Neetel Inside 文芸新都
表紙

じんせいってなんですか?
浮遊する、ハレーション

見開き   最大化      

松本 千夏(私)*3年4組。演劇部部長。常にテンションが高い。自分に不都合な事が起きるとすぐ黙る癖がある。《脚本・映像)
高野 三希(俺)*3年4組。演劇部副部長。千夏と対比の性格。殺人事件が起きた際に探偵役となる。《タカノ ミキ》

野崎 春菜(あたし)*2年1組。自分勝手かつ粘着質。首吊り死体で見つかる。《ノザキ ハルナ》
新井 椿(俺)*2年5組。二年と一年のまとめ役のためしっかりしている。いつもタジタジしている真結を心配している。《アライ ツバキ》
木村 真結(僕)*2年5組。気が弱い。好きな事(オカルト類)になると他人の目を気にせずにずけずけと突っ込んでいく。《キムラ マユ》

中村 志乃(しの)*1年5組。あまり野崎を好意的に捉えていない。美帆と常に一緒にいる。《音響》
松宮 美帆(私)*1年5組。高野に憧れを抱いている。志乃と常に一緒にいる。《マツミヤ ミホ》









緞帳が開く前に首吊り死体の影、雨音
緞帳が開く
雷鳴と共に志乃の悲鳴が轟く。呆然と立っている真結。オドオドとしている椿。バタバタと足音が響く
千夏・美帆・三希が入る

千夏「な、な――――」
美帆「志乃?! だ、だいじょ――――」
志乃「野崎先輩の、野崎先輩の、死体、死体が、つ、吊ってて、したい、したいなの、ぇ、これ……」

静まる

三希「……なぁ」

雨音がひどくなる
雷鳴・照明全開→消

三希「誰が殺したんだろうな」


・・・暗転・・・

○山奥の別荘前

蝉の音

志乃「先輩―、ここに荷物置いていいですか?」
千夏「うん、志乃ちゃんオッケーだよ。えっとぉ。志乃ちゃん持ってたのって音響関係だっけ?」
志乃「そうですよ。ほらこれとか」

志乃、ラジカセのボタンを押す。
ナイフを刺す音流れる

千夏「うぅ。妙なリアル加減。無駄にゾクッとした」

三希 上手から入ってくる

三希「おい、千夏。これ」

三希、数本持っていたペットボトルの一本を千夏に渡す

千夏「なんだっけこれ」
三希「血糊だろ、バァーカ。ほんとーお前が最後に映像撮りたいとか言わなかったらこんなことならなかったのに」
千夏「でも案外三希もノリノリじゃん? もう用意した衣装着ちゃって。ねぇ? 探偵さん!」
三希「う…。まぁ、そうだけどもさぁ」

