Neetel Inside ニートノベル
表紙

デェーとティー
ダイスケと月子のなかよし兄妹ゲーム実況!

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 日曜日の朝、俺は団地の居間に埃の被ったゲーム機を運び出すと、液晶テレビの背面に赤黄白のケーブルを繋ぎ、コンセントに真っ黒の重い電源を突き刺して、持って来たゲーム機をテーブルの上に乗せ、付属のカセットを取り出して接触部分をフーフーすると満を持してカセットを入れ直してゲーム機の電源ボタンを入れた。

 ビデオ1に切り替えたテレビの入力画面に16ビットの表示で開発会社のロゴが光る。特徴的なSEが部屋一面に流れると俺は背伸びをしながらソファに座り込んだ。

「この音、好きなんだよねー」

 幼少時代数え切れないほど聞いたこのプレイ開始音を今、再び耳にして俺の腕にさぶイボが走る。すると奥の部屋からどたどた、とやかましい音が聞こえてきた。


「ちょっと!朝から何ゴソゴソやってんのよ!このバカ兄!アホ!マヌケ!ホーケー!ダイオウグソクムシの裏側!」

 妹の月子がなにやら俺に向かってわめきながら居間の戸を引いた。そしてテレビに映るゲーム画面を見て声を煌めかせた。

「あ、それ『ヤバイよ権兵衛 メケメケ道中 ~僕がアンソロ作家になった理由~』じゃん!どっから出して来たのよそれ!」

「駐車場裏にある押入れの奥」

 俺が答えると月子は俺の隣に座ってスーファミの2コンを両手で握った。昔のゲーム機は当時ベビーブームで子供が多かったせいか、アクションゲームは2人同時プレーが当たり前になっていて俺は親父がリアルタイムで使っていたこのスーファミを貰い受け、年末にサンタクロースが中古で買って来たこのゲームを幼少期に月子と一緒にプレイしたものだった。

 俺がゲームの中で権兵衛を操って街中を歩いていると画面にボン、と煙が立ち、月子が操作するベンテン丸がスキップしながら権兵衛の後をついて歩いてきた。月子がセレクトボタンを押してゲームに途中参加したのだ。月子がゲームの操作方法を思い出すようにコントローラーをカチャカチャ動かしながら不服そうに俺に声を出した。

「ねぇ、月子こいつやだ。権兵衛にしたい」

 俺は「わかったよ」と声を返して操作キャラを肥満体系のベンテン丸に切り替えた。ゲームの仕様上、一部を除いてキャラをちょうふくして使うことは出来ない。ベンテン丸はこのゲームが漫画として掲載されていた少年誌でお下劣キャラとして描かれており、シリーズを通してずっと登場するキャラクターなのだが人気投票でも圧倒的に人気が無い。しかしベンテン丸は隠れステータスとして攻撃を受けたときの耐久性が高いのだ。

 さすがはデブの功名。月子よ、見た目で差別して使わなかったことを後悔させてやるぜ!ベンテン丸の性能とやらを!俺達は街を抜けるとMAP選択画面に移動し、敵を倒しながらゴールを目指すアクションエリアのアイコンにキャラを載せてボタンをポチっと選択した。


「あれ~~今のはぎりぎり越えれたと思ったけどな~」

「あははっ、ダイスケ死にすぎ」

 俺が操作するベンテン丸が大穴を飛び越えられずに一機減らすと先を進む月子がコントローラーのボタンを叩きながら笑った。月子は俺と話している時にテンションが上がると俺の事を名前で呼ぶ。

 というか、月子はいつの間にかこのゲームをやっていた時まで精神年齢が下がってしまったようだ。

 俺が再度大穴を飛び越えようとしてベンテン丸をジャンプさせるが穴から飛び出してきた謎の魚による衝突により、このシリーズから搭載された『ほに~』という情けない死にボイスを残して再びベンテン丸は穴の中に落ちていった。

 昔のゲームは短いエリアを子供がすぐにクリアしてしまわないようにこういった頭を使うギミックを多数入れている、という話をどっかの番組で開発者がしていたのを思い出した。

