薄手のセーターを着た背の高い女。胸がでかく、垂れ下がった目元から、いかにも包容力がありますと押し付けがましい風貌。なにからなにまで、俺の好みから外れる。
「あ、まーだ寝てるー。もう、和樹くんはだらしないなあ」
 結衣奈はなぜか嬉しそうに言うと、散らかった部屋を片付け始めた。「寝てねーよ」と呟いた俺の小声は無視され、キッチンから床から、見る見るうちに整頓されていく。カップめんの汁を雑巾で拭くと、結衣奈は微睡む俺に顔を近づける。
「またオナニーしてたでしょ」
 匂いを嗅いで指摘する。彼女は横に転がっていたオナホを拾い、洗面台の方へ向かった。水音に紛れて、声が聞こえてくる。
「やりすぎると体に悪いらしいよー。……あれ、中があんまり汚れてない?」
 汚れは壁にぶちまけたからな。結衣奈が戻ってくる前に、ティッシュで精液をふき取っておく。体を起こすと、部屋はすっかり片付いている。
「それに、溜まってるんだったら私に言ってくれればいいのに」
 ハンカチで手をふきながら目の前に座る結衣奈を、俺は睨んだ。
「言ったろう、俺は高校生以上の女は相手にしない。いいか、女の魅力っていうのは、小学校高学年辺りを頂点として下り坂になるんだよ。白状してみろ、お前は今、何歳だ?」
「そんなの知ってるでしょう? 和樹くんとおんなじなんだから、25歳だよ」
「ふっ」俺は鼻を鳴らす。「女としての消費期限はとっくに切れてる」
「でも和樹くん、私が家に来ると二回に一回くらいの頻度で押し倒してるよ?」
「お前が押し倒してるんだよっ」
 この女、人畜無害そうな顔をしておいて、意外に侮れないのだ。護身術だか柔道だかを習っていたらしく、油断をするとあっという間に布団に引きずり込まれる。今日も、いつ技を仕掛けられるかわかったものではない。俺が身構えると、結衣奈は破顔した。
「ねえ和樹くん、私の家にお婿さんにくるって話、決めてくれた?」
 悪びれない顔をして、のたまう。
「バカを言え、お前みたいな年増に婿入りするなんて、神が許しても俺のプライドが許さない」
「もう、強情なんだから」
「大体、俺とお前は付き合ってもいないだろうが」
「なに言ってるの? 大学のときに付き合い始めてから、一回も、喧嘩すらしてないのに」
「お前の中ではそうなんだろうが、こちとら、とっくの昔に別れたつもりなんだよ」
 そもそも、俺がこんな女と付き合ったという事実すら、受け入れがたいのだ。大学時代、確かに形の上で結衣奈は愛を告白し、俺は受け入れた。しかし、交際に至る経緯の裏には、この狸女による外堀埋めと、既成事実のねつ造が数多あるのだ。思い出したくもない過去なので、ここでの詳細は省くが。
「私のお父さんとお母さんも、大歓迎だって言ってるよ?」
 突っぱねられるのを意にも介さず、結衣奈は目を輝かせる。
「嘘をつけ、嘘を」
 俺はフリーターだぞ。自慢じゃないが将来の安定など、一切保証できない。大事な一人娘をプー太郎みたいな男にやりたがる親などいるはずがない。大方、結衣奈が悪条件をはぐらかして伝えているのだろうが。
「とにかくっ! お前と結婚なんてありえん。小学生に戻って出直してこい」
 中途半端にあしらうと長引きそうなので、ハッキリ言ってやる。すると、結衣奈は口元を吊り上げて目を細める。
「ふーん、そっかあ。ところでさ和樹くん」
 唐突に話題を変え、脇にあったバッグの中を探る。
「今月の生活費、いる?」
 白い手で封筒を取り出した。封筒の表面には、幼児向けキャラクターの絵柄が印刷されている。笑った結衣奈が差しだす絵面はさながら、年末のお年玉イベントだ。
「余計なお世話だ。施しは受けない」
「でも、和樹くんちょっと痩せたよ、ちゃんとしたもの食べてないんじゃない? 食費が足りないのは困ると思うんだけどなあ」
「ぐっ……」
 図星を突かれた。実はつい先日オナホを衝動買いしてしまったから、ひもじい思いをしていたのだ。
「金をよこす代わりに結婚しろと言うんだろう。その手には乗らないぞ」
「ううん。私、和樹くんにそんな卑怯なこと言わないよ」
 結衣奈は眉尻を下げたあと、すぐに笑顔になる。
「だから、生活費を渡してあげる代わりに……私とエッチして?」
 言って、しなだれかかってくる。俺の肩に顔をうずめて、抱擁する格好で体重をのせられる。包み込む体の熱さと柔らかさはギョッとするほどだ。長い髪からはバニラのような香りが漂ってきて、その中に、わずかな女の体臭が混ざっている。
「和樹くんは小さい女の子が一番好きだけど、私とするのも嫌じゃないよね?」
 耳元で囁かれる。吐息が耳朶をかすめて、首筋が粟立つ。さっき射精したばかりだというのに、ペニスには血が集まっていた。
 流されるな。この性欲は悪の性欲だ。年増の薄汚れた体なんぞ抱きたくない。俺はロリコンだ、ロリコンのはずだ。抵抗するのに、厳然とある女体は、暴力的なまでに官能を刺激する。
「いいじゃん、お金が貰えて、二人とも気持ちよくなれるんだし、しちゃお?」
 唆してくる声に揺らぎながら、結衣奈が後ろ手に持っている封筒を注視する。あの金だ、あの金を奪って逃れてしまいさえすれば、すべてがうまくいく。
 覚悟を決めて、一息で力を入れる。奥にある封筒に手を伸ばそうと前のめったとき、身体を支えていたぬくい感触が離れた。
「うわっ」
 支えを失った体が放り出される。無様に畳の上に投げ出された俺の頭上から、結衣奈が語りかける。封筒をヒラヒラとはためかせながら。
「私の提案を受け入れてくるってことだよね?」
 頭の上に、巨乳でのしかかられる。敗北感が胸いっぱいに広がって、俺は口にしていた。
「わかったよ……」
「よかった」
 結衣奈は、今日一番の笑顔を見せた。


「舐めてあげるから立って?」
 戦意を失った俺は、諾々と指示に従う。
 言われた通りに脚を開いて立つ。すると、結衣奈がズボンの股ぐらに顔を寄せ、ジッパーをくわえた。
「うごからいれね」
 俺の腰に手を掛け、口だけで器用にペニスを取り出す。勃起していた肉棒が下着に引っかかり、弾かれる要領で飛び出す。
「うわあ……」
 むき出しの亀頭を、結衣奈は恍惚として見つめる。
「もうこんなに固くなってる。私に触っただけでこんなになっちゃったの?」
「うるせえ」
 この女はいちいち癪に障る。
 悪態は無視されて、鈴口に、端正な鼻先が近づく。
「ん、出したばっかりだからすごい匂いするよ」
 言うが早いか、結衣奈はそれを口に含んだ。口内は唾液で満たされている。温めたローションの溜まりに突っ込んだような感触で、摩擦は少ない。擦られる刺激を待ちわびていると、いきなり、結衣奈は俺の腰を抱え込む。そして、ペニスを咥えた口を根本まで押し込んできた。
 喉奥に竿の先端が触れる。「んっ」と呻きが上がるもののためらうことなく、限界まで飲み込まれた。