椿と春菜、上手から入ってくる
春菜「椿。衣装ってこれでよかったっけ? 地味すぎない?」
椿「春菜は瞬殺される役じゃん。俺的にはそれでいいと思うんだけど…。あ、先輩。春菜の衣装、どう思います?」
春菜「ねぇ、先輩! あたし的には妥協とか駄目だと思うんです。だってこれ先輩らの高校生活最後の演劇ですからね?! 妥協は駄目ですよ!」
三希「…野崎ってなんだっけ役」
春菜「あたしは山荘に招待されたけど瞬間的に殺されるノザキハルナ! 招待者ですよぉ!」
三希「殺されるだけだったら別にそんな衣装でもよくないか? だって瞬間的に殺されるんだし」
春菜「えぇー! これって本格ミステリですよ?! 江戸川コナンや金田一少年ですら分からないヤバヤバなミステリ! ここはズバッとドーンと派手に行くべきですよ! ね、椿!」
椿「俺に振るなよ。…そうだ、志乃はどう思う?」
志乃「え、しのですか。ンー。でもやっぱり主役なのは高野先輩の探偵さんだから派手にしちゃったら映えなくなるし…って思いますね、はい」
椿「…だ、そうです。先輩」
三希「オッケー。…千夏はどう?」
千夏「うーん、そうだね。そしたら春菜ちゃんの衣装はそのままでいいかな」
春菜「うっ!(椿を睨む)」
椿「ハッハッハー。馬鹿めー」
春菜「うぅ、いいし…いいもんね…」
(椿と春菜、千夏と志乃と三希で喋る)
(上手から真結が台本を持って入る)
真結「あ、あのぉ…、高野先輩…、ここの脚本のこれってどう言えばいいんですかぁ…」
三希「え、俺? 見せて」
(真結、持っていた台本を三希に渡す)
三希「あぁ。まず俺のセリフからか」
(美帆も入っておく)
------------
タカノミキ『…まずキムラくんのアリバイから言ってくれないか?』
マツミヤミホ『あ。凄くこれ推理小説っぽい』
アライツバキ『シーッ、黙ってろよ』
キムラマユ『えっと、あ、僕?』
タカノミキ『あぁ。だって俺とアライは同伴行動をしていた。マツミヤはあとで聞くとして…。キムラくんはこの殺人が起きた時に何をしていた?』
キムラマユ『僕はお茶を飲んでいたよ。あ、下のロビーで。飲んでたカップも置きっぱなしだし…。あ、これで僕のアリバイってやつ? 証明されたよね?』
アライツバキ『どーだろうね』
キムラマユ『は?』
アライツバキ『どっちみち一人でいたことには変わりがない。そうでしょ?』
タカノミキ『…アリバイを証明する決定的な一打には成りえないだろう』
キムラマユ『でも僕は本当の事を言っている。僕はこいつなんか殺してない!』
アライツバキ『どうだろうね』
キムラマユ『は? おまえ、なにいってんの?』
アライツバキ『…後で言おうと思ってたんだけどさ。昨日、ノザキと言い争ってただろ?』
マツミヤミホ『そうだったんですかぁ? 私知らなかったです』
アライツバキ『俺さ、こいつの部屋と隣だから聞こえてたんだ。結構言い争ってた』
タカノミキ『どうなんだ』
キムラマユ『………あれ、僕じゃないよ』
マツミヤミホ『あー! これウソでしょぉ』
キムラマユ『ていうかこいつの死体が見つかったのはついさっきでしょ?! それもこいつの部屋! ハッキリといっちゃえば僕以外も殺せたでしょ?! 何でそんな僕ばっかり――――』
