Neetel Inside 文芸新都
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 かつて、死ぬことを拒否したファラオが存在しました。
 ファラオは、この世界を作った誰かの、生きるものが必ず死ぬというルールを拒絶したため、その誰かの逆鱗に触れました。そして、次の5000年。世界の全てを見続ける責務を負わされたのでした。
 しかし、人間であるはずのファラオにとって、5000年と言う時間はあまりにも長く、そして、あまりにも膨大な情報に翻弄され、5000年が終わるころには、もはや、自分がかつて、世界に君臨したファラオであった事さえも忘れてしまいました。
 それでも、その誰かのファラオに対する怒りが解けることはなく、5000年を終えてもなお、ファラオは朽ちることを許されませんでした。
 ファラオが、その交錯した脳内を正常化するまでには、5000年に近い時間を要しました。そうして、ファラオが5000年に渡る正常化の後にたどり着いた感情は、故郷への強い思いでした。
 しかし、この何もない世界において、ファラオはもう、故郷へ帰る事はできません。
 悲しみで途方に暮れたファラオは、止めどなく涙を流しました。
 ポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロポロ・・・
 その涙は、止まることなく、いつしか、何もない世界を覆い尽くすほどになり、そして、涙は海となりました。
 海は、命をはぐくみ、そして、ひとつの楽園となっていきます。
 ファラオは、神となりました。
 もう寂しくもないのです。
 なぜなら、ファラオの目の前には、かつてファラオが憧れていた世界のそのものが広がっていたからです。
 人の涙と海の水が同じ成分なのは、至極当然のことでした。
 海は、ファラオの止めどない涙だったのです。

 それからの世界は、5000年が終わるたびに一人の人間が、この何もない空間にやってきて、そして、ファラオに世界の真実を教えられ、涙を流し、海を作り、次の世界の神となるスパイラルの中にありました。
 いつしか、ファラオは、自分の名前もそして、かつての役職もすて、自分の事を「永遠」と名乗るようになりました。
 永遠は、何度も5000年の世界を繰り返し続けました。
 それが、誰かの意思である事だけは分かっていましたが、その誰かが誰なのか、何の意味があるのかは分かりません。
 それでも、繰り返し続けました。
 神となったものにも、様々な人間が居ました。
 彼らは、一様にファラオと同じく、5000年と言う時間の長さに耐えきれず、責務を全うする事も出来ないまま、朽ちることさえ許されずに、未だどこかの世界の、どこかの場所をさまよっている事でしょう。
 ある男は、自分の名前をマイクと名乗り、全世界に永遠の存在を伝える旅に出、またある男は、自分の事を神ではなく悪魔だと考え、メフィスト・フェレスと冠するようになりました。一人の少女が神となった時には、その時の気持ちを2つの短い詩にしたため、薄濁ったガラスの瓶に入れて、砂浜に埋めたりしました。

 実は、良死朗もまた、その誰かによって次の世界の神となるべく選ばれた存在だったのです。
 永遠は、もちろんその事も知ってはいましたが、良死朗自身がその事を見出さなければ、神になる資格などないと考え、良死朗に対して「傲慢」と言い放ったのでした。

 ただ、一つだけこれまでと違う何かがそこにはあったです。

 どれだけの時間が流れようとも、良死朗は、涙を流さなかったのでした。

       

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