新都社くたばれファックファック(1)

 私の目の前で、裸になった白人男性が激しく股間を上下させながら涙を流して喘いでいる。本当にひどい話だと思う。
 男の名前はシコルスキー。でもこっち<日本>ではシコースキーと呼ばれていて、同じ名前のプロ野球選手が日本にもいたんだと淀みのない日本語で話してくれたが私には全くといって興味がなかった。
 「ヒカリ、もうすぐイキそうなんだ、もうすぐイキそう」
 そう言いながら事を構えてからすでに十分は経っている。
 この行為が終わるまでの間に私はずっと、コンビニで買ってきた天使もえという女優が表紙に写っているエロ本を見せ、背表紙を自分に向けたままページをめくり続けなければならない。まさに、器量が試されていた。遠ければこの男はよく見えないと言うし、逆に近づきすぎると人肌の生暖かさが感じられそうなので死ぬほど嫌なのだ。
 「そのページじゃない。その前のページ、違う、そうじゃない」
 「や、どれ」
 自分でめくってよ、という言葉を喉元で飲み込んでいるのは、この男にオナニーをするよう頼み込んだのは他ならぬ私だったからだ。私は”確固とした意志"を持って、この男を射精させなければならなかった。
 「『意気に感じる』っていうのはこういうことなのかな、ボクの頭の辞書にはこういうのはなくて……。もしそうだったら嬉しいな。禁欲的な日本人の男の子になった気分だ」
 男は誰にとでもなく語りかける。
 「いつ出るんですか? 十分で出せるって言ったじゃないですか、早漏じゃないんですか?」
 「早漏じゃない、こういうことには時間がかかるんだよ。君にもボーイフレンドがいるなら分かるだろ?」
 「知りませんよそんなこと……、じゃあ、あの震災の時、どうやったんですか? あなたがその力で救ったんですよね」
 「それだけは萎えるから言わないでくれ」
 男は顔を顰めた。
 「じゃあ早く出して下さい、もっとヤな話しますよ」
 「分かった、分かった」
 ハンドジョブの速さが強まり、粘度の高い音が嫌でも聞こえてくる。
 「本当にもう、出そう……」
 男の体が身震いしたかと思うと、すぐに白濁とした液体が放射状に弾け飛んだ。手に持っていたエロ本で顔を覆おうとして、それが却って持っている手に付着してしまい私は声を上げた。「なにすんの!」怒りに身を任せて男をエロ本で叩こうと振り上げた。その瞬間だった。すっと意識がこそげ落ちたかと思うと、去来したのは強い既視感だった。
 椅子に座っていたという記憶に反して、実際の私は地面に座っていて、どうしてか、息を荒げている。手には何か持っていたはずなのだが、それが思い出せない。
 私は一切着衣をしておらず、脱ぎ捨てられた服が散乱する中で、仁王立ちの――勃起したペニスを掲げた男の前で跪いている。
 レイプされる――。
 男は腰を落として震える私の肩に手を置いた。男の手は冷たくて小さく声が漏れた。
 「いい陰毛だね……。これで分かっただろう? 僕はね、射精したら、調子のいい時で十分程度かな、過去に戻ってそれをやり直すことができるんだ」
 脱ぎ捨てられた服の中で携帯電話の着信音が蠢くように鳴り響いた。 男はゆっくりと椅子に座り直してからその電話に出るよう促し、私は着るものも着ないままに飛びつく。
 ――大丈夫?
 電話の主はミオンだった。
 「私、この男に犯されちゃう、助けてよ!お願い」
 ――落ち着いてヒカリ、素数でも数えて……。だから、電話、代わって。
話したい相手がいる、と告げて、震える手で男に携帯を手渡した。
「どういうつもりなの」
「手本を見せたかっただけさ、実際にどうなるのか分からないとこれからいざという時に、指を咥えているだけじゃいけないだろう?」
――ずっと盗聴していたから分かってるわ。もう、元に戻してあげて」
「残念ながら一度出したら、回復するのに時間がかかるんだ。男の性だからしょうがない」
ミオンはため息をついた。
――それでよくあの震災の時に津波から村人を救えたわね。一人残らず」
「よく自分の遍歴を調べてるじゃないか。あの時は本当に必死だった。 チンチンが赤く腫れ上がってね、しばらく使い物にならなかった。どうだい、君もこっちに来て一緒に話さないか」
――汚いからヤよ。
sage