------------------
美帆「そんなわけでぇ真結先輩は追い詰められちゃうのでしたぁ。おしまい」
椿「いやいやここで読み合わせ終わっちゃう? 面白いのってここからじゃん……」
美帆「わたし、疲れました」
椿「勝手な!」
志乃「みほみほ! やっぱりみほお芝居上手だよねー。見てて惚れ惚れした! みほ!」
美帆「しのぉ! 見ててくれた?! まぁ私死んじゃうんだけど! へへへ」
椿「何熱い友情拓いてんだよ」
三希「まぁまぁ新井もそうかっかしないの。眉間に皺出来てんぞ」
椿「本当こいつらのせいで早死にしたら慰謝料、結構貰いますからね。演劇部副部長っていう名義で」
三希「いやーん、助けて木村くーん。君の同級生の新井君が先輩にかつあげしてるよー。ザ・リアル脅迫ってやつ」
椿「いやいや…」
真結「ぼ、僕に言われても…」
千夏「久々に読み合わせ聞いたよー。何て言うか本当真結くんってお芝居になるとガラって変わるよねぇ。あ、これいいことだよ。すっごくいい事」
真結「は、はぁ…」
千夏「まぁやっと全員揃ったよね。一応点呼する?」
春菜「一応よろしくお願いしまーす! 部長!」
千夏「オッケー。んじゃぁ…、部長、松本千夏! はーい! 副部長、高野三希!」
三希「はい」
千夏「野崎春菜―」
春菜「ここにいまぁーす」
千夏「新井椿―」
椿「はーい」
千夏「木村真結―」
真結「は、はい…」
千夏「一年生シスターズ、志乃美帆―」
志乃 美帆「「省略とか酷くないですかぁ?!」」
志乃「志乃には中村志乃という名前が!」
美帆「私にはぁ松宮美帆という名前が!」
志乃 美帆「「あるんですよ?!」」
三希「ヒュー、息ぴったり」
椿「ここ感嘆するところっすかねぇ…」
千夏「まぁまぁ皆揃ってるって言う事で。ここ(下手側を指す)、入ろうか。えっと、三希のおじいちゃんの別荘だっけ?」
三希「あぁ」
志乃「高野先輩のお家ってお金持ちなんですか?」
三希「いやぁ? …これって普通じゃないの?」
椿「いやいやいや。こんな山奥に別荘持ってるとか普通の一般家庭にはありえない事ですよ…」
三希「へー。そうなんだ。俺知らなかった」
春菜「もー、先輩話長すぎませんか―、あたし暑くて死にそうなんですけどー、早く入りましょうよー、冷房ガンガンにしましょー」
三希「お前本当に自分勝手だなー。ていうか冷房あったっけ…」
(春菜・三希下手に向かう)
椿「ていうか、先輩一個ぐらい荷物持って下さいよ! 男手少ないんですよ?!」
真結「つ、椿、待ってよ…、僕も行くよ……」
(真結・椿下手に向かう)
美帆「ねぇねぇ。志乃」
志乃「なんじゃ美帆よ」
美帆「先輩…、お金持ちなんだって。これって―――」
志乃 美帆「「ザ・玉の輿!」」
美帆「もー、美帆。私が先に高野先輩かっこいいなーとか言ってたんだから狙わないでよね。玉の輿タマノコシ」
志乃「…誰が狙うか」
美帆「なにかいった?」
志乃「志乃何も言ってないよ!」
美帆「そっか。んじゃいこー」
志乃「いこー」
(美帆・志乃 下手に向かう)
千夏「……これって私ぼっちパターン? いや知ってるんだけども。いやはやぼっち。部長がぼっちとは…」
