監禁されて数日目の朝を迎えた。
ネットもパソコンもスマホも無しで僕は精神的にかなりダメージを受けていた。
何よりも孤独がしんどい。毎朝食事を持ってきてくれる静香さんと会話するだけ。
彼女も妹の暴走を止められないらしい。ここの鍵も持っていない。
何より綾香の稼ぎで暮らしている身である。彼女の言うことは絶対なのである。
こりゃ綾香の性格も歪むわけだ。
夕方に綾香が来た。今日も胡散臭いローマ字Tシャツにスウェットである。
少し汗をかいた痕がある。仕事帰りだろうか。
僕の牢屋の前で立ち止まる。
「あらあら、まだこんなところにいたの?」
「ああ、誰かさんのおかげでね」
彼女はケタケタと笑う。
「脱出しようともしてないくせに」
僕はまさかと思い扉をガタガタと揺らす。当然空かない。
窓にはめられた鉄格子を揺らす。ぴくりともしない。
俺はため息をつく。
「何とか言ったらどうなの」
「いつになったら気が済む?ここで裸踊りでもやればいいのか?」
彼女は顔を赤くする。
「何よそれ。馬鹿にしてるの?」
ほう、と俺は意外に思った。こんな女にも恥らう感情は残っていたのだ。
「そんな下らない事を言ってるうちは出せないわね」
「仕事はどうだった?今放映中のあのアニメの声でも当ててきたのか?」
「そう。また先輩のOさんにセクハラまがいのことされたわ」
「あーあれ噂どおりだったのか。何で干されないのかな」
「まあ実力もそうだけど、親の政治的影響力とか何とか…」
「逆らえないわけだ」
「世の中は甘くないのよ。あんたが思ってるほどににはね」
「その上から目線何なんだ?確かに俺はニートだったけど。この街ではきちんと仕事をこなして報酬を貰ってる身なんだけど」
「ただの消費豚で余計に貰った小遣いはメイド喫茶に注ぎ込んでる癖に生意気ね」
「!?何でそれを知っている」
少し間がある。
「えっと、あなたを捕まえてから調べたのよ。素行調査ね」
「ふーん…」
「まだ反抗の色を見せるなんて、反省がないみたいね。今しばらくここで」
「なあ、腹減ったんだけど」
彼女はわざとらしくため息をつく。
「しょうがないわ。静香に今持ってこさせるから」
「あとお姉さんをそんな顎で使うのもよくないぞ」
「うるさい。あんたは私のオカンか?」
「そうだけど」
俺はキレ気味に言い放つ。
彼女はこれみよがしに舌打ちして出て行った。