Neetel Inside 文芸新都
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 「一人。永遠に眠る事はこれからの長い時間において誰とも言えず悲しみに包まれる事だ。私は眠らない。私は死なない。だが私はこれから生きることもない」

 ファラオは、復活宣言として、この言の葉を、人々に伝えました。

 人々は、そのファラオの姿を見るにつけて、ただただ、恐れおののきました。ファラオは、一目見れば、目玉だけが凡庸にグルグルと動くミイラであり、人々はその体が動くと言う事実を、これまで生きてきた上での既成概念が邪魔をして到底理解できないのでした。
 ファラオが、眠る事もなく、瞳を閉じる事さえないと言う事実もまた、人々に更なる恐怖心を植え付ける結果となりました。
 何も食べない。何も飲まない。眠る事は無い。死ぬ事も無い。そして、生きる事も無い。
 それが、今のファラオでした。

 それからの時間、ファラオは相も変わらず、悲しみばかりを増やして過ごしていきました。自分と同じ生活を誰かに強いるだけでも、もう、その人間は衰弱し、死んでいくのですから、むしろ、ファラオ自身の残虐性は以前とは比べものにならない程に増して行きました。
 恐怖による支配は、人々に影を落とし続け、そうやって、少しずつ、しかし確実にファラオの世界は衰退していきました。
 「ゴミ」は世界を覆いつくし、それでも太陽は、地平線の向こうから少しずつ煌々とのぼり、赤い幻想として静かに沈む毎日を繰り返しています。

 やがて、生命規模では知覚できないほどの時間が流れました。

 しかし、ファラオは、まだ起きていました。
 永遠に眠る事を拒否したファラオは、永遠に起きることを余儀なくされたのです。
 ファラオの世界がなくなり、新しい生態系が何度も構築され、そして、何度も滅び続ける様をファラオは眼に焼付け続け、はたと、気が付いた時ファラオは永遠の向こうにある果てを歩いていました。
 それはファラオにとって少しでも予測できた世界なのか。

 永遠の向こうにある果て。

 ファラオはそれでもまだ眠る事は許されません。
 でもそれは彼が選んだ道なのです。

       

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