僕は水死体を指差す。あれが僕の
ふざけんじゃ無いよ。遠くに行っちまってさ。でも俺がそれを見るこた無えんだろうな。会社員が出てくる。僕の服を汗が伝って、俺の姿をみんなが胡散臭そうに見やがってよ、ちょっとずつ俺はどっかに押し込められてよ。俺の姿がさ。夏の夜が迫っている。紺色の空は何のモチーフなんだっけ? 視線の圧力が俺を押しやがってさ。
気がつきゃ、すすきが生えた空き地。橋の袂に抱かれて。倉庫が何個も並んでいる。海に面した倉庫だ。誰も使っていない。荒れ放題の捨て放題。
僕は釘の入った圧力鍋を持って、倉庫の裏に隠れた。
じめじめした風が吹いた。
あと少し時間があんだろ。僕は思う。なあ、こんな話を聞きたくねえかな。ちょっとアホみてえな話なんだけど、俺としてはマジでガチ真面目にぶっ飛んで話してえんだよ。
誰も笹崎のことなんて覚えてねえんだろうな。死んだらわざとらしく悲しむのさ。ちょっと話し始めよう。長いかもしんねえ。でも必ずここに戻ってくるんだ。時間は閉じて、無限にループする。まき上げられた時間の中に彼女は住んでいる。「あ?」という、あの疑問符をぎこちなく、浮かべて。記憶はどんどん抽象的になる。いつもここに帰ってくる。だから苦しみはない。だから安心できる。
だからずっと話したくなる。