Neetel Inside ニートノベル
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デェーとティー
夏だ!マジ恋だ!Sun wil shine!! 跨げ!キミは真夏の三輪車!!!

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 8月某日、俺は夜中に外に出ると団地の駐車場でミニバンの上に取り付けられたアタッチメントにサーフボードを積み込む親父の背中を眺めていた。

 俺の親父は昔波乗りをやっていた事があるらしく、昨日家に訪ねてきた友人がグアム旅行での土産話に向こうでの波情報をした事から再びサーファー魂に火がついたのか、物置から若い頃乗っていたロング式の緑色のサーフボードを担ぎ出してきて、「ダイスケも高校生だ。お前に波乗りを教えてやる」という名目でT県にあるウォンジュクに行くという運びになったのだった。


「よし、準備できたぞ。お前が乗るのはこの青色のボードだ」

 暗闇の中で親父が汗の滴る顔で俺を振り返る。俺が「こんな夜更けに出発するのかよ?」と問うと

「馬鹿野郎、波の上は戦場だ。基本的にひとつの波には一人しか乗れねぇ。だから俺達遠方住みは早くから沖に出て波待ちをしなくちゃならねぇんだよ」

 と、まるで作者が知り合いの鎌田君に税金関連の支払いを訊ねたときのような、『そんなことも知らないのか、一般常識だぞ。脳味噌詰まってますかー?馬鹿じゃねーの』という態度の返答が返ってきた。


 深夜2時。海へと向かう準備が出来た俺達親子は車に乗り込んだ。助手席に座った俺がカーステの上に置いていた森田童子コレクションを聞こうとEXITボタンを押すと

「今から陽気な海の男になるのにそんな陰気な音楽聞くんじゃねぇ」と親父がそれを取り上げてベンチャーズのCDを読み取り口に差し込んだ。

「で、お前の友達の件なんだが」

 親父がカーナビを起動させながら俺に聞いた。俺がメールで波乗りの話をすると周りの食いつきようが凄かったので、今回は俺の友人達も誘ったのだった。


 ミニバンが町中の住宅地にある真っ白な壁の一軒家の前で止まると眼鏡をかけた寝癖の付いた少年が俺達に向かって手を振った。

「ダイスケ君、久しぶり!」

「おお、よつ君、一話ぶりの登場じゃん!てっきり作者に忘れられていたと思ってたよ!」

「...メタ発言はやめてよ。はは...」

 俺が一番先に誘ったのはいつか俺を助けてくれた四ッ足歩よつあしすすむ君だ。よつ君は見た目に反して格闘技が凄くてナントカカントカ拳法をやってるらしい。

 別のクラスのため接点は少ないが、この機会にもっと親しくなればと誘ってみた。えっ?別に変な意味じゃないよ。女の子大好き!


 よつ君を乗せて夜の道路を進むミニバン。次のあいのりメンバーは俺達に内緒で彼女(ただしブス)をつくった名古屋章太郎だ。

「おー、待った待ったー。ダイスケのオトーハーン、よろしくおねがいしゃーす」

 なごっちは、しんと張り詰めた夜の空気に響き渡るような陽気な声でミニバンのシートに勢い良く乗りかけてきた。

「章太郎くんも誘われてたんだね!」

 後ろの席でよつ君がなごっちに声をかけている。が、クラスのリア充グループに所属しているなごっちは「コイツ誰やったっけ?」と終始アタマに?を浮かべながらよつ君の話を適当に受け流していた。

「次のヤツは...あー、まぁ誘わなくてもいいか」

「おい!」

 アンジャッシュ児島のノリで背の高い男が窓に張り付いてきた。最後の乗車員は俺の妹の月子に「ボクの豪邸に来たらすっごいポキモンがいるよーゲヘヘー」とそそのかしてレイプ未遂を犯したスメラギタツキだ。

「こら、新規の読者が引くような説明はよせ。ダイスケの父上、よろしく頼む」

 スメラギがシートに座ると車内にきつめの香水の匂いが漂ってきた。

「今回は妹君いもうとぎみが居ないのか。残念だな」

 俺が後ろを振り返るとスメラギの野郎は髪をワックスでオールバックで固め、額にはバカがかける大きなサングラス、下は今すぐ海に飛び込めるような派手な柄のハーパンを履いていた。親父がミラーでヤツを見て舌打ちをした。ヤツは親父の気持ちも露知らず能天気におしゃべりを始めた。

「いやー、こうやって大人数でビーチへ訪れるのも良いものだな。やけた砂浜に打ち寄せる白い波、そして美女。フフ、流石にこの人数のグループなら内気な俺でも萎縮せずに女性に声を掛けられそうだ」

 スメラギのぱんつの中心がくくっと持ち上がる。それを見てなごっちが「おい、スメー。おまえ今回のイベント、なんか勘違いしてへんか?」と声を向けた。

「お前こそ何を言っている。真夏の海といえば男女の一夏限りの恋愛模様。現地には金と地位を持つ男性の訪れを待つ美女が多数待機しているハズだ。漢スメラギ、このチャンス必ずモノにしてみせるぞ」

