Neetel Inside 文芸新都
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水月
暗い色は私用

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本日の創作テーマ/モチーフ/お題は、

『天邪鬼』『の靴』
#本日の創作テーマモチーフお題
https://shindanmaker.com/594972




『暗い色は私用』




 私には双子の妹がいる。彼女と私は共に育ち、見た目はそっくりだった。背格好も顔も同じ、思考回路も似通っていて、二人でいつも一緒に居たから、いつもどっちがどっちなのか、周りを振り回していた。けれども、段々とお互いがお互いを意識するように変化が生じてきた。最初は両親が私たちに与える衣服を色違いにし始めたことからである。私は青色、彼女は赤色、私は白色、彼女は黒色、両親が私たちを見分けれないなんてことは無かったと信じたいが、私たちは違う色を互いに身に着けた。同じデザインの色違い、二人共違いが生まれた事に最初は戸惑った。幼稚園でも一々洋服に書かれた名前を確認しなくても済み便利だと評判で、私と妹を見分けやすくなったらしい。そしていつのまに彼女は私をお姉ちゃんと呼ぶようになった。私は彼女の事は以前と同じく名前で呼んでいた。
 中学校に上がると彼女は校則違反の染髪をして髪を明るくし、スカートを短くし、学校指定ではない鞄を持ち歩いた。私はそれと対照的に黒髪を伸ばし、スカートを膝丈にして、鞄には何も付けなかった。二人共少しずつ変な距離感を作るようになっていった。仲が悪いわけではない、だけど意識的に違うことをし始めた。妹は明るく、華やかで、私は文化的で、落ち着いている方。髪を染めて、薄く化粧をして、派手な友達関係を持っているのが妹、芋臭く、眼鏡をかけて、文化部でそれなりに楽しんでいるのが私。住む世界が少しずつ違っていったのだ。陸上動物と水中生物、淡水魚と海水魚、住み分けは進んでいった。わざと合わないように、一緒にならないように、重ならないように、二人が二人の別の人間であるように、私たちは心血を注いだ。 
 その後、共に高校進学となり、ようやく別の学校となった。違う高校制服、違う指定鞄、それぞれ違う体操服やら違う定期。きっと彼女も私も双子の兄弟が居ることは友達に話さないのだろう、そういうのは何となくわかる。別にテレパシーとかそういうものではなく、シンクロというか、わからない共鳴だ。
 高校入学前に妹と二人とも革靴を買いに行った。靴についてはお互いに高校指定が無かったので、好きなものを選べた。私たちはお互いに別の友達と革靴を買いに行き、二人共同じメーカーで同じデザインの茶色の革靴を買って戻ってきた。どうして示し合わせてもいないのに、全く違う制服で全く違う服装の好みで同じ靴になってしまうのだろう。違う靴屋の紙袋の中は全く同じ箱と同じ革靴で、私たちは暫くお互いの靴を見合って黙りこくってしまった。玄関に靴を並べようと揃った二人を強張った笑顔が包む。
「まさか比奈と同じの買っちゃうとはね」
「えーこれ可愛いよねー買っちゃうよー」
「はぁ、どうしようかな」
 靴に名前を書くなんて選択肢は無い、もう高校生なのだから。どちらかが譲らなければならないのだ。それは暗黙のルールだ。そして、もう一つ暗黙のルールがある。
「わかったわかった、私色違いにしてくる」
「いいのー、お姉ちゃんありがとー」
 お姉ちゃんが譲る、それが暗黙のルールだ。たった数十分でも私はお姉ちゃんなのだから。 
 私は紙袋を抱えて店に戻り、同じデザインの黒色の革靴に変えてきた。昨日の今日なので、交換は案外すんなりといって、私の手元には重苦しい黒色の革靴が戻ってきた。店員の、そちらの色もお似合いですよ、という言葉は左耳から右耳に抜けていった。家に戻って試しに靴を履く、やはり妹の方があの靴は似合っている。良かった、良かったのだ。靴の踵をとんとんと鳴らして足を足枷の中に入れた。
「やっぱり私は黒の方が似合うよね」(黒なんて葬儀の色だ)
「お姉ちゃんの制服進学校のだから絶対黒の方がいいよー」
「うん、こっちの方が良かった」(なんでいつもいつも私が譲らなきゃならないの)
 錘は口を通らずに胃に落ちて体内を通って足元の黒に溜まっていくようだ。

       

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