Neetel Inside ニートノベル
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デェーとティー
巨大プリンを作ろう!!

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「巨大プリンをつくろーーーう!!」


 大勢のスタッフがときの声を上げたおばさんに続いて拍手を打ち始めた――8月の後半、俺達はスメラギの豪邸地下にある25メートルプールの前に立たされていた。拡声器を持ったスメラギの召使いが囚人服のような白とネイビーの横縞水着に着替させられた俺達に向かって声を張る。

「本日はタツキ坊っちゃま16回目の誕生日だ!そこで今回はサプライズで友人であるお前達に坊ちゃまの大好物であるプリンを作ってもらう!このプール一面を使ってな!」

「...サプライズってか、すぐ目の前に本人いるし」

 俺はプールの反対サイドで豪華な椅子に座って頭にパーティ帽子を被ったヤツを睨んで呆れてため息をついた。

「い、イエ~」隣に並ぶよつ君となごっチがイマイチ乗り切れない態度で手を叩く。スク水の上に学校指定のジャージを羽織った月子が召使いを見ながら俺に向かって小声で尋ねた。

「ねぇ、あの人オーストラリアで死んだっていってなかった?オオアリクイに殴られたとかで」

 ああ、そういえば。こないだスメが海に波乗りに行ったとき、車の中でそんな話をしていたのを思い出した。それを聞きつけて注意事項等を話していた召使いがシュバババとこっちへ走り寄ってきた。

「オーストラリアで死んだのはこのファン・ウェルメスケルケン・彩子ではなく新人だったマイケミ・花子だ!彼女の魂に誓って二度と間違えるな!」

「そうなの!?読者全員あんたの事だと思って読んでたよ!?てか作者もあんたのつもりで書いて...!」

「さ、坊ちゃまを待たせている。そろそろ準備に取り掛かろうではないか、皆の衆!」「イ゛ー!!」

 召使いの彩子が月子の口許を手袋をはめたで覆うと周りにいたスタッフ達が複数の台車に乗せられたプリンの材料を運び出してきた。その上には大きな形状のタマゴや箱に入ったプリンの元などが乗せられていた。

「凄いよこれ!ダチョウのタマゴだよ!」

「続けて割るとなると結構しんどそうやな」

 よつ君となごっチが材料を手にとって作業手順を確認するようになごやかに話し始めた。てかお前達はなんでこんなヤツのために乗り気なんだ。月子がスク水のケツの食い込みを直しながらずっと視線を送り続けているスメラギを睨んだ。

「なんで私をレイプしようとしたヤツのためにこんなことしなきゃいけないのよ...」

「あー、お前達!今日頑張ってくれた奴一名をMVP(Most Valuable Purinist)と表彰して鯵野迅(あじのじん)の向陽ホール公演のチケットをやるぞ」

 彩子さんが拡声器で声を張りながら紙切れをひらひらさせると月子がシュバババと普段見たことの無い動きでその元へ駆け寄った。

「ホント!?本当に鯵野迅のチケットくれるの!?チケット争奪率500パーですっかり諦めてたの!...うわ、てか凄い良い席じゃん」

「こら、離せ小童!...チケットをやるのは一人だけだ!スメラギグループと交流のある芸能事務所からの意向だからな。我らの働きに感謝するといい」

「おっしゃー!それじゃどんどん材料用意しちゃおー!月子、牛乳と砂糖かき混ぜる係りやるよ!」

 月子がカスタード液を作るために用意させた巨大ミキサーを手にとってその電源のスイッチを入れた。ウィィィイイイイインンという機械音が響き渡る中、俺はけだるい足取りで目を輝かせる月子の背中に言葉をぶつけた。

「鯵野なんて不細工フェイクポップスターのどこがいいんだよ。大体ヒット曲の「Sun」ってフィンガーファイブの曲の丸パクリだろ。トップがこんなだから邦楽のレベルはクソだって世界中から笑われるんだよ」

