Neetel Inside 文芸新都
表紙

用法用量を守って正しいストーキングを。
引き出しから出てきた手紙

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 小波潮様

 願わくば、この手紙を貴方が読むことがありませんように。きっと、貴方のことだから心配は要らないと思っていますが、細やかながら、そんな願いと共にこの手紙をしたためます。
 フラワーショップアヤで貴方と出会ったのがもう随分昔のように感じられます。喫茶店で貴方の姿を見るたびに、私はいつだってドキドキしていました。運命ってこういうことなんだって思えるくらい、貴方との未来はいくらでも想像することができました。
 貴方と結ばれるまでの期間は、とても辛かったです。でも、だからこそ、貴方と想いを通わすことができたときの喜びは計り知れないものとなりました。あれは、この喜びの為の期間だった。そう思うと、必要だったのだと、今では心から思います。
 ただ、私は一つだけ、とても大きな不安を感じていました。
 貴方が、私だけを見つめる貴方の目が、いつか離れていってしまうのではないかと。
 人はいつか老いてしまうものです。
 私も、貴方の理想からやがて離れていってしまうことでしょう。
 それが、私には何よりも堪え難いことでした。
 「そんなことあるわけない」と貴方は言うかもしれません。
 けれど、その言葉を信じたくても、私はなんとなく、貴方がやがて離れていってしまうことを感じていました。だから、ずっと愛してもらうにはどうすればいいか考えました。
 貴方といつか映画に行った時のことを覚えていますか。丁度小さな写真展に、私たちが立ち寄ったことを。
 あの写真は、とても綺麗でした。
 一瞬の時間を切り取った写真の中で、風景も、人も、動物も、その全てが息づいていました。
 そして、その被写体のテーマが終わりゆくものであると聞いた時、これだ、と思いました。
 私たちの時間を永遠とするためにできることが、あの時分かったのです。
 あの日から、私は、貴方と私の食事に少しづつ毒を盛ることにしました。
 些細な毒です。でも、いつかきっとその効き目が出て来るでしょう。それがいつかは分からない。ただ少なくとも、その間に私たちが離れてしまうことはないような、それくらいの用法と用量を想像したつもりです。
 時々、貴方も私も酷く体調が悪い日がありましたね。ゆっくりと、終わりゆくことを想像しながら貴方との時間を過ごすのは、とても幸せでした。
 写真は撮りません。生前の貴方との幸福な風景は、全て私と貴方のものだけでいいのですから。
 私はこれから、貴方との幸福だけを抱え続けていきます。
 願わくば、貴方も私と同じであればいいのだけれど。
 最後に、書かせてください。
 私は、小波潮さんを愛しています。
 一生愛しています。
 生まれ変わっても、愛しています。
 いつまでも貴方と一緒にいられると信じています。
 おやすみなさい、また目が覚めたら、おはようって言いに行きます。
 ずっと、愛しています。



   愛美

       

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