千夏「つらくない? いやつらいわ」
千夏「ま、待ってよー! 私も行く!」
(千夏 下手に向かう)
二章
・・・暗転・・・
○別荘・ロビー
---------------------
タカノミキ『雨が降っていた』
マツミヤミホ『雷が静まりきった別荘に轟く』
ノザキハルナ『死体は揺れている』
アライツバキ『縄がぎしぎしと軋む』
マツミヤミホ『雨は降る』
タカノミキ『…あー……』
---------------------
千夏「……カット! そこのセリフ忘れちゃう?!」
三希「いや、ど忘れ。…なんだっけ」
美帆「『死体に目が集まる』ですよ! ふっふっふっふ、タカノ探偵!』
三希「…やめろよ、気恥ずかしい」
椿「いやぁー、やっぱりシリアスなとこって瞬間的でも我に返って俺何してんだろう! とかなりません?」
春菜「鍛錬が足りてないのよ」
椿「うっせー、死体。首吊り死体」
春菜「なんですと!?」
千夏「まぁまぁ…言い争いしないの。両方結局死ぬんだから!」
椿「まぁそうですけど…、何か納得いかない答えですね…」
志乃「先輩―、音、オッケーでした?」
千夏「うん。志乃ちゃんおっけーだよ。ミスッたのはこのタカノ探偵だから」
三希「探偵探偵言うな! 恥ずかしい!」
真結「あの…、先輩、続き」
三希「あ、うん。ごめん]
千夏「うん、まぁ何とかなるなる! んじゃ続きいってみよー。よーいアクショーン!」
---------------------
タカノミキ『死体に目が集まる』
ノザキハルナ『死体がこの部屋には一つ、吊り死体としてあったのです』
マツミヤミホ『ひっ、し、死体、死体……!』
アライツバキ『え、ぁ、……な、なんで、なんで…』
キムラマユ『…』
タカノミキ『…あぁ、死体だな』
アライツバキ『は、何でそんなにお前、落ち着いてられるんだよ…! 人、死んでんだぞ?!』
タカノミキ『…騒いでも何もならない。それよりもノザキを殺した犯人を見つける方が賢明だろう』
キムラマユ『……そうだね。うん、僕もそれに賛成』
マツミヤミホ『…その、でも、私たちのこの四人の中でノザキさんを殺した人なんているの』
タカノミキ『いるだろ。そうでなきゃ面白くない』
アライツバキ『面白いって…! お前……』
キムラマユ『まぁ、落ち着いて』
タカノミキ『…まずキムラくんのアリバイから言ってくれないか?』
マツミヤミホ『あ。凄くこれ推理小説っぽい』
アライツバキ『シーッ、黙ってろよ』
キムラマユ『…えっと、あ、僕?』
タカノミキ『…あぁ。だって俺とアライはさっきまで同伴行動をしていた。マツミヤはあとで聞くとして。…キムラくんはこの殺人が起きた時に何をしていた?』
キムラマユ『僕はお茶を飲んでいたよ。あ、下のロビーで。飲んでたカップも置きっぱなしだし…。あ、これで僕のアリバイってやつ? 証明されたよね?』
アライツバキ『どーだろうね』
キムラマユ『は?』
アライツバキ『どっちみち一人でいたことには変わりがない。そうでしょ?』
タカノミキ『…アリバイを証明する決定的な一打には成りえないだろう』
