Neetel Inside 文芸新都
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 縁側から、庭の池で泳ぐカメを眺め、いつになくぼんやりと座りこくっていた母親。良死朗が声をかけたときには、すでに息をしていなかった母親。まさに、あの日、あの瞬間のことです。
 あの時、なぜ、母親が少しだけ幸せそうな顔をしているように感じたのか。その答えを、今、不意にこの永遠なる男が語る例え話から分かってしまったのでした。
 「あぁぁあぁぁぁあああああああ・・・・」
 世界は、良死朗と母親。二人のために回り続けていたのだと、良死朗は感じました。
 永遠を探し求めたのも、今思えば、永遠にたどり着き、この永遠なる男から、あの日の母親の少しだけ幸せそうな表情の意味を理解するためだったのかも知れません。
 今更に、気がついたのでした。
 あの日、あの瞬間の、母親の遺体を含めた夕焼けに赤茶けた情景が、ひどく美しかったという事に。
 「つまりは、そう言う事なんですよ。君がどれだけ生き急いで、知識を詰め込み続けようとも、決して、たどり着けない何かが、この世界には、数限りなくある。そして、今、君の人生において、一体何を学ぶことが出来たのか。と問われた時、答える事が出来たのだろうかね?」
 永遠なる男は、さらに続けます。
 「全ての生きとし生ける生き物は、その答えにこたえられるようになった時、初めて、少しだけ幸せな表情をして、死んでいくことが出来るのです。それは、どれだけ人生を生き急ごうとも、知りえる事なんかできない答えであり・・・・そして、今、改めて聞くよ。君は、一体何を学んできたのかい?」
 「・・・・・」
 「時間について?」
 「違う。」
 「永遠について?」
 「違う。」
 「絶望について?」
 「違う。」
 「欲望について?」
 「違う。」
 「希望について?」
 「違う。」
 「羨望について?」
 「違う。」
 「死ねないファラオについて?」
 「違う。」
 「いつまでも孤独なウサギについて?」
 「違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。」
 「誰かが、この世界を作り出した。誰なのか。それは、誰も分からない。ただ、その誰かは、わずか7日の間で世界を作り上げることが出来た。そして、その世界に終わりを与えた。つまり、5000年と言う、時間軸を作り、5000年が終わると同時にその世界が終焉を迎えるようにしたのさ。そして、その5000年と言う時間生き続け、その世界で起こるありとあらゆる、悲喜交々、喜怒哀楽の全てを見続ける責務を、ひとつの生命体にだけ与える。前の世界での、その責務を負っていたのが、その木。・・・と言う訳ですよ。君は、もしかしたら、この場所にきた自分が選ばれた人間だと思ったかもしれない。それは、傲慢と言うやつでね。選ばれていたのは、その木だ。君は、たまたまその木に寄りかかっていただけの、本来なら、消え去っていた実にちっぽけなひとつの生命体でしかなかった。5000年の終わり。終焉の時には、その誰かが、世界中に永遠についての何らかの情報を不平等にばらまき、それを頼りに、世界中で同時多発的にダルマ死体の製作が始まる。ダルマ死体の製作は、永遠の始まりじゃあなくて、この世界の終焉だったのだよ。墓穴を掘ると云う奴さ。君が、この木の下で行ったあれもね。・・・そして、世界は終わった。」
 「・・・あなたは、誰なんですか・・・?」
 「僕は、永遠だって、言ったじゃあないですか。それ以上でも以下でもない、それ以外の何物でもない。永遠です。」
 少しずつ、木が朽ち始めていました。

       

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