◯A Iライツウォッチ |東京ニトロ

 私がサークル「グローバルエリート」の活動に注目する理由の一つは、いわゆる「人工知能」をはじめとしたテクノロジーの発展は、現代に活躍するワーキングパーソンズの目にどのように写っているのか、彼らの思い描く未来像とはどのようなものか、というものだ。生産性にも想像力に乏しく、虚業に食むだけの、いわば精神的な無為徒食の身である私にとって、その対極の現実を生きる彼らの存在、彼らの目に移る世界は非常に眩しく、また興味をそそられる。

 今回、この個人的関心に最も合致した作品がこの「AIライツウォッチ」である。例によって紹介文の引用からはじめたい。

「​『東京ニトロ(とうきょうにとろ)』はすべてを破壊する。それは再生できない。……そんなテキストが成立しそうなほど、とにかく作中で街をぶっ壊すのが大好きな東京ニトロだが、今回の作品は少し毛色が違い、破滅が起こる『前日譚』を描いている。年金破綻の責任を負わせるため、弁護士はAIの人権を法廷で主張。その顛末は?」

 ここにあるように、本作は年金破綻の瞬間、という非常に社会的な事件からはじまっている。主人公は「日本年金公社」の法務部に努めるサラリーマンだ。「破壊をこよなく愛する」と紹介された作者はまた限られた紙幅にこれでもか、というほどの濃密な情景描写をねじ込んでくる作風でも知られている。今回はやや抑制の効いたライトな筆致であるものの、オフィスの情景、破綻の情景、その際に流れうるニュース、世論の展開など非常に説得力のある情景が、まるで見てきたかのような鮮度で描かれている。彼が未来人でないとすれば、おそらく10年以上前に世間を騒がせた未納問題、記録ミス事件、不正免除などの年金騒動がモチーフとなっているものと思われる。救いのない主人公の業務内容もいつもながらパンチが効いている。

 物語は、年金資産を管理する「GPIFO」の運用失敗、巨額の損失から日本の年金破綻宣言という事件からはじまり、人間社会の破滅、いわゆる「シンギュラリティ」に至る。AIが人間を凌駕し、彼らに支配される未来が来る、というのはすでに多くの人間が想像する未来であり、その過程についても幾多もの思考実験があると思われるが、そのきっかけが年金破綻とその責任問題からはじまる、という本作の構想は、元ネタはいくつかあるのかもしれないが、すくなくとも私にとってユニークに思えた。その両者を結ぶ理屈、展開は一見してかなりトリッキーであるが、一息ついて考えて「…ありだな」と思わせる。このサークルきっての社会派と思われる作者ならではの想像力のなせる業と思われる。いやこれ、本当にまじめに考察する価値がありそう。

 最後に、本作の大きな意義の一つとして、「中央分離帯文学の確立」が挙げられる。前作、SFアンソロジーWORK〝堕ち人賛歌〞掲載「この疾走する夜を駆けろ!」で描かれた「中央分離帯」。未来の日本の貧困者の一方通行の隔離政策は本作でも、かなり象徴的な意味をもって登場する。シリーズの読者であれば、この世界観や、そこに至る過程が新しく解明された、という一種の知的爽快感が得られる。ぜひシリーズとして確立してほしい、とも思った。


以上