Neetel Inside ニートノベル
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デェーとティー
親の金で回転寿司が食べたいっ

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 「回転寿司だー!!」

 夕食時、団地の居間で俺は叫び声を上げていた。毎月25日は親父の給料日で、俺達一家はその日に回転寿司を食べに行くという決まりがあった。

 「馬鹿兄、なに回転寿司くらいでテンション上がってんのよ」

 口ではそう言いながら妹の月子はミニワンピの下のひざを擦り合わせてもじもじ落ち着かないそぶりを見せている。ふん、身体は正直だ。

 「今日は月に一度のチートデイ、今から何食うかシュミレーションしておかないとな」

 「馬鹿、シュミレーションじゃなくてシミュレーションよ」俺が座っているソファのテーブルを挟んで反対側にあるソファに月子が座った。

 「えっと、マグロにイカにサーモン、アボカドその他もろもろ...締めはやっぱりコハダかな」

 「私は断然、魚卵系。ウニにいくらに数の子、軍艦巻き...ああ、なんだかよだれ出てきた......」

 「魚卵系はコレステロール値上がるぞ」「うっさいわね!」アへ顔を浮かべていた月子がソファを立ち上がった。

 「でも先月は本当に食べたよね。二人で50皿くらい食べてなかった?」「ああ、親父の顔真っ青だったよな」「うん、うん」

 冷蔵庫から麦茶のビンとコップを持ってきた月子がそれらをテーブルに載せて、またソファについた。

 「月に一度、家族で回転寿司に行くのがお母さんの言いつけだし。お父さんには可哀想だけど、今月もたらふく頂かせてもらうわ」

 月子、おぬしも悪よのぅ。俺がほくそ笑んでいると玄関のドアが開く。「おーう、今帰ったぞー」ドカタ職の親父が足袋を脱ぎながら俺達に声を伸ばす。

 「おかえりなさーい、お父さまー♪」顔の横で手を組んで猫なで声を出す月子の前に親父は手に持ったコンビニ袋をテーブルの上にどちゃっと置いた。

 「え、これって...」「ああ...おまえら腹減ってんだろ?これ食え」俺達兄妹は顔を見合すとがしゃがしゃコンビニ袋を漁った。中にはカップめんと思しき物体が3つ、4つあった。

 (ちょっと、どういうこと?今日は回転寿司の日じゃない!?)隣で月子が俺に耳打ち。(日付間違えてんじゃねぇの?ケータイ見ろよ)(ダメ。ケータイ、部屋で充電中だもん)

 「おーう、さすが最新型。おまえらもうお湯が沸いたぞ。早くフタ空けな」職場の同僚から貰ってきたケトルを持って親父が台所から笑みを浮かべながら歩いてきた。

 「じゃ、じゃあせっかくだし、一杯だけ」俺と月子はお湯を注がれるどん兵衛を見ながらごにょごにょ声を親父に返す。

 (お父さん、今月の稼ぎが悪かったから回転寿司はナシになった?)月子が俺に「親父に聞け」と目で合図を送る。(いや、それはねーだろ、月イチで寿司を食わせろっていうのがおふくろの言いつけだぜ?)

 俺が親父の顔を覗き込むが表情からは本音を嗅ぎ取ることは出来ず、「おう、関西味もあるぞ」とビニ袋から出したもう一個のカップめんを俺達に差し出した。

 「関西版!?始めて見た!」月子が手に取ったカップめんを見て歓声をあげる。「ほら、見てここに(W)ってマークがある!」「はいはい良かったねー、可愛いねー月子ちゃーん」目を輝かせる月子に俺は適当に相槌を打つ。