「ああん!?なんか言った?あんたも四肢切断してこのホール器の中ぐちゃぐちゃにかき混ぜるわよ!!」

「サブカル糞女、怖っ!!」

 睨みを利かせた妹におののいていると離れた場所にいたなごっチとよつ君が俺に声を掛けてきた。

「おい、ダイスケ早くしーやー」

「僕はタマゴを割る係りをするよ!」

 汚れてもいいように着せられた囚人風上下一体式水着の前部分をダチョウのカラザで汚したよつ君の満面の笑みを見て、俺は観念してこいつらのプリン作りを手伝うことにした。


「てかさ、これだけの量のプリンをどうやって冷やすわけ?」

 腕が疲れて休み始めた月子がプリンの元を箱から出して仕分けている俺に声を向けた。確かに。俺は深い25mプールの底を見つめて湿った息を吐き出した。

 すると手持ち無沙汰だった彩子さんが「やっとその事に気付いたか」と床屋で髪を切った次の日の小学生みたいな態度で眼鏡のつるを指で押し上げた。

「その為に我がスメラギグループの財力を結集した冷却システムを用意してある!アレを見よ!」

 彩子さんがスメラギ側の壁を指差すとヤツの後ろにある壁がゴゴゴゴと開いて中から大型のファンが取り付けられたメカメカした装置がせり出して来た。おぉーとスタッフが唸るなか、彩子さんがソレの説明をした。

「あの超大型冷却装置を使ってこの部屋ごと一気に冷やす!あのシステムを使うには国に使用届けを出さなければいけなかったから時間までにキッチリと材料を仕込めよ、お前達!」

「使うのに国に届出が必要な装置って...」

「動力源はなんなんやろな~」

「もしかしてヤバい装置なんじゃ...」

「ほらお前達!時間まで後一時間半だ!坊っちゃまを待たせている。早く仕込め!お前ら!」


 ...こうして俺たちは年増のメイド女に仕込め、醜女、と言われながらプリンの材料を用意し始めたのであった。

続く!キリッ



     

 誕生日に誰も祝いに来ないのは可哀想だと思ってスメラギ邸に訪れた結果、アイツの好物であるプリンを25mプールで作らされることになった俺たち4人。

 それぞれに作業を分担してプリンの材料を仕分けていく俺たちを見てスメラギ家お付きの召使いである彩子さんが後ろ手を組んでうんうん、と頷きながらプールサイドを歩いている。

「久しぶりに日本に帰ってきて坊ちゃまのお世話をしてきたが...いや~いいモノだな~お前達~。お前たちは私から見れば本当にY・B・Yだ!」

「Y・B・Yってなんだろ?」

「さぁな。どっかの芸人のネタやろ」

 よつ君となごっチが小声で話しているのを聞いて、うずうずした表情で彩子さんが眼鏡を指で押し上げた。

「Y・B・Y。お前達の坊ちゃまを想う気持ちを見て私はY・B・Y。マジで本当に『ヤ・バ・イ』、と言う意味だ」

「あはっ、彩子さん。ヤバイはY・B・YじゃなくてY・B・Iだよっ」

 挙げ足取りの名人である月子がクリームの付いた顔をぺろり、と舐め上げると彩子さんに向かって意地の悪い声を出した。それを受けて彩子さんが不思議そうに振り返った。

「ん?そうなのか?...ああ、私は日本よりドイツや欧州圏での生活が長くてな。お前達が言うイーは向こうではYeeになる。それにY・B・Yの方が文字の並びに規則性があるし、顔文字みたいで可愛らしいとは思わないか?」

「うぐっ、そんな理由があったの...?」

「ウェーイ。情弱乙ー」

「うっさい!死ね!クソ兄!」

 ウギャァ!月子が涙目で巨大ミキサーを俺の背中に当てて電源のスイッチを押した。ゴリゴリゴリと肩甲骨が削れる痛みが体中を駆け巡る。

「むっ、坊ちゃまが呼んでいるようだ...少し行ってくる」

 そう言い残すと彩子さんは忍者のような動きでプールの反対側にあるスメラギが座る椅子の前にひざまづいた。落ち着かない様子でスメラギが彩子さんに耳打ち。

「なぁ、こんなペースで3時の冷気放出時間に間に合うのか?まだ足首が埋まる程度にしか出来ていないじゃないか。今回の件は父上に内緒で進めているんだろ?
もしあの馬鹿共のひとりが怪我でもしたら株価を動かす大事件になる。もっと効率的に、速やかに事を進めろよ」

