「いい加減、家賃払いなさいよっ、あんた!」
ババアのしゃがれた怒鳴り声で、俺は目を覚ました。快眠を妨げられた苛立ちに頭を掻き、万年床から身を起こす。あくびをして枕元のスマホを見ると、時刻は14時ちょうど。もう昼だ。今日は平日のど真ん中である。まっとうな会社員ならば遅刻を確信して顔を蒼くするところだろうが、幸い、俺に出勤すべき会社などない。バイトも今日は休みだ。
黄ばんだ寝床からやっとのことで立ち上がり、風呂とトイレに挟まれた洗面台に向かう。備え付けの鏡は位置が低すぎて、眉から上を収めない。前に立つと、不潔な顔をした男が映っている。不精によって伸び放題になった髪とひげ。その間に、落ちくぼんだ眼が濁った色を浮かせている。