。改行を多めにとって。タイトルはできるだけすっきりさせたほうがいい。いっそないほうがいいな。こうだ。

       

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