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短歌集「刻印の冬」
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短歌集「刻印の冬」

読み返すとちゃんと詩情がある。
 ここに並んでいるのは会社クビになってから仕事決まったあたりの短歌。辛い毎日だったが、そこまで感傷に走っていない、と思う。自分でも意外だった。
 短歌はまた書きたいのだが書けずにいる。いや短歌を書けたことはない。なんとか短歌らしくまとめただけかもしれない。ただその努力を続けるべきか、これからも。




東京の 線路に降りしは 白きまま 地図に網なす 雪の原かな
追う者と 追われる者が 相止まり 信号を待つ 正月の暇
ふと行ける コンビニまでの 道すがら ジーパンうすめる 畳の匂い
ひとり寝に 想う女も なき夜更け 貨物列車の 警笛をきく
紙もペンも 机もわれの ものならず クビ待ちつ飲む ドクターペッパー
何もするな 会社の机に しばられて 相棒とせり ドクターペッパー
人影の 西日に滅す 帰り道 コンタクト売る 声のさびしき
用のなき 台車窓辺に 陽をうけて 日向に段なし 影落としけり
桜木は 裸の梢を ふるわせて 棕櫚は 葉陰をしげらす 暮色
秒針の 待つ一秒は 来ぬままに 壊れし時計の 手首に重し
女陰を嗅ぎ ザリガニくさしと いう男 幼児期あまた ザリガニ殺めし
北風に やつれし鳩は みな去りて 冬が来たりて まるこき鳩置く
冬の河 点にぞみゆる 鴨すべる 水面に足は ゆれるオレンジ
冬の日は 音上げがちな ipod サマーチューンの 景色に鳴るまで
恋てふを 教えた宇多田の MDの 並びしハコいま ボールペン溢る
朽ち渇く 貝殻籠めし 海の音 波にきえゆく 夜の浜辺よ
わがへやに この世をとおく 暮らすなり かすかな冬のみ まこととしつつ
ひとすじの 陽射しが透す 水をもて カップヌードル食う 暗き部屋
絞められて なお絞めらるる 寒き肌 ヒートテックを 2枚かさねて
掃除機の コンセントぬけた 静寂に 鳥の音をきく 一人の朝よ
日曜の空うつしける水面しずか 魚が跳ねたり 競艇場に
水底に 黒旗のぼり 波なくも ゆらゆるエイの 腹なましろし
寄す波と 返す波とを見分けたる 鴎がねらう かっぱえびせん
スーパーの刺身に混じる人魚の肉 貼りつき育つ 誰かの髪の毛
スーパーの刺身にはりつく髪の毛をわら人形に込めで生きゆけ
もう逢えぬ 女の靴を 拾いあつめ 匂いをかげば 犬になる神話
夜の夢は 誰もひとりの まことみゆ 起きぬけの尿は 下水につながる
埃くさき ジェットコースターを 想う朝 慣れぬ路線で 入社にゆけり
桜木の 堅き芽ひとつ 咲きけると寄れば からまる羽なり 弥生
ここにきく 黒人の霊の 系譜かな 駅前書店の マイルス・デイヴィス

刻印の冬・おしまい

       

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