キムラマユ『でも僕は本当の事を言っている。僕はこいつなんか殺してない!』
アライツバキ『どうだろうね』
キムラマユ『は? おまえ、なにいってんの?』
アライツバキ『…後で言おうと思ってたんだけどさ。昨日、ノザキと言い争ってただろ?』
マツミヤミホ『そうだったんですかぁ? 私知らなかったです』
アライツバキ『俺さ、こいつの部屋と隣だから聞こえてたんだ。結構言い争ってた』
タカノミキ『どうなんだ』
キムラマユ『………あれ、僕じゃないよ』
マツミヤミホ『あー! これウソでしょぉ』
キムラマユ『ていうかこいつの死体が見つかったのはついさっきでしょ?! それもこいつの部屋! ハッキリといっちゃえば僕以外も殺せたでしょ?! 何でそんな僕ばっか…』
タカノミキ『死体の移動』
キムラマユ『は?』
タカノミキ『死体の移動って言ってるだろう』
キムラマユ『は? 何言ってんの? 言ってるの滅茶苦茶じゃん、死体の移動とか――――――』
・・・暗転・・・
千夏「(手を鳴らす)…はぁーい、皆さんお疲れさまでーす。一応大部分は撮れましたよぉ」
千夏以外「「お疲れ様で―す」」
千夏「よし、あとの部分は明日撮ろうか。うん、そうしよう」
春菜「お疲れとか言われたから疲れとかがどっときたよー、おなか減った」
椿「まぁもう夕方だし…、晩御飯にしません? 先輩」
三希「あぁ、そうだな」
志乃「晩御飯なんでしたっけ?」
美帆「合宿と言えばカレー感ない? 志乃」
志乃「そうだっけ?」
椿「いや多分カレーだと思うけど…」
千夏「そう、カレー」
春菜「王道ですね」
千夏「ごちゃごちゃ言わないの―。さぁー、役割分担ー」
椿「あ、そしたら俺と真結は野菜切るのでいいですか? な、真結」
真結「え、僕…? い、いいけど…」
美帆「っわ、わたし、高野先輩と、その、恋の炊飯器を炊きたいです!! 愛で炊かれたおいしいご飯!!」
志乃「バカかーーーーー!!!!!」
三希「は?」
椿「いや、馬鹿一年ズ何してんのよ」
美帆「な、なんでもないですよぉおぉおぉ…。恋する乙女はピュアなんですよ…」
三希「…えっと。んじゃぁ俺と松宮はご飯係ってわけ? それでいい? 松本」
千夏「うん、まぁそれでいっか。んじゃぁ残りの三人衆はカレーが煮込まれるのを見守る係です。ドーン」
春菜「見守る」
志乃「係……」
千夏「そんな顔しないの…」
三希「…よし、んじゃぁ役割分担された感じでこう…やる事をいい感じにこなそうぜ」
美帆「らじゃーです! せんぱぁい!」
三希「あ、う、うん」
(三希・美帆 上手から出る)
椿「高野先輩中々レアな表情してる」
春菜「分かるー。あの高野先輩が結構ドギマギしてるし」
真結「……椿、冷蔵庫」
椿「あ、うん。冷蔵庫は確か二階に…」
真結「二階…?」
(椿・真結 下手から出る)
春菜「さぁー! 先輩、志乃ちゃん、鍋とってきましょうよ」
志乃「しのべつにいいです」
春菜「は?」
志乃「しの、椿先輩たちのとこ行ってきます、……荷物多いと思うし、はい」
春菜「なに、その態度…! は…、マジで意味分かんないんですけど!」
志乃「…別に」
(志乃 下手から出る)
春菜「………なに、あいつ…、感じわっる…」
三章

