Neetel Inside 文芸新都
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 あの時と同じ場所でチュー子は同じメシを頼みやがった。チキンのトマトソースジェノベーゼ定食。俺はクラブサンドを頼んだ。店員は浮かない顔をして持ってきた。彼女は露出狂みたいな服。俳句を考えた。八月のクラブサンドのへへ、へへへ。盗作ですよ。マジで超ごめん。五十五万円で手を打ってよ。
「あのさ、大丈夫?」
「洋画だと、『自分の心配をしろ』っていうシーンだ。テーブルの下に銃、スーツケースにはコカイン」
 間。気詰まりな沈黙だ。彼女は紙ナプキンでコップを包んだ。
「あれ、嘘だったよ」
「どれ?」
「サカシタさんがさ、上手く口聞いてくれるってやつ」
 正直言って俺は興味がマジでねえから、ナイフに映った自分を見くさってた。歪んでんのはどっちだ?
「全部嘘だったの、全部ね。あの人がさ、自分の奥さんを、離婚してんだけど、その……経済的にね……奥さんの、あんたの、いや、笛吹くんの」
「剣をこの胸にまっすぐ差しやがれアマ」
「は?」
「『単刀直入』」
 隣で苛ついたサラリーマンが塩の瓶を弄くり倒しながら奥さんに弁解していた。今忙しくってさ。塩を回すのに。人事部なんだろ。
「サカシタさんに会いに行ってよ。どうしてもいいから。お金は払うよ。咲ちゃんがどこいるかもさ……」
「会いに行くんだな」
「会いに」
 彼女はそう言って、名刺サイズの紙と封筒を差し出した。またカネだ。どうしようもなくこの世はカネだった。俺はそれを拝受して、そのまま店を出た。彼女は気がついたらどっかに消え失せていた。多分俺が「消え失せろ」と言ったからだ。どっかから浮浪者の尿の臭いがすげえなあ、と思ったら近くにいやがった。俺はそいつを砂漠のワシよろしく叩きのめしてやろうかと思ったが、何かやる気がぶっ飛んで消え失せちまった。ひどく厚い財布から五万円だして、そいつにやった。大五郎でも買えよ。ちゃんと生きてくれよ。
 サカシタさんなるクソちんぽ野郎は勝どき駅にすぐ近え馬鹿みたいな埋立地でカネを稼いでいるらしかった。俺はそれの近くの中学校を調べた。理由はねえよ。ロリコンに用はありません。へへ。
 三日が経った。四時になった。クソみてえに暑い夕方だった。Tシャツが汗で張り付いた。蚊が耳元を飛んだ。どっかの蝉が泣き疲れて死んだ。
 俺は家を出た。髪をモヒカンにも剃れねえ。昔、腕利きの殺し屋だったこともねえ。嘘はつけねえし、大統領候補を殺したいわけでもねえ。でも俺は行くんだぜ。カッコいいら?
 真面目な話。

       

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