Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 おう、ワイや。先日念願の彼女が出来てハッピー街道まっしぐらの名古屋章太郎や。

 せっかくの主役回なのに俺はなんか知らんけど腹具合が悪くて、登校日の朝もはよからトイレに篭っていた。あ、いきなりやけどシモの方やないで。うんこやなくてゲロのほう。

 「章ー、あんたー早く準備せんと学校遅刻すんでー」

 台所からおかんの声が聞こえる。なんや、調子悪いな。俺は額に流れる脂汗を拭いながら便器に向かって喉をかっぴらいた。

 「ぐおおお......」「ん~?」

 獣が呻るような、異物を振り絞る俺の声が朝の居間に突き抜けた。「章!あんた、大丈夫かいな~」おかんがおたま片手にトイレのドアを開けた。ぜぇ、はぁ。。。俺はその場に吐き出したゲロを見ながら呼吸を整える。

 今日の俺、なんか変や。俺の身体、何がおきとるんや!?

 ~放課後~

 いつもの達逢川のデートスポット。彼女の笛柄富貴子ふええふきこと待ち合わせ。周りにはいつものように学校やバイト帰りのカップルがぎょーさんおって少し遅れてきた俺は貸しボート乗り場前に立っていたフキコに向かっておーい、と手を振る。

 頭の上の時計台から6時を告げる音が鳴り、川の周りに設置された照明が順々に灯っていく。俺は一日の内でこの瞬間が一番好き。足元からフキコを照らすそのライトはまるで2人の時間を祝福するような見事な輝きっぷりや。

 俺に微笑みかけるフキコに向かって声をかける「ゴメン、待った~?」

 「いえ、私もさっき来たばかりだから」「そっか、じゃ、少し歩こうか」

 フキコの手を引いて蓮の葉が茂る沼の周りを歩く。しばらくしてそこら中に付けられた公園内のスピーカーからムーディーなBGMが流れ出す。

 観光名所になってたこの公園に自治体が気を利かせて造りだしてくれた向陽町カップルのラブフラッシュフィーバータイムや。近くにいたカップル達がそれぞれに暗がりに身を隠してお互いの愛を語り合う。

 その例に漏れずに俺とフキコも落葉松の木の陰に姿を移す。今日の授業の話やクラスメイトの噂話なんかをしていたらフキコがそっと目を閉じた。

 「ねぇ、キスして」げっし動物みたいなすこし出た前歯と唇を突き出してフキコが俺にチューをねだった。俺はええで、と心の中で返事をしてフキコの両肩を抱いた。

 その時だった。俺の周りを嗅いだことがないようなおかしな臭いが取り囲んだ。なんや、この臭いは?どこから漂ってくる!?俺は辺りを見回した後、体調不良に襲われて口元を押さえた。

 「どうしたの?」身を屈めた俺を見てフキコが心配して俺の身体に手を伸ばした。アカン、このままやとフキコに情けないゲロ吐きシーンを見せてまう。俺は体中の力を振り絞ってその場を駆け出した。

 「ゴメン!今日はパス!また明日な!」出来るだけさわやかなカオを残してフキコを振り返る。「パスってそんな...」フキコが目に涙を溜めて俺を見つめていたが立ち止まらずに走り出す。

 「ぐっ!」急に腹に鋭い痛みがやってきて俺は脚を止めて状況を整理する。異様な臭いの正体は俺の腹の中からや。今朝から調子が悪いのはこいつのせいか。俺はこめかみに流れた脂汗を拭って呼吸を整えた。はよトイレに向かわな。

 俺はここから比較的近くて空いてる可能性が一番高い、自分が通ってる学校のトイレを目指して出来るだけ早足で公園の門をくぐった。


 夕暮れの校舎のドアを開けると暗がりの廊下には生徒はひとり居なかった。金槌で殴りつけるような頭病みがして目の前の視界が二重に覆いかぶさってゆく。トイレはどこや?はよこの異物感を便器にぶちまけたるわ。

 俺は急いで便所へ走り、便器の前にしゃがみ込んだ。そして、腹に力を込める。けど、口からは何も出てこなくて体中に焦りの汗が噴出してくる。

 もう一度、腹に力を込める。今度は確かに手ごたえがあった。

 「おっしゃ、出したで。ん?...」俺は便器に吐き出した固形物を滲む視界で眺めた。

 ――何や!?これは一体、何や!?