・・・場転・・・

(千夏・春菜・志乃・美帆と並んでいる)
千夏「よぉーし、ご飯も食べていい感じに時間も経った頃だし…なにする?」
春菜「…」
千夏「トランプでもする? それかはたまた枕投げー、コイバナー、怪談話―…」
美帆「怪談話だなんてヤですよぉ!」
千夏「なんで?」
美帆「ほ、ほら、ここ…結構古いじゃないですかぁ。幽霊とか出そうで、怖いじゃないですか…」
志乃「まぁ…」
美帆「ていうか野崎先輩静かじゃないですかぁ。珍しいですねぇ、今晩雪ですか」
春菜「あ、ごめん、ぼぉっとしてた」
美帆「……そうですか?」
春菜「…うん。あたし、喉乾いたから何か飲んでくるね、バイバイ」
(春菜 下手から出る)
美帆「先輩、変なの」
志乃「……ねぇ、美帆」
美帆「なぁに、志乃」
志乃「野崎先輩とあんまり仲良くしちゃだめだよ」
美帆「え?」
志乃「…あの人、皆に嫌われてるんだよ。だからあの人と仲良くしてたら、美帆まで嫌われちゃうでしょ」
美帆「へぇ、そうだったんだぁ…」
志乃「だって――――」
千夏「あんまり人の悪口、言ってたら駄目だよ。一年ズ」
志乃「あ。そのぉ…、でも…」
千夏「トランプしよっか!」
志乃「………あ、…は、はい……」
千夏「ババ抜き? ポーカー?」
美帆「そしたら私ババ抜きがいいです!」
・・・場転・・・
(雨の音)
春菜「……雨だ」
春菜「…強まってきそうだね」
「うん」
「そうだね」
(ぼんやりと首吊り死体の影)
春菜「ふふふ」
「そっちの景色はどう?」
「きれい?」
春菜「うん、きれいだよー。さっきから、雨が降ってる、ざぁざぁざぁって」
「絞めていい?」
「絞めるね」
春菜「苦しくないようにしてね」
「だいじょうぶ」
「くるしくないよ」
「めをとじて」
春菜「うん」
「ぎゅー」
「くるしくないよ」
春菜「くるしくないよ」
「だいじょうぶだよ」
「こわくないよ」
春菜「こわくないよ」
(首吊り死体の影)
「こわくないよ」
「たぶんね」
(雨の音強まる)
・・・暗転・・・
千夏「…春菜遅いなぁ…」
美帆「確かに遅いですね。私、見てきましょうか?」
志乃「……ううん、しのが見てくるよ。男の先輩たち呼んだらいいでしょ、ねっ」
美帆「そう? そしたら志乃行ってらっしゃーい」
(千夏・美帆 上手から出ていく)
志乃「……」
(椿・真結下手から入る)
椿「あ、中村」
志乃「…木村先輩と、新井先輩…」
椿「どうかしたの?」
志乃「い、いえ、その、いつになっても野崎先輩が帰ってこないから、志乃が探しに行こうと」
椿「ふーん。暇だし俺らも付き合うよ。な、真結?」
真結「え、あ……うん」
椿「んで、春菜はどうしたの?」
志乃「あ、その、なんか飲んでくるーって言って一時間近く帰ってこなかったんです」
椿「そう。んじゃぁ行くとしたら二階のロビーなんじゃないの? だって冷蔵庫あそこしかなかったでしょ?」
真結「でも…水道って事になると、外もあるんじゃない…」
椿「お前なぁ…ここ山奥だろ? 光とかろくにないのにわざわざ外に飲みに行くやつとかいるか?」
真結「……ない」
椿「だろ」
志乃「そしたら二階のロビー、ですね」
椿「あぁ」
(志乃・真結・椿 下手から出る)
(雨音強くなる)
(暗くなる)
(首吊り死体の影)
志乃「え」
真結「………あ」
(雷鳴)
椿「しんでる?」
(雷鳴と共に志乃の悲鳴が轟く。呆然と立っている真結。オドオドとしている椿)
(バタバタと足音が響く)
(千夏・美帆・三希が入る)
千夏「な、な――――」
美帆「志乃?! だ、だいじょ――――」
志乃「野崎先輩の、野崎先輩の、死体、死体が、つ、吊ってて、したい、したいなの、ぇ、これ……」
(雨音一旦静まる)
三希「……なぁ」
(雨音がひどくなる)
三希「誰が殺したんだろうな」
千夏「…え、あ、う、うそ、なんで…! なんで…?」
美帆「せ、先輩、わたし、わたし…」
志乃「しの、携帯とってきます、けいさつ、けーさつ」
三希「警察に言うの?」
志乃「え、なんで」
三希「なんでって?」
志乃「警察に電話しないと、いけない、だって…」
三希「だってぇ? ……それ、つまんないよ」
美帆「は?」
三希「だってさぁ、どうせこの中の誰かが殺したんだろ? そしたら俺たちが犯人を見つけた方が面白いじゃないか」
志乃「なに、いってるんですか?」
三希「…至って真面目な事だよ。まぁかけるんだったらかけたら?」
志乃「……美帆、いこ」
美帆「あ、う、うん…」
(志乃・美帆 下手から出る)
椿「……ちょっと一人にさせてください」
真結「つばき、いいの? …僕も」
椿「そう。そしたら一緒にいよう」
真結「うん…」
三希「…まぁ時間が経ったらまた全員に声かけて集合ってことでいいんだな」
椿「…はい」
(全員下手にはける)
(首吊り死体の影をハッキリと映す)
(影を霞ませる)
(影を紐だけにする)
(時間を開ける)
(椿 下手から入る)
椿「したい、ない」
(真結 下手から入る)
真結「つばき?」
椿「(笑みを浮かべて)死体、なくなっちゃってるよぉ…」
(その他全員入ってくる)
三希「あーあ、死体、なくなってたの?」
椿「…そうだ、志乃。電話つながったの?」
志乃「ううん…、電波悪くて、駄目だった…、ほんと、どうしよう…、どうすればいいの…恐いよ……」
三希「犯人を見つけて俺たちが捕まえればいいじゃないか」
志乃「え?」
(三希 探偵棒を被り、くるりと一回転をする)
三希「さぁ!」
(雷鳴)
三希「―――野崎を殺した犯人はだぁ―れだ?」

