Neetel Inside ニートノベル
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斉藤武雄の忘備録
その2

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 Ⅱ

 ニートで、ひきこもりで、こんな現状を何とかしなきゃいけないことくらいは、当事者たる僕が一番知っていた。だけど僕はどうすることもできない。なぜなら僕には未来を変える力も、第一未来を変える気力もないからだ。
 何か軸があれば頑張れるのかもしれないけれど、僕には軸なんてものはないし、だったら恋人や気のおける友達がいれば頑張れるのかもしれないけれど、僕にはそのどちらもいない。正確には、「恋人」が生まれてこの方いたことがない。友達は、いるけれど、もう数年も連絡を取っていないし、それにそこまで親しい仲でもなかったから、もう向こうは僕のことを友達と思っていないのかもしれない。
 そう、僕には大して何もないのだ。僕の社会関係資本はゼロといってもいいのかもしれない。でも、それほど苦労せずに、毎日ひきこもりながら寝起きして、ご飯を食べられるのは、きっと僕の家が半端に恵まれているからだ。だから僕にはひきこもり兼ニートを脱出する積極的な理由がないのかもしれない。もちろん、何とかしなければならない、どうにかしたいという想いはあるものの、あらゆる劣等感に苛まされているせいなのかどうかはわからないけれど、僕には僕のことがどうにもできないとしか感じることができない。
 僕が僕のことを何とかできなければ、一体誰が僕のことを何とかしてくれるのだろうか。だけど、そんな善意あふれる善良な一般市民が、僕の目の前に現れてくれる確率は、恐らくとてつもなく低い。だから僕は僕のことを何とかしてやらなければならない。この特に好きなパーツがあるわけでもない体を、身の振り方の面倒を、僕がみなければ一体誰がみてあげられるというのだろうか。
 そう考えれば、どうにかしてやらないと、という気がわくけれど、実際問題そんな行動理由で僕がどうにかされることはない。というか、そんな行動理由で何らかの行動が実行に移されることはないのだ。僕はとても疑い深くて、出不精なのだ。半ば強引に誰かに引っ張ってもらわないと、きっと僕は何をどうすることもできないのだろうと思う。……それは、最近気付いたことだけど。
 閑話休題。PCのfacebookで小中高の同級生らの活躍ぶりをみていると、羨ましくて羨ましくて殺意しか起きない。何でだ、どうしてだ、あいつらだけ楽しそうにしやがって、恋人と仲睦まじくやりやがって、死ね、さっさと死んじまえ。妬ましい羨ましい妬ましい羨ましい、だけどやっぱり羨ましい。
 どうしてだ、どうしてあいつらばかり。というか、何でそれが僕じゃないんだ。確かに僕は人付き合いも人生の歩み方も、まあ不器用ではあったけれど、でも一応頑張ってはいたはずだ。だけど、今の僕はどうだ? 何とかなっていないどころか、ひきこもり兼ニートで友達も彼女もいないという一番なりたくないと妄想していた自分になったじゃないか。どうしてだ。どうして、どうして……。
 報われたい、というよりは現状を何とかしたいのだ。いや、勿論報われたいし、彼女だって欲しいけれど。でも、どうにもならないのだ。
 どうにかしようとして、自己啓発に走った時期が数か月前にあったけれど、僕はどうにもならなかった。自己啓発に頼っていながら、僕は結局その数か月の間で、バイトのweb応募すらできなかった。そんな自分が、たかだがバイトのweb応募で恐れおののく自分が、惨めで惨めで、悔しくて悔しくてたまらなかった。どうして、どうしてなのだ。現状を変えなければならないというのは、頭ではわかっているし、どうにかしたいと切に願っている自分もいるのに、どうにもならなかったのだ。
 それが悔しくて悔しくて、そんな自分が惨めにみえてもしょうがなかった。バイトのweb応募くらい、ボタンを押すだけだから今すぐにでもできることなのに、それが数か月経ってもできなかたのだ。
 僕はひどく落ち込んだ。それに気付いた日の夜は一睡もできなかった。この先、僕は一体どうするつもりなんだろうと思う。どうにかなってくれればよいのだが。
 そう綴りながら、斉藤武雄はノートPCをぱたんと閉め、眠りについた。どれほど深く眠れるかどうかはわからないけれど、どうか浅い眠りではありませんように。

       

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