Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 次の週の日曜日、我々は横山に都心の某駅へと呼び出された。この日は近くの会場で国内最大規模のファッションショーが開催されている。

 前回の失敗を踏まえ、横山がチラ見スタとしての真の実力を我々番組スタッフに見せるという。

「どーも、よろしく。今日は(取材)最終日?ちょっと悪い流れが続いてたからね。ここでズバッと、最高のチラ見を皆さんに見せたいと思っているよ。うん」

 後ろの方で携帯電話を片手に家族と思わしき相手と話していた猫飼いが横山を見て微笑んだ。今回横山のチラ見ストとしての生き様を見届ける立会人だ。駅構内に入り、すれ違う人々を見て横山は今日のターゲットを見定める。

「金曜日、派遣の契約切られちゃってね。来週から無職」

 思いもしなかった横山の言葉に耳を疑う。怠慢な横山の作業態度がビルの監視カメラに写りこみ、派遣先の会社から懲戒解雇の連絡が入ったと知らさせた。

「決めた。アレ行く」

 足早に歩き出す横山の動向を我々は猫飼いと共に遠巻きから見守る。猫飼いは今日の横山は雰囲気がいつもと違うという。

《彼も最近良いトコ無しで気負ってる部分はあると思う。それにしても今日多いね》

 猫飼いの言葉で番組スタッフが辺りを見渡す。道の短い間隔で配置された警官の数。この警備の中、女性の胸をちらり見るのは容易な事ではない。

《あ、失敗だ》

 甲高い猫飼いの声があがる。人ごみから女性の前に姿を現した横山にターゲットの彼女が気付いてしまい、失敗。

《スクリーンを抜けるタイミングが早かった。らしくないミス》

 顎ひげを親指の腹で撫でながら今の横山の動きを振り返る猫飼い。確かに今日の横山の動きはぎこちない。改札の前を通る女性にフェイクオブジェクトを仕掛けるも、これも失敗。

《ちょっと目に力がなくなってるよね。以前までの(おっぱいに対しての)執着がなくなった》

 猫飼いの言葉で先日別れ際に見た横山の姿を思い出した。いつもなら難なく見れていた女性の胸元。目の前で警官に組み伏せられたトラの姿を見て横山の心に迷いが生じたと猫飼いは語る。

《それでも、取り戻そうとしてるんだと思います。チラ見ストとしての、これまでの自分を》

 その後何度か失敗を繰り返し、横山が猫飼いの元へ戻ってきた。腰に手を当ててスタッフから渡されたペットボトルを手に取る横山。警官の数がこれまでとは段違いだという。

《この日に大規模なイベントが行われることは分かっていた?》

「それはもちろん。それで今日は皆をここに呼んだんだ。でも難しいね。やっぱり第三者の目が(気になる)」

《メンタルの問題?》

「いや、それは関係ないよ。いつもと同じ。普段通り」

 水を飲み込むとボトルを渡して力強く二度頷いて横山は歩き出した。《頼むよ横山さん》猫飼いが顔の前で手を組んで祈り始めた。

 構内の雑貨店の前には女性向けのグッズが置かれている。それに気をとられた女性の視線が向かう、美貌の所持者の注意が緩むチラ見ストとしては絶好のチャンス。

 横山がそこを目がけて歩いていくと雑貨店を大きく通り過ぎた後にUターンしてこちら側に戻ってきた。どうやら死角にも警備員が配置されていたらしい。


 PM18:00。イベントが終了して2時間以上が経ち、駅付近には出演モデルを意識したような胸元を大きく露出した女性の数が減ってきた。日曜という事でOLもほとんど居ない都心の構内。

 若い女性にターゲットを絞る横山にとっては不利な状況。そしてまた、スクリーンから抜けるタイミングを逃して失敗。《ほんと、どうしちゃったんだろうね》これには猫飼いも腕を組んで首を傾げる。


コォォォン..一瞬に全てを賭ける


 撮影を始めて早3時間。この日横山は一度も綺麗な形でチラ見を決められてない。フィルムを代えるカメラマンが苛立つ中、横山が我々に衝撃のひと言を放った。

「次で決められなかったら、俺、警察に自首するわ」

 猫飼いが、言葉を失う。「ターゲットはあの子にする」我々にそう告げると改札に向かって横山は歩き出した。《そんな、無茶だよ横山さん》

 横山が最後のターゲットに決めたのはニットの上から大きな胸を揺らしながら歩く地方から訪れたと思わしき若い女性。キャリーケースを片手で引き、煌かす瞳には都会への憧憬が映りこんでいる。

 横山ならずともすれ違う男性が彼女の胸に気をとられてチラ見する。その度に彼女は振り返って男の後頭部を睨みつけた。横山が到着する頃には我慢の限界。大声で警備員を呼ばれてもおかしくない状況だ。

「はっきり言っちゃうとさ。俺は男からチラ見されるようなおっぱい大きい子とは付き合えない。でもチラ見をしているその瞬間、その子のおっぱいは俺だけのものになる。その瞬間が堪らないんだ。
その子の為になんにも出来ない。その子に声も掛けられない俺がコンマ数秒、その子と繋がりが持てるんだ」

 取材当初に横山がマンションで熱く語っていた言葉を思い出した。


「チラ見は俺の生きる希望なんだ」


 横山がいつものように前を歩く男性をスクリーンにして道を歩く。しかし、彼は女性のかなり前でその背中から離れて歩き始めた。猫飼いも知らない初めて見せる横山の新ルート。

 左側からおっぱいを眺める予定だった横山が右側に移動。彼女に近づくとさっきまで横山の前を歩いていた男が女性の揺れる胸を眺めた。すると彼女の怒りのこもった瞳が男の顔を睨んだ。

 その瞬間、横山の口許は笑っていた。前の男の思考を読みきった二重での、そしてフリーによる乳独占のガン見。

 彼女の注意が別の男に行く中、横山が彼女の正面で揺れる大きな胸、横乳、そして最後に下着が浮いた背中を眺めて大回りをしてこっちへ戻ってきた。

「やった、俺やったよ!」

《よくやった。すごい、すごいよ横山さん》

 涙ながらに抱き合う中年ふたり。極限状態のプレッシャーで横山は新たなチラ見スタイルを身に着けてそのミッションを成し遂げた。


 デデデン、デデデン、デデデデーデデン^~

「やっぱりね、不安はありますよ。チラ見した子が俺を警察に突き出すんじゃないかと、女性に対して怖さみたいなもんを感じてる部分もある。でもやめられないんだよね」

《横山修一にとってチラ見とは?》

「こういうとき別の人だったら“人生!”なんてカッコ良く答えられるんだろうけどさ。そういんじゃないから。誰でも見れるから。日々の積み重ねだよね。それとちょっとした工夫。それでつまんなかった人生は変わると思う。
ほんのちょっとだけどね」

 おっぱいチラ見スタ横山修一。男としての生き様を貫く彼の進化に、終わりは無い。

 ―終―
NえっちK 




       

表紙
Tweet

Neetsha