 そこに浮かんでいたのは――どろどろに解けている、真っ黒な棒状の物体。

 腹の中の不快物を排出した俺は、それがなんなのか確かめるために、便器を覗き込んだ。

 その棒状の物体は溜め水のなかでゆっくりと回転し重量のある側が下に沈み、その後水中でまっすぐに直立した。

 「あ......こいつは...」そこで初めて俺はその異形の正体に気が付いた。しかし、気付いたところで、もう、遅かった。

 俺は自分に正対したその異形と“顔を合わせた”。

 そして――

 歪な形状をしたソレはエイリアンのような輪郭の頭に、目は無く、身体の横幅ほどある口に突き刺すような凶悪な歯がずらり、と並んでいる。

 そして、胃液で解けかけていた顎にあたる箇所が水流で崩れて両生類のように不気味に光る青みががった灰色の全身を俺に見せ付けるように便器の中を泳ぎ始めた。

 そう。


  ――昨日の晩にスメラギの屋敷で興味本位で喰ったワラスボだった。


 「ぎゃあああああああ!!」

 俺は思わず便座を拳で叩いて立ち上がり、悲鳴を上げた。そして次の瞬間には便所から駆け出して誰かの助けを求めようとして廊下を走り抜けていた。

 自分が自分でいられなくなるほど取り乱していた俺は廊下の一番近くにあった教室のドアに手をかけた。なんて事や。とんでもないモンを見てまった。

 息を切らしながら横目で後ろを振り返る。さっき吐き出したあのワラスボが俺を追いかけてその凶悪な歯で後ろから噛み付いてくるんやないかという強烈な錯覚に襲われていた。

 誰か、助けてくれ!俺はドアを思い切り開くと叫び声をあげようと喉を引き上げた。

 そこにいたのは......さっき便器に居たワラスボそっくりの化物じみた生命体。しかもその姿は俺と同じくらいの大きさでひとりやなくてふたりおった。俺は意識が飛びかけてその場で静かに膝を折った。

 「ひっーーーー!!」

 ぴとん.....

 水道から流れる音が俺の視線を上に導く。「ちょ、なんだよキミ」ワラスボのひとりが俺にくぐもった声を返す。「演劇の練習の邪魔をしないでくれよ」咎めるような声を出したワラスボBを見て俺はこの教室の名前を思い出す。


 ここは演劇部の部室。「なんだ、途中で話の腰を折られると恥ずかしいな」「しゅーちゅー、しゅーちゅー。発表近いんだからもっと本腰いれてやらないと!」

 俺を無視して劇の練習を始める部員達。「やぁやぁ。我らは深海の底からやって来たワラスボウォーリアなるぞ」

 「うわ、なんだこいつらグロ過ぎだろ」「うげー、げぼげぼごぼ!!」「おい、流石に俺の姿を見て吐くのは失礼だろ!」

 鋭い三叉の槍を構えた有明海の沿岸に生息するハゼ科の魚のかぶりモンを見て俺はさっきのおぞましい光景がフラッシュバックした。

 「いややあああああああああああああああああーーーーっ!!」

 「なっ!?」「ちょっとキミ、ほんとにだいじょぶか?」

 「追いかけてくんなやぁぁああああああああーーーーっ!!ボケェーーーーーーーっ!!」

 俺はものごっつい勢いで校舎の玄関を飛び出して、一目散に走り出した。

 そして錯乱状態のまま走り回り、そのうちに脚を滑らせて川におっこって、そのまましばらく意識を失った(たまたま近くで釣りをしてたおっさん達に救助された)。

 何物かによる俺への呪いは海の珍味を喰ったことによる食中毒によって幕を下ろされたのだった。


ん?何か言いたそうやな?終わりやで、おわり。

次のお話でお会いしましょう。ほな!

       

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