Neetel Inside 文芸新都
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彼女の靴を履かせてくれ
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 段々と全てが戻っていった。こいつは本当にすごく辛いことだった。新聞屋の勧誘に罵声を浴びせた。エホバの証人相手に進化論を十五分間喋り倒した。食欲がなくなっていった。僕はあの子の事を忘れていった。あの子の声や、あの子の名前や、あの子の姿を忘れていった。テレビの中では胃腸の弱い総理大臣が叫び、議長の席が囲まれ、中国の奥地では子供が別の子供を茹でて食って、その子供と両親が殺され、ついでにその村の全員がしょっぴかれ、EUの調査によって、子供釜茹でなんて嘘も嘘だということがそれとなく伝えられた。
 あいつは真面目になんて名前だっけ。アメリカは忙しすぎた。フリーメイソンは、なんだかやる気なく、散発的にユーフォーを飛ばしては、頭のおかしいカソリックをもっとおかしくさせていた。その子供がついにブチ切れて、両親をぶっ殺した後に、納屋で人の死体の干物を作ったという罪状でとっ捕まっていた。僕は何かに名前をつけたことがあるんだっけ。アホな右翼のガキがネットで北朝鮮と韓国を混同して、はからずも統一コリアへの理解を示すことになっていた。当然そいつの住所はばらまかれ、伊藤海志くんは中卒で世間に放り出された。僕の隣りに住むトルコ人達は時折、日頃の運動不足を解消するために、自分の子供をぶん殴っていた。上の階にはロリコンが住んでいて、毎日三時頃に外に出ると、締め切られたカーテンの隙間に望遠鏡らしくものがちらっと見えた。
 僕は変わりなく過ごしている。前と変わりなく。

       

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Neetsha