 そんな事を何も知らずにまた一機失ったベンテン丸の死にモーションを見て大股を広げて笑う月子。俺は妹に舌打ちを返すと点滅して上空に浮かぶベンテン丸の再起を待った。

『ほな、行きまっせ!.....ほに~!』

「あっはっはっは!」

 3度死んでげーむおーばーになったベンテン丸を見て月子が地団太を踏んで大声で笑い始めた。このゲームのアクションエリアは横スクロール式でベンテン丸が再起する瞬間に月子が着地点を大穴の方にずらしたのだった。

 ダメだ。これは一緒にゲームをするにあたって、はっきり示しておく必要がある。俺はコントローラーのポーズボタンを押して立ち上がると月子の元へずんずん歩き、頭を無言ではたいてやった。

 月子は驚いて俺の顔を見上げたが、再びコントローラーを手に取るとテレビに向き直って小さな声で「ごめん」と呟いた。

 ふん、女なんてモンは力で黙らせちまえば大人しいもんだ。俺たちはその後も操作キャラである、忍者ロボのワビスケとおいろけくのいちであるタエちゃんを操作可能キャラを示す『ぷれいんぐりすと』に加入させるとサクサクとプレイを進めていった。


 アクションエリアを進めて行くと再び目の前に大穴が広がっていた。機動性のあるワビスケに操作キャラを切り替えた月子が空中で一回転してその大穴を超えると、絶壁から半歩踏み出した俺が操作するベンテン丸を見てアドバイスをした。

「ねぇ、この穴変だとおもわない?」

 月子に聞かれて頷くと、「ここ、下にワンアップあるよ」と月子が機械的なトーンで声を出した。俺がホントかよ?と聞き返すと

「本当だって!つわ○すさんが実況動画で言ってたもん!」と声を張ったので俺はその情報を信じて崖から脚を外してその奥へ飛び込んだ。

「あ、そこもうちょっと右ね」

『ほにー!』

「おい、ちょっと月子!」

 俺が怒って立ち上がると月子がポーズを押された画面を指差して飛び上がった。

「月子嘘ついてないもん!ほら、右側にワンナップあるし!」

 俺がテレビの画面を見ると確かに崖の中に掘られた安地にワンアップアイテムが置かれている。落ちている時に空中でバランスをとってその安地に入れと言う事だったのだろう。理解して俺は元居たソファに座り込んだ。

「くそ、もうちょっと先に言えよ」

「てへへ、ごめん。私だってこのゲーム久しぶりだから自信無かったんだよ」

 月子がはにかむと俺達はまたゲームを進めていった。状況は終盤に入り、水のエリア。神秘的なBGMがテレビのステレオから流れている。

「あー、俺ここのBGM好きだわー」

 俺がなんとなく声を伸ばすと月子が音楽の成績1である俺を横目で見て鼻で笑った。俺は馬鹿にされたのが鼻についたので無視して音楽談義を始めた。

「ホントこの曲の構成のバランスが良いわー。特にここのベースのラインがさー。あ、ここからのメロディ、展開が神ってるんだよねー」

 俺が思いつくままにこの曲を褒めていると月子が隣でブツブツと何の脈絡も無くラブライブの劇中歌を歌い始めた。そのボリュームはBGMのサビに近づく度に大きくなっていく。

「...愛してるばんざーい!ここでよかったーわたしたちの今がーここにあるー。愛してるばんざーい!始まったばっかりー明日もよろしくねーまだーゴールじゃなーい」

「全 然 聴 コ エ ネ ー ヨ ! !」

 叫びながらコントローラーをテーブルに叩き付けるとすっかり1ループが終わってしまったBGMを聞き返して俺はため息をついた。

「このコースもう終わるよ」

 そういうと月子はワビスケで華麗にゴールラインを飛び越えていった。


 次のコースは人魚に変身できるタエちゃんを使って操作する水中エリア。終盤ということで難易度が一気に増し、先にげーむおーばーになった月子が体力ゲージの少なくなった俺の操作するタエちゃんに助言を与えた。

「あのさ、そこから突き出てる長い針に当たると全回復するよ」

 骨魚に当たって体力を示すハートのゲージがひとつになったタエちゃんを操作しながら「いやいや、流石にそれは嘘だろ」と月子に答えると「本当だもん。知らないの?有名なバグ技だよ?」と月子が口をすぼめた。

 バグ技、と言われて俺の頭に当時の記憶が蘇ってきた。昔やった時に検証して見なかったけど、確かにクラスで誰かがそんな事を言っていた気がするな...