三章

三希「…コホン。まずアリバイから整理しようか。えっと…殺されたのは部屋が男女に分かれてから暫く経った後って事でいいよね?」
椿「えぇ」
三希「そしたら俺たちは確実に殺せないよ。だって別れてから出て行った奴なんて一人もいないから。…ね?」
真結「……そうで、す、ね」
三希「そしたら簡単だよ。犯人は女の誰かだ」
美帆「どうしてなんですか」
三希「だから俺たちは…」
志乃「…先輩たち、外、出てたじゃないですか」
椿「あ?」
志乃「死体、見つける前です」
椿「………ンー、あぁそういえばだよね」
三希「そうだったんだ?」
椿「えぇ。その時先輩うたた寝してましたもん。俺らが出てたって気付かないのは当たり前ですよ。まぁ俺たちは二階のロビーは行ってませんけど」
志乃「証拠は」
椿「…ないよ? でも俺らが疑われるよりも君たちが疑われる方が道理だから仕方ないんじゃないのかなぁ…」
三希「でもこういうときってまず疑われるのっていないはずと思われる存在じゃないの?」
志乃「例えば」
三希「いないはずの九人目だよ」
椿「は?」
三希「だーかーらー、九人目がいたとかぁ。そいつが野崎を殺したとかぁ」
真結「馬鹿じゃないんですか」
三希「えっ」
真結「そんなの現実的に考えたとしても不可能です、バーカ言わないでください。クローズ・ド・サークル? そんなの皆殺し確定じゃないですかぁ…、あー、ウケる、ウケるんですけど…」
(真結が突然流暢に話し始めたため、皆驚く)
三希「…でもその仮定をしないとこの中の誰かが殺したという事が」
真結「お前がこの中で誰かが殺したって言ったんだろうが!」
椿「こ、こら! 真結!」
真結「…なに?」
椿「せ、先輩に扱う言葉じゃないでしょ…」
真結「…まぁね」
三希「まぁね、って…」
美帆「………私からしたら、死体を見つけた人があやしいです」
志乃「えっ、なんで…、なんでよ、なんで美帆!!」
美帆「…だってさぁ、しの、のざきせんぱいのこと嫌いって、いってたよね」
志乃「は? なんで今その事出すの? マジわけわかんないんですけど…」
美帆「ねぇ、しの、しのがころしたんでしょ、だって、しの、しのしの、しのでしょ。……ねぇ、しの!」
志乃「は、なんで、わけわかんないんですけど…。なんでしのが野崎先輩殺さないといけないんですか?」
(静かになる)
千夏「…………なんで、みんな、言い争ってるの……。わたし、こんなの、のぞんでないよ、なんで…」
(千夏 泣きじゃくる)
三希「何でって」
千夏「わたし、こんなの、いやだよ、いや、いや…」
(千夏 上手から出る)
三希「あ、おい、千夏!」
椿「行っちゃいましたね。まぁ、あの人は犯人じゃないと思いますし…」
三希「まぁ…」
椿「今はあんな先輩より誰が春菜を殺したかを見つけるのが先ですよ。んじゃ俺から誰が怪しいか言っていいですか? いいですよねー。えっとですねー、俺は…志乃が、怪しいなぁって」
志乃「…」
椿「だって、一人で春菜を探してたんだよ? もしかしたらあれは演技かもしれない。だって死体を発見させる事が大事だから」
志乃「そんなの、出たらめですよ」
椿「どうしてそんなこと言える?」
志乃「だって…」
三希「まぁ新井。他のやつの意見も聞かないと…」
椿「あ、はい…」
三希「木村は誰が怪しい?」
真結「……あなた、です(三希を指す)」
三希「やぁーだ、存外。とっても存外だ」
真結「でも、ミステリーには、タブーがある。…それは、探偵が犯人という事。でも、もし、探偵が、犯人ならば、自分に目を向けないことも可能となる」
三希「なるほどねぇ」
真結「でも、現状的には、中村が最有力と言える」