 彩子さんはスメラギの言葉ひとつひとつをうん、うんと目を閉じながら頷いて聞き終わると、立ち上がって俺たちを振り返って声を張った。

「お前達、坊ちゃまが本当におまえら、Y・B・Yだと褒めていたぞ!」

 それを聞いてうぇーい、と盛り上がる作業スタッフ達。

「おい!」

 スメラギが怒声を上げて俺達の方へ戻ろうとする彩子さんを呼び止めて話を続けた。

「さっきからY・B・Yってなんだよお前。久々の登場だからって調子に乗んなよ。このままじゃ間に合わないからスタッフ総出でやれ」

「...はい、かしこまりました」

「それからY・B・Yって止めろ。イラっとするから。二度とやるなよ、Y・B・Y」

 飼い主に深く釘を刺されると彩子さんは再び腰を上げて俺たちの方へ声を張った。

「お前達、坊ちゃまがお前達の働きぶりを見て全員アナルファックしたいって申してたぞ!」

「うぇーい!」

「ええ?そこ、うぇーいなの!?」

 悪乗りする俺たちを見て月子が金切り声で突っ込む。

「違うわ!この呆け茄子共が!」動揺して立ち上がって落としたスメラギのパーティ帽子を被せてなだめる様に椅子に座らせると彩子さんが主人にこう囁いた。

「良いモノでしょう?タツキ坊ちゃま」

「くっ、アイツらが居なくなったら覚えていろよ」

 スメラギが悔しそうに俯くと彩子さんがこっちに戻ってきて材料を運び出していたスタッフを集めて全員で俺たちの手伝いをし始めた。

 その甲斐あってかプリンの混ぜ合わせた材料はなんとか時間内にプールの深さ半分程まで埋まり、俺たちは仕切りだしたスメラギから逃げるようにしてその部屋を出た。

 3時を告げる時報が響くとけたたましい起動音と共にプールの周りを白い煙が包み込み始めた。俺たちはその様子を上の階のガラス張りの部屋から見守る。

「はぇ~こんなんで本当にプリンが固まるんかいな~」

「...やってみなければわからん。何せこんな企画を思いついても実行に移せる人間はほとんどいないからな」

「凄いなぁ!プールプリンの完成、ぼく達が史上初だって胸を張っていいんだよね!?」

 なごっチとよつ君が誇らしげに腕組みをしたスメラギと休憩がてらにおしゃべりを始めた。俺は着替えに女子更衣室に向かった月子を覗きに行くのもよして缶ジュース片手に冷えていくプールを見つめていた。

 すると一匹のゲジゲジが突然岩陰から飛び出してきて、その醜い姿を潜める場所を探すようにプールサイドをしゃかしゃかと走り始めた。

 地下の岩場を住処にしていたであろうそのゲジゲジは急激に冷えていく部屋に中でとうとう行き先を失ってしまったのか、その液状のプリンが注がれているプール目がけてその身をとぷん、と投げ入れた。そのあまりにも怖ろしいシーンを見て飲んでいた炭酸が逆流して鼻に入る。

「ヴォエ!」

「ん?どうしたんや、ダイスケ?」

「...いや、なんでもない」

 えずいた俺を心配して声をかけたなごっチに俺は口元を拭きながら応える。カジュアルな私服に着替え終えた月子を迎えると俺達は部屋が冷却し終わるのを待った。そして遂にその時がやってきた!