「つまり出会い目的でこの車に乗り込んだと?」

「ええ父方殿、そのとおりです。ん?お前達は違うのか?」

 低い声色の親父に問いかけられ、スメラギが俺達に聞き返した。はぁー、と呆れながらため息を吐き出すと、よつ君がボッキメンを言い詰めた。

「僕たちがそんな理由で海に行くわけないでしょ!」

「俺らは本気でダイスケの親父さんから波乗りを教えて貰おうとおもっとんのや!」

 便乗してなごっちも声を張る。

「そ、そうなのか?しかし波乗りはモテる男の趣味トップ3に入るとメンズ雑誌に...」

「第一、波乗りするポイントはお前が想像するビキニギャルがいる海水浴場とは別の所だし」

「えっ、そうなの?」

 俺が振り返って言うと、スメラギは居た堪れない様子でその場で縮こまった。俺達は息を吸い込むと、この何も分かっていない浮世離れた世の中童貞に声を張り上げた。


 「「「「海 を 舐 め ん じゃ ねぇ !!!!」」」」


 残響の後、車内を沈黙が包み込む。しばらくしてスメラギがちいさく「すまん」と呟いた。運転中の親父が交差点の信号待ちで、俺を肘で突いたのでこの重いふいんきを変えるべく俺はアイツに声を掛けた。

「わかってくれればいいよ。だから今日は男だけで楽しもうぜ、スラマッパギ」

「ありがとうダイスケ...って、俺の名はマレー語およびインドネシア語で『おはようございます』じゃねぇよ!!」

 ウィキペディアみたいなスメなんとかのツッコミで再び明るい空気に戻った車内。笑い声に包まれる中、「今のは大ヒット映画『君の名は。』と掛けたんだ」とスメゴニョゴニョが言っていたがそれはスルーされていた。

「そんなに女とヤリたいんやったら夏休みの間、某天の声芸人みたいに東南アジア売春ツアーでも組んだらいいがな!」

「誇り高きスメラギ財閥の息子がそんな下種げすい旅行、計画するか!...いや、まてよ。後腐れなく若い現地の女性の肌と触れ合える......アリだな」

「ナシだよ!ナシ!そんなことしたら僕が屋上で君をシメるからね!」

「本気にするな四ッ足。冗談だ」

 後ろで盛り上がるきゃつらの話声を聞いて俺と親父は顔を見合わせて頷いた。

 他にもよつ君が柔道の黒帯を取った話とか、スメラギの秘書がオーストラリアでオオアリクイに殺された話などで盛り上がっていると、辺りが明るくなり車の進行方向に燃えるような真っ赤な太陽が昇り始めた。

「おー、あれはきれいなサンセット」

「アホぬかせ。夜明けやからサンライズや」

 俺が窓を開けて太陽を見上げると後ろからツッコミを入れる関西人。少し落ち着かない様子のスメラギが俺達に向かって声を出した。

「な、なぁ。まだ着かないのか。普通の作品だったらもうとっくに波乗りを始めてる頃だろ?」

 メタい発言をするスメラギを怪訝そうにみんなが見つめるとヤツは指差しで説明し始めた。「ホラ、右の方見てみろよ。風景じゃなくてスクロールバー。この作者が前編後編分けるとは思えないし、この話もうすぐ終わるぞ」

「えっ、ホントに?」「アカン、行頭も無くなってきとる」「親父、車飛ばせ!」「まじかよ!」

焦った親父が高速の降り口を見過ごしてしまったので、俺達はサーファーの聖地ではなく、T県の下のほうにあるタテヤマンで波乗りをすることになった。

犬が床オナをしているように見える地元ゆるキャラ、チーガくんのちんこの辺りにあるこの場所の海岸はもうすっかり明るくなった太陽の下でゴリラのような屈強な体格の男達が薄板の上で巻き起こる白波に乗り上げようと機会をうかがっていた。

ゴリラのような男が波の上でボードに乗り上げるとそれを見ていた彼もまたゴリラのような見た目で彼に向かって親指を立てる。

ゴリラのような男は自分が乗った波をひとしきり楽しむと沖から浅瀬までを一瞬でそのゴリラのような体躯を運んでくれた波に感謝するように親指を立てながら飛沫を立てる波の中へと消えていった。

それを見て次の順番を待つゴリラのような男がパドリングという技術でそのゴリラのような両腕でボードを漕ぐ。彼の身に迫る強い波。ゴリラのような人の群れ。


なんかもう、全部ゴリラだった。


「アカン!もう作者の集中力が限界や!」「ああもう、準備体操なんかしてる時間がない!」「父殿、ご指導を!」「親父!」

俺達が海パンに着替えた親父にサーフボードを手渡す。

「見ていろよひよっこども!これが海に生きる波乗り野郎の姿だ!!」

親父はそう叫ぶと膝が隠れる程度の深さで海にサーフボードごとダイブをかました。さすが、プロレベルはこの段階でもうボードに乗るのかよ!

俺達が感心して歓声を上げると親父の身体がピクリとも動かなくなり、そのまま波に流されてドザえもんのように戻ってきた。どうやら飛び込んだ際に隠れていた岩でアタマを打ったらしい。

「とりあえず、海水浴場行こうか」

俺達は車からビーチボールとサンダルやパラソルを取り出すとビキニギャルのきわどい水着を脳内HDDに焼き付けるべくウッキウキで人がたくさんいるゆるい波の場所へ移動しましたとさ。

終わり。


 ちなみに帰りはスメラギの新秘書が家まで送ってくれました。サンキュ!


       

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Neetsha