(雨の降る音)
(歩く音)
真結「これだったからぼくはいやだったんだ」
「そうなの?」
美帆「う、ぅ、いやです、いや、わたし、いやです…」
「きみはこわいの?」
(椿 上手から出る)
椿「俺に殺されてしまうから」
真結「つばき」
椿「雨、また、強まってきた。これじゃ明日も帰れない。…悲しいね」
真結「つばき」
椿「春菜首吊って死んでたよね。まぁ死体がどこに行ったとか誰も知らないけど。もしかしたら死体は生きてたのかもね? …まぁそれを死体と呼ぶのは少し難解だけども」
美帆「せんぱい」
椿「…こわいの? …こんなの、こわくないよね。こわくないよ。こわくない。こわくないんだ」
美帆「せんぱい、わたし、こわいです」
椿「だいじょうぶ。こわくないよ。こわくないって」
真結「すぐに、きれい、な景色、が、脳裏に、輝いて」
椿「幾万の光が目に焼き付いてしまうほどの儚くてきれいな景色」
真結「ほらぁ、きれいな、景色、でしょう?」
椿「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶだよ」
真結「こわくないから」
(三希)「こわくないから」
椿「―――だいじょうぶだから、安心して」
美帆「せんぱい?」
(音が止む)
(美帆倒れる)
椿「…ふぅ」
真結「…ころした、の?」
椿「あ、うん。これでやっと喜んでくれるかなぁ……。…俺さぁ、とってもいま息が上がっている。嬉しいなぁ」
真結「たぶん、喜んでくれるんじゃ、ないのかなぁ」
椿「多分って、勝手」
真結「…どうする」
椿「さぁ?」
真結「さぁ、って、適当」
椿「だって……」
真結「だって?」
椿「俺が喜んでるだけで、確実に素直に喜んでくれるだろう?」
真結「………たぶん、ね」
椿「あぁ。そしたら一つ話をしようか。真結」
真結「なに?」
椿「もし、長年連れ添ってきた親友が、殺人犯ならば、お前はどう思うよ」
真結「どうも思わないけど。ただ…、ただ」
椿「ただ?」
真結「もし、椿がこの事件のたった一人の犯人だとしたら、それは、不可能だ」
椿「へー」
真結「松宮を殺したのは一目瞭然だ、…だが、野崎の殺人、その上、野崎の死体の移動となってしまえば、不可能だ」
椿「あぁ、そうか。全てにおいて真結が隣にいたもんなぁー。なるほどねー」
真結「この事件は、少なくとも三人、共犯者がいるはずだ」
椿「へー。まぁ、いい線は行ってるんじゃない?」
真結「そう」
椿「でも、それを俺に話してどうするんだ? だって、お前はこれから殺されるんだぜ?」
真結「…そっか」
椿「何か真結、言う事あるか?」
真結「………別に、ないけど」
椿「そう、でも俺はあるんだけど。まぁ、何つーかさ、お前といて、楽しかったよ。それはもう、ウン、楽しかった」
真結「それはどうも。ぼくも、まぁ一応楽しかったよ。一応だけど」
椿「一応って何だよ。まぁ、ありがとう。それじゃ―――」
(椿、真結の首を掴む)
椿「来世で会おう!」
(真結、倒れる)
椿「……。あー、死んじゃった」
(春菜、入る)
春菜「はーい、椿」
椿「バカ! バカなのお前。バカ、何でお前くるんだよ、ネタばれ要素第一位のお前が!」
春菜「うるさーい。うるさいさーい。だってずーっと死体の振りするのもやだも―ん」
椿「バカ」
春菜「アンタの方がバカよ」


*千夏、舞台の真ん中でひたすら怯えている
雨音と雷鳴がさらにひどくなっていく
しばらく経つと、扉が叩く音がする。

千夏「え?」
春菜「せんぱーい」
千夏「ハルナ?」
三希「千夏がいないと始まらないよー」
千夏「ミキ」
椿「早く、皆が待っている」
千夏、立ち上がり扉を開ける

千夏「みんな――」
三希「みんなは、いない」

生存メンバー、千夏を囲む
千夏、さらに怯える

殺人事件は、脚本をなぞったもの。(見立て殺人)
三希、椿、春菜が千夏になんか嫌がらせ? をしたくて~的な動機(もっと掘り下げる)

       

表紙
Tweet

Neetsha