Neetel Inside ニートノベル
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藤崎くんにはスキがない
第二話「ピッキング、料理、お弁当の真実」

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 告白に成功(?)した私は、藤崎くんと話せるようになりました。
「藤崎くんって、帰ったらいつも何してるの?」
「うーん、帰ったらか……」
 移動教室に向かう途中、丸めた教科書で肩を叩きながら、藤崎くんは考え込みます。藤崎くんのことです。きっと家ではスキのない慌ただしい生活を送っていることでしょう。
「寝る!」
 スキだらけ!
「寝るの? 帰ったらすぐに?」
「あー、いや、まあ色々やることはあるけど……寝るかな」
 藤崎くんは帰宅後、すぐに寝ることが分かりました。これは大変です。今すぐにでも家の場所を調べて、窓をあらかじめ開けておいて、寝たのを見計らってダイブするしかありません。ピッキングの技術を心得ておかないと。
「茜屋は何してるんだ」
「ピッキング……」
「……え?」
 いけない。心の声が漏れてしまいました。これでは私がピッキング常習犯のように思われてしまいます。訂正しないと!
「ちっ、違うよ! ピッキングはその……やってみたいなって思って! 閉じている鍵穴をこじ開けたい欲に駆られてて!」
「いや……みなまで言うな茜屋」
 藤崎くんが大きな右手で私を制止します。どうしたのでしょう。
「分かる、俺には分かるぞ。親の帰りが遅くて、鍵がなくて、そうやって開けてきたんだよな……! 分かる! 俺にもそういう過去がある!」
 そういうわけではないのですが、藤崎くんが盛り上がっているのでそういうことにします。
「我慢するな茜屋! 今日は俺の家に来い! うちは一人暮らしだから、鍵がなくて入れないってことはないからな!」
「……えっ?」
 えっ?
「決まりだ! 今日は俺の家に来い!」
 ふっ、藤崎くんは、すっ、スキがななななななな

     ○

「というわけで、ようこそ我が家へ」
「お、おじゃまします」
 なんという至福でしょう。告白(?)したのもつかの間、藤崎くんの部屋に闖入することができてしまいました。ピッキングを心得るまでもなかったようです。しかし、ピッキングの一言がなければ成し得なかったことでもあります。
 ありがとう、ピッキング。やらないけど。
「腹減ってるなら何か作るけど」
「あっ……うん!」
 部屋を見渡していると、藤崎くんは早速エプロンを着けて準備にとりかかっていました。かなり萌えポイント高いです。それにしても、藤崎くんの部屋はとても本棚が多いです。読書が趣味なのでしょうか。
「何がいい?」
「えっと……じゃあハンバーグ!」
「無理だ」
「オムライス!」
「無理だ」
「……チャーハン!」
「微妙なところだが、無理だ」
「……逆に、何だったら作れるの?」
「お茶漬けかマヨトーストかな」
 藤崎くんの食生活がちょっと心配です。
「あとサラダならいけるぞ」
「あっ! うん、すごくいい! じゃあサラダで!」
「よし、まかせとけ」

 ~5分後~

 時間が経っても、藤崎くんは野菜の前で立ち尽くしたまま。
 どうしたのでしょう。食材選びで迷っているのでしょうか。
「……藤崎くん、何やってるの?」
「ん? 気がまぐれるのを待っている」
 気まぐれサラダってそういう意味じゃない気がします。

     ○

 さすがにお泊りはできないので、少し話した後、私は帰ることにしました。今度おじゃまする時はキャリーバッグを3つほど持参したいところです。
「悪いな、何も作ってやれなくて」
「ううん、大丈夫だよ! 気持ちだけで嬉しい!」
 嘘偽りはありません。好きな人が一生懸命頑張ってくれたのなら、それだけで嬉しいというものです。心がじんわりと暖かくなります。
「あっ、そういえば」
 ふと気になったことがあったので聞いてみます。
「この間、お弁当忘れてたみたいだったけど、お弁当は作ってるの?」
「ん? ああ。弁当は前日から、時間かけて作れるからな」
 なるほど。短時間で料理をする、というのが苦手だったという話のようです。料理ごときに時間をかけていられない、というところでしょうか。スキがない。
「ちなみに、この間のお弁当は?」
「じゃがいも」
 聞き間違いだったようなので、もう一度聞いてみます。
「ごめん、聞こえなかった。もう一回いい?」
「じゃがいもだ。もちろん皮はむいてるし、蒸してるぞ」
 そういう問題ではない気がします。
「じゃがいもだったの?」
「ああ。山芋と迷ったけどな。すりおろす手間が面倒だったから、マッシュしたじゃがいもを弁当箱に敷き詰めてみた」
 藤崎くんのお弁当は、究極の料理だったようです。スキがない。

「今日の小町の弁当変だな。これ何だ?」
「……じゃがいも」
「え?」
「皮をむいて、蒸して、弁当箱に詰めたじゃがいも」
「病院行くか?」


 第二話「ピッキング、料理、お弁当の真実」

       

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