「ほら、針治療。おさかなたくさん沸いてきたよ」

 月子が急かすので俺は人魚に化けたタエちゃんを勢いよくダッシュさせて水の中にある針目がけて飛び込ませた。すると体力メーターが全回復、とはいかずにハートがゼロになり俺達は屈辱のげーむおーばーを喫した。


「違う!違うの!水中の針はダメ!回復できるのは水辺に向かって下げられてる釣り針だけだって!」

 俺が月子の襟首を掴んで締め上げると月子は持っていた携帯の画面を見せて俺に命乞いした。画面が映してるのはこのゲームの攻略サイトで、そこには本当にバグ技として月子が言うとおりの『針治療』が記述してあった。

「ちなみにここでAB連打するとバーを超えるスピードが速くなるよ」

 月子を解いてテレビに向き直るとコンテニュー画面で陽気な赤鬼がリンボーダンスをしながら『ヘイ、ぶらざー!再トライするかい?』とプレイヤーに尋ねている。

 俺は月子の言うようにテーブルにコントローラーを置いてかちゃかちゃかちゃ、ABのボタンを爪で引っかくようにして連打を繰りかえした。

「もっと、早く!」

 また月子が急かすので、俺は身体を屈めて反対の手で無駄打ちが無いようにコントローラーを固定してフルパワーでボタンを連打した。

「どうだ!月子、まだかよ!?」

 耐え切れずに俺が顔を上げると月子はしたり顔で俺に向かって白い歯を見せた。

「はい、ウッソー!一応、私は女なのに全力で首絞めとか正気か。バーカ!」

 クゥオラ!俺が月子に飛びかかろうとするとこのタイミングで親父がタバコを買いに行ったコンビ二から帰って来たので、俺は本棚で若島津ばりの三角飛びを決めて元居た場所に着地した。

 とはいえ、物語は終盤の終盤。俺達はコンテニューし直すとこのゲームのラスボスである火あぶりガマ太郎の日本人総がんぐろ計画を阻止すべく敵の総本山に足を踏み入れた。

 小学生向けの難易度のステージを次々とクリアし、ラストはお互いにロボットに乗り込んでの決戦となった。

 ラストバトルが始まると月子が敵の台詞をスキップしながら俺に声を向けた。

「あのね、月子ちょっと意地悪しちゃったけど、久しぶりにお兄ちゃんと一緒にゲーム出来て楽しかった」

「月子....」

 俺が感傷に浸っていると月子が俺に持っていた携帯電話を差し向けた。

「迷惑かけちゃった分、ここで取り返す。ここは月子に任せて」

 俺が携帯を受け取ると月子がポーズボタンを押してひとりプレイで戦闘を再開した。サッカーボールをリフティングするように敵ロボットをタコ殴りにすると月子が携帯に目を落とした俺に向かって声を上げた。

「ここで必殺技だすよ!読み上げて!」

「おう!必殺鼻空想ボムラッシュは↑→←↓↑↓+ABAB最後にYだ!!」

 俺がコマンドを指示すると月子はばくれつけんを放つマッシュのように慎重かつ大胆にボタンを押していった。

「これで終わりだー!くたばれガマ太郎ー!うりゃー!!」

 ボタンを入力し終えた月子が勝利を確信して立ち上がり、コードの付いたコントローラーを天井に向かって掲げて叫んだ。するとテレビからブー、と一定間隔で耳障りな音が流れて画面が一切動かなくなった。

「あ、これ......」

 俺が絶句すると月子は静かに座りなおし、スーファミのリセットボタンを押しながら再び電源ボタンを入れなおした。

「...この音、好きなんだよねー」

「それさっき、俺やったし!」


『ヤバイよ権兵衛 メケメケ道中 ~僕がアンソロ作家になった理由~』ゲーム実況プレイ~未完~


       

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