「おー、出来とる、出来とる!ホンモンのプリンやん!」

 密封された部屋のドアを開けると走り寄ったなごっチがプールの中を見て歓声を上げた。

「ホントだ!ちょっと量は少ないけどちゃんとプリンの形が出来てる!」

「フフ、これで坊ちゃまに腹一杯にプリンを食わせてあげる事が出来る...どうしたんだダイスケ?腹でも痛むのか?」

「いえ、別に」俺はさっき見たゲジの姿が目に焼きついていてプールサイドから距離を取った。

「まさか、本当に出来上がるとはな...」

 大好物を目の前にして瞳を輝かせるスメラギ。それを見て今回の発起人である彩子さんが丁寧にお辞儀をしてヤツに言った。

「今回タツキ坊ちゃまがご所望された巨大プリン、大きな事故も無く無事に完成させる事が出来ました。これもひとえに我々スメラギグループの働きと坊ちゃまと友人達の協力のお陰。
主であるタツキ坊ちゃまが素晴らしいスタッフと仲間を持ったことが私の誇りであります。この様な機会を頂けて光栄に思います」

「いいや、こちらこそありがとう。ま、」

「あ!オマエ!」

 口を大きく開けてフリーズするスメラギを見てなごっチが冷やかすように指差して笑い始めた。

「コイツ!自分の召使いの事、ママって言おうとしたで!」

「ち、違う!ゲームのカードを落としただけだっ!」

「ママー!ママー!!」

「止めろ馬鹿!この貧民!」

「坊ちゃま、私の事をそこまで評価して頂けるとは...感涙のひと言でございます」

 眼鏡を額に押し上げてハンカチで涙を拭う彩子さんとからかうなごっチを横目にスメラギが声を張った。

「月子!月子はいるか!?」

 名前を呼ばれてプールの中に腕を伸ばして出来上がったプリンの弾力を確かめるようにつんつんしていた月子が心底面倒臭そうに立ち上がった。

「月子、こっちに来てくれ」

 スメラギは月子をスタッフが見守る小高いステージの上に招くとこほん、とひとつ咳払いをして月子に向き直った。微妙な空気間を悟ってスタッフ達がごくり、と息を呑みこんだ。

「月子!前前前世からおまえの事が好きだった!俺と一緒に『行為ダンス』を踊ってください!お願いしまっす!」

「キショイんじゃボケェ!!」

「ほぐわぁっつ!!」

 スメラギが腕を伸ばす為に屈めた身体を全盛期のミルコ・クロコップのようなハイキックで月子がスメラギの顎を砕いた。それを受けてスメラギがボブ・サップのような過剰な痛がり方でよろめきながら後退して自らが俺達に作らせたプリンの海にその身を投げ込んだ。

 ざぷーん、とは言わずにトムとジェリーのアニメのようにスメラギの身体がまっさらな黄色いプリンにめり込んで、その中から食欲を誘うカラメルが染み出してきた。それを見届けて召使いの彩子さんが大きく頷く。

「坊ちゃま自らプリンの出来を身体を張って確かめるとは...皆の衆!スメラギ社製の巨大プリンの完成だ!今日はこのプール一面のプリンをスタッフ一同、おいしく召し上がろうぞ!」

「イ゛ー!!」「うぇーい!」

 彩子さんの仕切りでなごっチや仕事を手伝ってくれたスタッフ達はプールに飛び込んで待ち望んだその巨大プリンにかぶりついた。俺は異物混入の少なそうな真ん中を取り分けてちびちびと食べることにした。

 月子が観たがっていた鯵野迅のチケットが貰えるMVP(Most Valuable Purinist)には素手でダチョウのタマゴを割り続けたよつ君が選出させた。俺はてっきり年下の女子である月子にそのチケットを譲ってくれるものだと思っていたのだが、彼はその後も一度たりともその紙切れを自分の手元から離す事はなかった。

 月子もプールの中に入ってプリンを食べていたのだけれど、プールの中でなぜか海パンを脱ぎ始めたスタッフがいた、というチクリを受け、俺達兄妹は大人の闇の深い社会を垣間見る羽目になった。


 その後、皆でプールの中で撮った記念写真をツイッターに上げたなごっチのツイートがバズって新学期早々に彼一人だけが停学になり、その写真がきっかけでプリ○エルの社長の頭がバズって号泣会見を始め、蟲入りプリンを喰ったスメラギは腹がバズって食中毒で入院し、ヤツは自らの手でその誕生日のフィニッシュにあたる幕引きをした。

 みんなもバズりには気をつけよう、というお話


 ナレーション:森本レオ


巨大プリンを作ろう!! 主催者側によるバズりにより終了~


       

表紙

混じるバジル 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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