Neetel Inside ニートノベル
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藤崎くんにはスキがない
第三話「彼の秘密、ストライプ、恋愛ゲーム」

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 藤崎くんには、誰にも言えない秘密がある気がします。
 背が高く筋肉質ですが、帰宅部の藤崎くん。バスケ部やバレー部の助っ人を頼まれている場面もたまに見かけますが、すべてを断っています。きっと並々ならぬ理由があるに違いありません。
 私が、家で何をしているのかを聞いた時も、そうでした。
『あー、いや、まあ色々やることはあるけど……』
 どこか煮え切らない答え。きっと人には言えない隠しごとがあるはずです。だから私はそれを解明しなければなりません。しかし、スキがない藤崎くん相手にうっかりバラされるのを待つ、という手段は得策とはいえません。
「茜屋、大丈夫か?」
 はっ、と私は我に返ります。目の前には部長が立っていました。
「最近、一段とぼーっとすることが多くなってきた気がするが……」
「あっ、い、いえ! 大丈夫です!」
 私はどうやら、台本を持ったまま呆けてしまっていたようです。
「じゃ、読み合わせ再開するぞ」
「は、はい! えっと……藤崎! 今日こそをお前を倒して、藤崎を……」
「登場人物の名前おもいっきり違うな。しかも藤崎二人いるな」
 いけません。心の声が漏れてしまいました。
「ご、ごめんなさい……」
「別にいいけど、茜屋ってほんと藤崎のこと好きだよな」
 演劇部の津上部長。とても演技が上手くて人望も厚い、みんなに慕われている部長さんです。こうしてミスをしても許してくれます。
「はい! 藤崎くんがいない世界なんて考えられません」
「へえ……じゃあ、たとえば藤崎以外の全人類から嫌われるのと、藤崎だけから嫌われるのだったら……おい待て茜屋。“藤崎から嫌われる”っていう文面を聞いた途端に自殺の用意を始めるのはやめてくれ」
「藤崎くんのいない世界なんて……」
「よし分かった。俺が悪かった茜屋。いいからその包丁を片付けようか」
 いけません。つい癖が出てしまいました。
「先輩は何か、藤崎くんの秘密って知ってませんか?」
「藤崎の秘密?」
 ダメ元で聞いてみると、部長は少しだけ肩を震わせました。何かあるのでしょうか。
「あー……まあ、知らないってこともないが、俺の口からは言えないな」
「えー、そんなこと言わずに教えて下さいよ」
「ダメだ。本当に好きな相手なら、自分で聞き出してみろ」
 むくれる私を、津上先輩は面白がって笑います。
 しかし、秘密があるという事実は分かりました。こうなったら、本当に聞き出してみる必要がありそうです。

     ○

「珍しいな、茜屋の方からウチに来たいとは」
「まあまあ」
 というわけで、適当な理由をつけて藤崎くんの部屋にやってきました。ここで色々捜索して、藤崎くんの秘密と使用済みのパンツをを突き止めようと思います。
 が、もちろん藤崎くんがいるとそんなことはできません。
 そこで手を打ちます。
「何か食いたいもんあるか?」
「うーん、なんだろう……ミートスパゲティとか?」
「む……」
 エプロンを着ようとした藤崎くんの手が止まります。
「パスタなら作れるが……肝心の麺を切らしているな。ちょっとスーパーで買ってくるから、少しだけ待ってくれるか?」
「うん! 存分に待つよ!」
「すまないな」
 ちょっと日本語がおかしかった気はしますが、無事に藤崎くんの部屋で一人きりになれました。藤崎くんがパスタの麺を切らしていること、近くにそれを売っている店があることはリサーチ済みです。
 これで心置きなくパンツを……じゃない、藤崎くんの秘密とパンツを調べることができます。
 目につくのは多くの本が並ぶ本棚。しかも一つではなく、結構な数があります。そもそも藤崎くんの部屋は一人暮らしにしてはとても広く、リビング以外にも部屋が2つくらいあるみたいです。
 もしかしたら、愛人なんて連れ込んだりしているのでしょうか。さすがにそれは許せません。3Pなら許せますが、愛人とだけ楽しむのは許せません。
「一体、どんな本があるんだろう」
 より詳しく調べるために、私は本棚に近寄ります。その時、何かを踏んづけて、私は勢い良く転んでしまいました。痛い。顔を思いきり打ってしまいました。
「痛たたた……一体何を」
 私は足元にある、踏んづけてしまったものを手に取ります。
「…………」
 青と白のストライプ柄の、パン…………

「今戻ったぞ、茜屋……って、おい!? 大丈夫か茜屋! 茜屋!?」
「へへへ……ぱんつ……しましまぱんつ……」
 私は藤崎くんのパンツを抱きしめたまま、鼻血の海に沈みました。
 こんな罠を仕掛けておくなんて、さすが藤崎くん、スキがない。

     ○

 結局、私は謎の出血ということで、一晩だけ入院することになりました。
 退屈だろうってことで、お父さんが携帯ゲーム機を持ってきてくれました。
 最近遊んでいるのは「花より恋こいっ☆」です。最近人気の恋愛ADVで、演劇部でも遊んでいる人が多いです。
「よう茜屋。見舞いに来たぞ」
「藤崎くん!」
 私はゲーム機を脇に置きます。
「お見舞いありがとう! 私は幸せものだよ!」
「それは良かった。で……それは?」
「あ、これ?」
 藤崎くんも「花より恋こいっ☆」が気になるようです。男子高校生なので、こういうものは珍しいのかもしれません。
「これは『花より恋こいっ☆』っていうゲームでね! 学校でも人気の作品なの! 特に話が面白くて、演劇部のシナリオの参考にもしてるくらいなんだよ」
「へえ……どこが面白いんだ?」
「うーんと、ヒロインのゆかりが恋愛オンチなところかな? 本当にカオルは恋愛がヘッタクソでね! 三章とかフラグバッキバキで逆にびっくりしたよ! 他にも突っ込みたいところは色々あって、恋愛小説の主人公とは思えないくらい……あれ? どうしたの藤崎くん?」
「茜屋……お前に頼みがある」
 ぽん、と藤崎くんが私の両肩に手を置きます。
 心なしか、藤崎くんの顔に汗が流れているような気もします。
 ドキドキします。どうしたんでしょう。
「俺と一緒に、恋愛ストーリーを考えてくれないか」

「っていうことがあってねー」
「へえ」
「すずちゃんはどう思う? これ、新手の告白なんじゃないかなーって思って、すっごくドキドキしちゃったんだけど!」
「いや、違うでしょ。多分そのゲーム、藤崎が……」
「あードキドキする! 鼻血のバミューダ・トライアングルに沈みそう!」
「聞いちゃいねえな」

 第三話「彼の秘密、ストライプ、恋愛ゲーム」

「おーい藤崎、ちょっといいか」
「なんですか? 津上先輩」
「この間お前ん家にパンツ忘れてなかったか? 青と白のストライプなんだが」
「あー、洗濯したので今度持ってきます」
「いや持ってこなくていいんだけどさ。わざわざ洗濯したのか?」
「はい。血だらけだったので」
「お前の家では何が起こっているんだ、藤崎」

       

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