Neetel Inside 文芸新都
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 「死」とは、永遠の惜別であります。
 人はいずれ死にゆきます。
 そして、死者は永遠に死者のままなのです。
 例えそれがファラオであったとしても。

 そうして、この噂も、いつの日か落ちた花びらが静かに消えてなくなるように、人々の記憶から忘れ去られていくはずでした。
 ファラオの体は、慣例通りミイラにする為、臓物を取り払われ、特殊な薬に漬け込まれたあと、何日もの間、放置され、そうして、さらに小さくなったファラオは、不釣合いな大きなピラミッドに埋葬されました。

 しかし、それから3度月が満ち欠けを繰り返した後、ファラオは静かに起き上がりました。
 その(当時の平均的な身長が実はとても小さい事にも関わらず)一般的に見て小さな体に不釣合いな大きなピラミッドの中の、さらに不釣合いな大きな玄室の中で、静かに目を開いたのです。
 確かに、ファラオは死にました。
 世の中には、死んだと思われつつも息を吹き返した事例が幾つもあります。
 ただ、このファラオの復活は、そのどの事例と照らし合わせようと、似ても似つかぬものでした。
 死んだのです。
 確実に死んだのです。
 そうして、一度死んだファラオの、もう永遠に開く事の無い目が、静かに開いたのです。

 ファラオは、ひたひたと石で出来た冷たい廊下を歩き始めました。しばらく使わなかったために筋肉が凝り固まってしまった体を不自由そうに動かしながら歩き始めました。
 もと生きていた街を目指して。
 ピラミッドは、街から少し外れた所に作る慣例がありました。元の町に戻るだけとはいえ、それは何とも長い旅路となる事でしょう。
 外には焼け付くような暑さ。乾き。そして、寒さがありました。
 一日を歩き通すと、夜には、どうしようもないほどに体が疲労し、もうただただ眠るほかありません。
 不思議な事に、そんな状況にあっても、ファラオは眠る事が出来ませんでした。体を横にし、昼間には焼け付くように暑かった砂の冷え切った冷たさを背中で感じながらも、瞳を閉じる事が出来なかったのです。
 それでも、とにかく街に戻るより他にありませんので、朝になるとまた歩き始めます。

 数日後。
 ファラオは、もと生きていた街にたどり着きました。その頃になって、ファラオにはもうひとつ気がついた事がありました。それは、ピラミッドを後にしてより、数日間、食べ物はおろか、水一滴すらも体に入れていなかったと言う事です。体は、死後すぐには、ミイラと化していました。その体は、水気を含まないのは当然のことです。しかし、それどころか、体を動かす上での熱量、食べ物も水も何も必要ないまま、ここまで歩いてきたのです。
 街に着くと、ファラオはまっすぐに王宮を目指しました。
 王宮では、すでにファラオの弟が、次のファラオとして、幾ばくかの従者を従えて暮らしておりました。
 しかし、その弟もファラオの姿を見るなり、ただ、足元にひれ伏し、ファラオの位を譲る約束をしました。

       

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