Neetel Inside 文芸新都
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 部隊の編成に取り掛かった。


 しかし、軍と呼べるほどになるには、まだまだだった。

 戦に使えそうな者は、とにかく練兵である。それ以外の者は、後方支援に回ることになる。

 ボルドーは、執務の部屋にサップを呼んだ。
「お呼びですか」
 ボルドーは、入ってきたサップと目を合わせる。
「サップ……お前に諜報の部隊を指揮してもらいたい」
「諜報ですか」
「本隊から離れて、都の周辺に張り付いて、情報を集める部隊だ」
 ボルドーが言う。
「分かりました」
 あっさりと、サップが言った。
「本当に、分かったのか?」
「ええ」
「その部隊は、戦には加わらない。裏の任務だけをこなす部隊だ。当然、表向きに評価をされることはなく、名が残らずに死んでしまう可能性もあるのだぞ」
「わざわざ脅すのですか?」
 サップが、苦笑混じりに言う。
「いや、本当に分かっているのかと思ってな。やけにあっさり承諾したので」
「私は、ボルドー様の戦を見てきました。ボルドー様が、いかに情報に重きを置いているのかも理解しているつもりです。むしろ、その任務を私に指名していただいたことを、嬉しく思います」
「そうか……」
 息を一つ。
「では、任せる」
「はっ」
 サップが、声を上げた。
「すまないな。だが、お前以外に頼める者がいない。戦の裏側まで理解しているのは、今はお前だけなのだ」
「はい」
「では、部隊に入れたい者は、お前自身が選んで連れて行け。一ヶ月以内に、部隊が機能するようにするのだ。こっちに伝える情報はお前が選別しろ。後は定期的に、わしに連絡を回すようにするのだ。現場での判断は、わしの命令が無い限り、お前に任せる」
「謀略や、その類のことはしなくてもいいのですか?」
「今はいい。組織が大きくなってから、諜略に特化した部隊を新たに編成するつもりだ」
「分かりました」
 サップが、一歩下がる。
「では、行って参ります」
 頭を下げて、部屋を出ていった。

 それを見送って、しばらくしてから、ボルドーは腰を上げた。





 ボルドーは、練兵を見て回っていた。
 まずは、一人一人の力量を見定める。それから、それぞれに合った訓練をしたほうがいい。
 グレイもグラシアも、個人の武力は群を抜いているとはいえ、軍事に携わった経験が、ほとんどないのだ。練兵など、ほとんど分からないだろう。自分が、やるしかないと思っている。
 とにかく、部隊を指揮できる人間が、ある程度欲しかった。今は、十傑の軍にいた者を何人か小隊長のようなものをやらせてはいる。しかし、これはと思うような力量の者は、出てこない。
 装備も、続々と揃いつつあった。これも、グラシアの資金に頼りっぱなしだが、後数日で、一通りが揃うだろう。

 練兵の様子を眺めていると、門兵の担当の者が走ってきた。
「ボルドー殿。一人の男が、ボルドー殿に会いたいと言っているのですが」
 ボルドーは、首を傾げた。
「何故わざわざ報告する? 通常の登用手順に回せばよかろう」
「いえ、それが、ボルドー殿と知り合いだと言っているので……」
「どんな者だ?」
「若い男で、青い髪色をしています」
 ああ、とボルドーは思った。
「構わん。ここに通せ」

 少しして、広場の端を歩いて、こちらに向かってくる人影があった。
 恐縮するように、背中を曲げながら歩き、辺りを見回している。やがて、こちらに気づいて近づいてきた。
「あの……」
「遅かったな、ペイル」
「え?」
 ボルドーが言うと、ペイルは目を見広げた。
「遅かった? それって、どういう……」
「言ってみただけだ」
 ペイルが唖然としている。
「何の用だ?」
 その言葉に、ペイルの表情が硬くなった。
「あの……すいません。はっきり言って、混乱してるんですけど……俺の知った話の、どこまでが本当なのか分からなくて」
「ふむ」
「その……ボルドーさんは、シエラちゃんの後押しをやろうとしているんですか?」
「まあ、そういうことだな」
「北では、反対していたのではないのですか?」
「ああ。確かに、優柔不断だと言われても仕方がないな。だが、今は協力したいと思っている」
「シエラちゃんは、本気なんですか? こんな大事になって、あの子は大丈夫なんですか?」
 ボルドーは、ペイルの顔を見た。
「心の奥の奥の話をしているのなら、それは、はっきり言って分かるはずもない。あの子がやりたいと言った、そして、わしもやりたいと思った。今は、それで十分だと思っている」
 ペイルは、少し目線を下げて、黙った。
「お前は、どうする? ペイル」
 少しの間の後、ペイルは顔を上げた。
「俺も、加えて貰ってもいいでしょうか? あまり役には立てないかもしれません。それでも、俺もシエラちゃんの協力をしたいです。それに、今の国を変えたいと俺も思っているんです」
「そうか。言っておくが、知り合いだからといっても容赦はせんぞ。一兵士として、最前線で戦ってもらうことになるかもしれん。その覚悟はあるのだな?」
「はい」
「よし」
 ボルドーは言った。

「ただ、言葉遣いには気をつけろよ」










「シエラは……殿下は、どうしてるの?」
 グレイが言った。
「部屋に籠もって、ずっと書物を読んでるよ」
「あの、グラシアが大量に持ち込んだやつ?」
「殿下に、欲しいって頼まれたからね。歴史、政治に兵法とかいろいろ」
「ふうん。根を詰めすぎるのも、どうかとは思うけど」
「まあ、無意味にはならないことだから、いいんじゃない」
「グラシア。はっきり言って、兵糧はどれほど持つ?」
 ボルドーが言った。
「今いる人数なら、二年ってとこかな」
 思わず、ボルドーは笑った。予想を遙かに越えていた。
「随分と貯めこんでいたのだな」
「本当、貴重な貯蓄だったのに、分かってる?」
「助かるぞ」
「じいさん……」
 グラシアが、苦笑いをした。
「だけども当然これから、人が増えるかもしれないし、市場の値が上がるだろうし、貯蓄に頼るだけじゃ駄目でしょ。私も、後ろの仕事が増えすぎると、前線の指揮ができなくなるよ」
「ふむ」
「新たな資金を調達できる方法も考えないと」
「そうだな……」
 ボルドーは腕を組んだ。
「屯田でも、やってみる?」
「いや、それほど長くここにいるつもりはない。かえって、ここから離れられなくなる危険性があるので、それは無理だろう」
「制圧地の民から、徴収するって……できないの?」
「甘いと言われるかもしれんが、できればそれもしたくない。すすんで提供をしたいという物なら受け取ってもいいが、無理に徴収をすれば、無用な反発を招くことになる。今は、できるだけ民からは好感を持たれておきたいからな」
「じゃあ、軍から奪うか」
「それは、できるだけ試みよう。元を辿れば民の税だが、反発は受けんからな」
「資金調達はどうする?」
 グラシアが、話を戻した。
「北の方は、モウブさんが協力してくれることになってるから、手を伸ばすとしたら南がいいんじゃない? 南の方の商人に、顔が利く人とか知らないの?」
 グラシアの言葉に、ボルドーは、ふと思った。

「あの男に頼んでみるか」




       

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