Neetel Inside ニートノベル
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 放課後、なごっちの話を聞いて向陽公園にやってきた俺とスメラギ。目指す場所は公園敷地内にある達逢川。

 達逢川は少し前まで光川(ひかりがわ)と呼ばれていて蓮の葉が茂る涼しげな光景と夜になると点灯するアダルトなブルーの照明が地元カップルのデートスポットとして恋人達に花を添えていた。

 当然周りはカップルで溢れ返り、男ふたりで来たことを後悔するような空気感が俺達を包み込んだ。

 「なぁ本当に確かめるのか?」「当たり前だろ。アイツは俺達に内緒で女作りやがったんだ。それなりの制裁を加えてやらなきゃなんねー」

 「それにしても」スメラギが辺りを見渡す。「恋人達が多いな」目の前のキノコ頭の男が制服を着た顔のでかい女の股に片足を押し込んで耳元で囁いている。

 「おーい、そんな豚女で童貞散らしていいんかーい?」俺がふたりの間から顔を出すがふたりはうっとり見つめあったままその場を動こうともしない。俺は大げさに舌打ちをして男の方をからかった。

 「無視すんなよ。頭からカウパー出てるぜ。チンコ頭」「もう止めておけ。行くぞ」スメラギに腕を引っ張られ俺達はその場から移動する。

 そうこうしているうちにまたカップルとエンカウント。俺は呆れてそのふたりをつぶさに観察した。

長身ロン毛男子学生は小柄茶髪女子高生に振り向いて壁に向かって手をつく。
まるで二人だけの世界しか見えていないようで、目線を上げて戸惑う小柄茶髪女子高生。
小柄茶髪女子高生は長身ロン毛男子学生に目を向けて見つめたり、唇を舐めて欲情している。
長身ロン毛男子学生はぶるぶると身震いをして小柄茶髪女子高生の両肩に腕を置く。
長身ロン毛男子学生に体を触られた小柄茶髪女子高生が足を上げてつま先立ちをして頭に額が付く。
小柄茶髪女子高生の潤んだ瞳が滲んで光り、小柄茶髪女子高生の口から吐息が飛び散っている。
長身ロン毛男子学生がキスをしようとしている小柄茶髪女子高生の唇に顔を近づけ、長身ロン毛男子学生の口が伸びて小柄茶髪女子高生の唇を掴む。
小柄茶髪女子高生が長身ロン毛男子学生の背中に手を回してその唇を受け入れる。
長身ロン毛男子学生は顔を横に曲げ小柄茶髪女子高生を抱き寄せて、口の中から溢れる唾液を口移しで交換している。


小柄茶髪女子高生と長身ロン毛男子学生がイチャついてる。
 
 「こら、楽をするな」「アイテッ!」

 カメオ出演している作者をスメラギが小突くと向こうの木の陰に見慣れたツンツン頭が視界に写る。

 「あいつ、名古屋じゃないのか?」前を歩くスメラギに追いついて俺はなごっちの隣にいる女の姿を確認する。

 「あれは...」「ああ...」バックライトが彼女のシルエットを照らし出した。

 同じ学校の制服を着た丸々とした体系のなごっちの彼女は腫れぼったい膨れ顔で笑うと前歯が飛び出して、腰まで伸びた長い髪の頭頂部は薄くなっている。

 俺は彼女の残念なルックスを見てこみ上げた笑いを堪える。俺達に息巻いて彼女出来た、つってその程度かよ。俺がスメラギにちょっかいを出そうとするとヤツは真剣なまなざしで木の陰のふたりを見つめていた。

 ハンターハンターのヨークシン編に出てくる笛吹くヤツみたいな見た目の女は木の陰からその醜い姿を出してなごっちの顔を見つめている。

 俺とスメラギの頭の中にはWINOの「太陽は夜も輝く」が流れていた。

 なごっちがどっかで聞いたような名言を鼻をさすりながら自慢げに言う。

 「なあ、知ってる?人はシクシクなくやろ?でもって人はハハハって笑うやろ?
  シクシク 4×9=36
  ハハハ  8×8=64
  36+64=100 
 悲しいこと、楽しいこと合わせたらぴったり100なんねん!!」

 「100になったらどうなるの?」「そ、そりゃぁ、100になったら嬉しいやろ。100やで100!マックスなんや!」

 なごっちが彼女に身振りを踏まえながら必死に解説を入れる。それを見て笑っているとやつは何の前触れも無く一歩前に踏み出して辺りに響く声で彼女の肩を抱いた。

 「好きや!」「数奇屋!?」

 なごっちが河童女の肩を抱いて思い切りぶちゅー、とキスを交わした。「うげぇーー!」「あ、あいつ、やりやがった!!」

 公園内に響き渡るぶっちゅー音。ウヴォーさん、聞こえますか。これが俺達が地上の地獄からお届けするラブ・ソングです...

 「なんてことだ、なんてことだ」「ウワ゛ワ゛ア゛ァ!!見てらんねー!逃げろー!」「オアー!」

 あまりにもおぞましいその光景に見ることすら耐えられず、俺とスメラギは悲鳴をあげながらその場から駆け出した。


 俺達はカップルという言葉を聞くとつい、美男美女が美しい笑みを見せながら人前でイチャつく姿を思い浮かべる。

 でも実際はそんな美男美女はほとんどいなくてみんな自分の人生半径何メートルの間で出会った手ごろな恋人とその場限りの青春を過ごすのだ。

 公園に入ってから「リア充死ね!カップル死ね!」と毒づきながら歩いてきた俺とスメラギだったがここに集まって自分のちいさな幸せをまるで自分達が世界で一番幸せな人種であるように誇示するようにイチャついてる連中はレフ○バのシューくんでさえ「強く...生きろよ...」と伏せ目がちにエールを送るような顔面偏差値低めの残念カップルばっかりだったのをここに報告しておく。


 「なごっちのヤツ、アレは妥協したよなー」

 公園を出て駅まで歩く俺とスメラギ。俺は頭の後ろで手を組んでスメラギが視線を落としながら石畳の道を歩いて行く。俺はなごっち衝撃のチッスシーンを見て思い出し笑いがこみ上げてきた。

 「いくら彼女が出来たっつてもアレはノーカンだろ。後で切れなくなってぜってー後悔するパターンのヤツだろー」「羨ましい」「えっ」

 思わず歩くのを止めてスメラギを振り返る。声を震わせていたスメラギは俺の肩に腕を回して大声で泣き始めた。

 「うらやましいよぉー、ダイスケぇぇ」「お、おい、スメラギ」

 おいおいと涙を流す学生服の男を見て通行人が集まってくる。「そっか、じゃあ頑張って彼女つくろうな!」「...おう」「月子以外で!」「お、おう!」俺は振り返ってさっきまでいた公園に向かって叫んだ。

 「この陽キャ気取りのブサイクカップルども!この夏、俺達はゼッテーいい女とセックスしてやっからな!てめーらは泥人形相手に腰振ってろ!」「だ、ダイスケ...」俺はスメラギの肩を掴み返してこの夏の目標をギャラリーに宣言した。


 今日、スメラギが初めて俺の事を名前で呼びました。非モテ男子達の地獄の日々はこれからも続く!。。。なんかこの終わり方以前も使ったなぁー。終わり方ぼしゅーしまーすー。採用しねーけど。

 ウェイ!1


       

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