Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 やがて、少女は、何の声も上げることがなくなりました。
 恐らくは、息絶えたのでしょう。
 男は、それでも、粛々と少女を解体し続けます。
 男は、これまでの大勢の人間と同じように、木の感情など鼻にもかけず、足元に生きる数限りない命たちを夥しい血液で赤く染めながら、少女の命を奪い取りました。
 しかし、男は絶命した少女の体の解体を止めようとはしません。
 ひとつずつ、ひとつずつ少女の体の突起物を肉切り包丁でコリコリと切り落としていきました。

 木は、どうしようもない悲しみに包まれながら、それでも、男の一挙手一投足全てを見続けました。

 最初は、殺されていった仲間たちに思いを馳せながらその行為を見続けていたのですが、その行為が3日目を迎えた頃に少しだけ、不思議に感じるようになりました。
 つまり、なぜ、死んでしまったこの少女をいつまでもいつまでもいつまでもいつまでも・・・解体し続けるのか・・・
 もう少女は、原型などなく、酷く小さな赤い肉塊になっていました。
 それでも男は、少女の(もう視認することも困難な)小さな突起物を肉切り包丁でコリコリと切り落としていきます。
 悲しみに満ち溢れていた木は、時間とともに正気を取り戻し、そうして、少しずつ「実は、人間は人間で、何がしかの目的を持って命を奪っているのかもしれない」と考えるようになりました。それが、生きるためでない以上、摂理からは逸脱するのですが、そうであっても、仲間たちが意味もなく殺されたわけではない。と言う事実があるだけでも、何だか、木は少しだけ救われた気がしたのでした。
 思えば、あの人間に切り殺される直前に語りかけた一人の仲間が切り殺される最中にも、木に語りかけていました。

 「ただ、私は花々木々。
  穏やかに全てを受け入れ、
  いつとなっても当たり前にあまねく人間を受け入れていくのです。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。
  私は、花々木々。・・・・・・」

 誰も踏み入る事の出来なかったこの場所に、わずか数年の間に2組もの人間がやってきた事は、ひとえに人類の文明の発達による部分が大きかったのでしょう。そういう意味で、5000年と言う時間は、実に、絶妙な長さだったのかも知れません。それ以上長くなれば、人間がこの場所に現れすぎる。それ以下に短ければ、人間はこの場所にただの1人も寄り付けはしない。
 木は、世界の始まりから、世界の終焉までの全てを見届けなければいけません。
 その中にあって、見届けたものを評価する必要もあったのです。
 それは、次の世界に大きく影響を及ぼす評価でした。

 今、この世界が誕生し5000年が経とうとしていました。

 さらに4日と17時間の時間が流れました。
 「これが・・・これが最後の突起物だ。これを削り取れば、完全なダルマ死体の完成。何と小さく、それで居てしっかりとしたダルマなのだろうか。」
 そういうと、男は、血液が固まり、赤く染み込んでしまった右手で最後の突起物を落としました。もう小さくなってしまい、肉切り包丁では切り落とせなくなっていたので、小さなボンナイフを使って、その突起物を切り落としました。
 完全なダルマの完成。
 もうほとんど視認出来やしない小さな突起物が静かに地面に落ちました。

 その瞬間、何の音もなく目の前の空間に大きな亀裂が入りました。
 亀裂はどこまでもどこまでも続き、そして、次第に空間自体が剥がれ落ち始めたのです。

       

表紙
Tweet

Neetsha