Neetel Inside 文芸新都
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今日もオレはダメだった。
二日酔いの情けない気持ちになった時のこと

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今からこの前二日酔いになった時のことを話そうと思う。
いや、なに、こんなにもったいぶった始め方をするのだけど、別に面白い話をするってわけでもないんだ。
二日酔いになるのって情けないよな、わかるだろ?ってことが言いたいだけなんだ、
むしろオレの二日酔いになった話なんて、つまらないに決まってる。
つまらない話を聞かされる奴の立場を考えてみたら、本当に苦しくて申し訳なくなってきたよ。
まさに苦行、苦行なんだ、つまらない話を聞かされるっていうのは。苦行以外の何ものでもないだろうね。
でも、書かずには居られないんだ。
おかしいと思うだろ?自分が二日酔いになった恥ずかしい話を、わざわざ文章に書いて誰かに伝えるなんて。
正気の沙汰じゃないかも知れないと思うかも知れないけど、オレだってそう思うんだ。
そう頭の中で思っているオレの人差し指が、パソコンをたたき起こして、こんなつまらない話を書いてるんだから
もうどうしようもない。初期衝動には逆らえないって、相場は決まってる。
オレはただ、二日酔いになって情けない気持ちになるっていう、ありがちな心境を誰かと共有したかったんだ。

本当に情けなかったよ。いい歳したおっさんが人前で戻してるところを見られるのを想像してみろよ。
見るに耐えられないよ。なんでそんなに泥酔するまで飲むんだ、って思うだろう。
オレもそうなんだ。ほかのおっさんがゲボ吐いてるところを目撃したら、同じ事を思う。
でも、いざみんなを前にして酒を出されたら、いきがって飲んでしまうんだよ。
オレはこんなに飲めるぞ。放埓に生きる自由な人間なんだぞ、っていう風に。まるで学生だよな。
で、飲みすぎて歩道橋の下とか帰り道の茂みとかで戻すんだ。
これから飲むたびに思い出すんだよ。胃酸の苦味が口の中に残る感じとか、食べたものをゆすいで吐き出す時のことを。
変な話だよな。いやな思いを忘れるために飲んだ酒なのに、今度は飲むたびに嫌な思い出が心によみがえってくるようになるんだ。
タクシーで帰ったとき、ちゃんと路肩に停めてもらって降りて茂みで戻してたのに、車内に戻ったら運転手のおっさん、怪訝な顔するんだ。
こいつ、車の中で吐くんじゃないだろうなって顔でね。
こっちはちゃんと料金も支払うプライムな客なのに、なんて扱いなんだろうって思うけど、
よく考えたら泥酔してる車内で吐くかも知れない可能性を孕んだ乗客なんてプライム(優良)でもなんでもない。
むしろただの厄介な乗客だよ。すぐにでも降ろしてまともな客を乗せたかったに違いない。
四つの車輪がオレを自宅まで送り届けてくれたからオレは感謝の言葉を言ってお金を払い、さっさと帰ってもらったよ。

家に帰ったとき、鍵をどこに置いたかもわからなかったんだ。
いつも玄関マットの下に自分だけがわかるように隠してるのに、それすらわからなかったんだ。
で、夜中呼び鈴を鳴らして家族を起こしてあけてもらったよ。ウチの呼び鈴は性能がいいから、すごくラウドな音なんだ。
シャワー入るつもりだったけど力尽きてそのまま寝てしまった。
でも途中で気分悪くなってきて便所を往復したよ。胃の中のものを全部吐き出すため指を突っ込んでたけど、
慣れてきたら指を使わずに人間ポンプみたいに自力で吐けるようになるんだ。劇団ひとりみたいに。
どうでもいいかそんなこと。
戻した後に、冷蔵庫から冷水をコップにいれて飲んだんだけど、ここ数年で一番うまい水だった。
どこそこの天然水よりもずっとうまかった。
水のうまさはミネラルの含有量で決まるんじゃなくて、シチュエーションで決まるのだと改めてわかったよ。
吐き気も落ち着いてきてオレはようやく眠れた。
寝てるとき夢を見たんだ。確かみんなの前で戻す夢だった。起きたとき本当に情けない気持ちになったよ。
みんなっていうのは友達の事。今まで会った人間の中で、最もベストな連中だ。
みんなは二階堂をストレートで飲むのはやめろって忠告してくれたけど、オレは飲んでた。
忠告はオレに効かずに、アルコールだけが滞りなく作用して、泥酔へと誘ってくれたよ。
誘ってくれたなんていい風に書きすぎたね。ただへべれけになっただけなんだ。

起き上がって洗面所に行って、水と胃液を戻して、口をゆすいで顔を洗った。
むくんだひげ面のおっさんのミラー・イメージが、今日はもう寝てろって言ってる。
寝汗をシャワーで洗い流して緑の歯ブラシをミント味に味付けして歯を磨いた。
胃酸できゅっきゅしてて口の中が違和感だらけだった。
舌で何度も歯の間を触って感触を確かめてた。
口の中だけさわやかになって、もう一度寝た。
起きたらもう夕方だった。夢も何も見なかった。
何も夢を見なかったなと頭の中で呟いたら、夢は見ろよと暑苦しい教師に指導されたことを思い出した。
その教師の言う夢っていうのはいい大学にいっていい職に就くことだったから、
今思えば夢は見るなって言ってるのと同じじゃないかって思うよ。まあもう就職してるからなんでもいいけど。
布団から出て、胃にやさしい大根がおかずの晩御飯を食べて、もう一度寝た。翌日会社に行った。

なんて取るに足らない話なんだろう。わざわざ誰かに語る必要があったのだろうか。
オレは誰かに言いたかったけど、少なくとも、読むひとは知る必要なんて何一つ無かっただろうな。
もしこれを読んで得るものがあるとすればそれは教訓だね。
無駄な人間が書いた無駄な文章を読んで無駄な時間を過ごしてはいけないっていう教訓。
オレみたいな情けない気持ちにならない奴がいわゆる成功者ってやつなんだろうな。
苦行に付き合ってくれてどうもありがとう。
ああ。
今日もオレはダメだった。













       

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