 「せっかくだから食べ比べしよーよ!」「ええ...テンション上がり過ぎだろ...」と、いうわけで俺達兄妹はひとり二杯ずつ、都合カップめん4杯を平らげた。

 「よし、食ったな。お前ら」俺達の顔を交互に見て親父がクルマのキーを手の中でまわしながら立ち上がった。

 「外に出ろ。クルマを出す」「えっ」「どういうこと?」親父に指示されるとおり駐車場のミニバンに乗り込む俺と月子。

 「おい、さっきカレンダー見たらやっぱり今日、25日だったぞ」「食後にデザートでも買いに行くんでしょ?」平静を取り繕うが月子の横顔には冷や汗が伝っていた。

 「おい、この道...」「やめてよ」「あの看板...」「やめてってば」「この匂い...」「ううう......」


 「よーし、お前ら回転寿司の店に着いたぞー」

 「ウワァァァアアアア!!!クソ親父!!やりやがったな!!」

 「マアァァァアアアア!!!こんなことって!非道い!酷すぎるわ!!」

 クルマから降りてクシローの看板の下で膝を折る俺達兄妹。それを見下ろしながら親父が残酷な笑みを浮かべてタバコの煙を吹き出した。

 「ほーら、ダイスケ、今日は好きなだけ寿司食っていいからなー」「...もうほとんど腹に入らねーっての...」拳を握り締め、ぐっと涙を堪える。

 「月子ー。今日はお前の好きなトビッコ、品切れじゃねーといいな」「こんの、極悪人...月の無い夜には背後に気をつけなさいよ...!」

 月子が親父を睨みつけながら立ち上がる膝に力を込めた右手を置いた。

 「何言ってんだ。公約どおり回転寿司に連れて来ただろ。月イチの贅沢を精一杯楽しむんだな」

 「チクショォォォオオオオ!!!!!!」


 闇夜に響く兄妹の叫び声。父の策略により月に一度の楽しみをお腹いっぱい食べられなくなったダイスケと月子は回転寿司の日を別の日にずらしてもらうことが出来るのか!?




 ――さぁ!お待たせいたしました!はたしてダイスケと月子は寿司を食べられるのでしょうか!...最強弁護士軍団の見解は!?


 ギミー オア トゥルース  ペロン


 おっと、意見が分かれました。キタムラ弁護士、これは?
 
 「これはやり直し利くと思いますよ。兄妹はうどんを食べる前にこの後に回転寿司を食べに行くと知らされてないわけですよ」

 「でも、毎月25日は寿司を食べに行く日だってこのコらは分かってる訳ですよね?」

 はい、マルヤマ弁護士!...まだやねん、アンタの出番。「ああーそうなの」「...話の腰を折らないで頂きたい。これはお父さん非常に悪質ですよ。特にうどんは腹持ちがいいですからね」

 スミダ弁護士もキタムラ弁護士と同じ意見?

 「ええ。特に妹さんはこの月に一度の回転寿司をとても楽しみにしている訳なんですね。それをこんな形で妨害されるのは悔しいでしょうしお父さん、これは冗談だって早くネタ晴らししてあげて欲しいです」

 「とは言え、お勘定するのはこのお父さんなんだから」はい、マルヤマ弁護士、人が話してるときに入ってこない!

 「いや、ブイ見てたけど、この子らいいもん食べようとし過ぎですよ。ウニといくら交互に食べたてたらあのお父さんの薄財布いくつあっても足りませんよ」

 ちょっと、行列メンバー聞いてみよっか。東京04のツノダ。おまえどう思う?

 「えっ、ボクですか?やっぱりねぇ、これはお父さんやっちゃダメだと思うんですよぉ!やっぱり親しき仲にも礼儀ありって...な、なんすか!シンスケ兄さん!」

 おまえあんま調子のんなよ? 「ひ、ひぃ!」「...シンスケさん、襟首離してあげて」

  …チッ、お前ら命拾いしたな。後でマルヤマ弁護士に礼言っとけよ......ハシモト弁護士はどう思う!?

 「どう思うって...


  どうでもいいんじゃないですかね?」


 それ言うてしまったらおしまいやんけーー! ドッ ワハハ


  …みんなで笑いを作り上げる暖かいスタジオ。シンスケ兄さんとの沢山の思い出。これは僕が大阪府知事に成り上がるまでの物語だ。。


 おら、笑えやお前ら! ドン! ヒ、ヒィイ!!



親の金で回転寿司が食べたいっ ―完―

       

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