Neetel Inside 文芸新都
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ぼくらの先生
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 「お待たせ」
襖が開く音がし、振り返ってみると見違えるほど顔が大人らしくなった元同級生が立っており思わず彼は静かに微笑んでいた。
「あ、イインチョー」
3年B組で委員長を担っていた山崎椿は集まった面々の顔を見て少し安堵を浮かべる。そして委員長席と云わんばかりに空いていた中央の席に腰を下ろした。
「イインチョー、おひさ。何飲むの?」
陽気な声を挙げながら山崎椿に近づくのは稲垣ひより。稲垣ひよりは中学生時代は周りより一段と浮く童顔をずっと気にしていたが、あの頃異常なまで二期にしていた幼い顔はあっさりと消え失せていた。最後に会ったのが大体10年ほど前という事もあるのかもしれない。
「同窓会ってこともあってさ、卒アル見返してたわけ。復習みたいなもんでさ――。でも顔全然違ってて誰が誰だか分かんないや。……あ、全くってことはないけど」と、白瀬義行は酒に呑まれたのか調子気味に話す。彼は中学校を卒業してから同時に就職をした。元々素行が悪い事もあり、高校受験を教師たちから薦められなかったという。最初は不満を申し出たが、それも受理される事もなく、結果的にはクラスで一番早く結婚をし、今は家族で仲良く暮らしている。何だかんだいって白瀬義行はクラスで一番早く幸せを獲得したのだ。
「ま、そーかもね」遠藤唯はほんのりと赤い顔を見せながらチューハイをストローで啜った。彼女はクラスで、一番美人で成績も良かった。だからこそ彼女は地域で一番頭の良い高校に行き、地元を離れて皆名前を知っている有名大学に通っている。そんな彼女は白瀬義行のようには簡単には幸せになれなかったらしい。彼女の理想が高すぎるのが仇となってしまっている。『条件はねー、いけめんで、おかねもちで、いけめんなひと!』と目をグルグル回しながら言っていた。

「てか、全員揃ったね、よし」
「そーね」一人は相槌を打った。
「あ、俺、ウーロンハイ追加」
「おっけー、おっけー」イインチョーは規則正しく近くにあったメモ帳でクラスメイトの注文を素直に聞き入れた。
「全員揃ったよな」
「うん、はじめようか」と、言った。
とりあえず、水を喉に通した。咽は渇いていなくとも、これから目にする現実に受け入れられるように。カラン、と軽く氷が鳴っても、水が尽きても、部屋の冷房が効きすぎても、ぼくらの興奮は収まる事はない。
部屋は嫌なほど、一気に静まり返った。ぼくらのテーブルの上で息を荒げる恩師の姿がクラスメイトの目に焼き付いていく。ずっと視線で何かを訴えているが何も知らない。目は口ほど……というが何も伝わらなければ意味は無い。先生が何を思っていてもぼくらは何も分からない。いつものように指示棒を振り回せればいいのに。

 イインチョーは大きく咳払いをした。
「3年B組、出席を取ります」
「はい」クラスメイトは大きく返事をした。
「新井遠澄」
「欠席です。家族の人に聞くと、死んだそうです」
「石原貴理」
「欠席です。家族の人に聞くと、部屋から出られないみたい」
「稲垣ひより」
「はい」
「遠藤唯」
「はい」
「大江光介」
「欠席です。コイツは裏切り者なので除者にしちゃったの」
「片岡有希」
「欠席です。家族も誰もいませんでした」
「金輪瑠璃」
「はい」
「小池律子」
「欠席です。家族の人に聞くと、もう帰ってこないそうです」
「佐久間玲奈」
「欠席です。理由は分かりませんが、恐らく自殺してしまいました。私は嫌いだったので」
「白瀬義行」
「はい」
「関根芳絵」
「欠席です。家族の人に聞くと、死んだそうです。首吊って」
「千田翔馬」
「はい」
「田村可奈美」
「欠席です。家族の人に聞くと、帰ってきてないそうです。だって埋めたから」
「富山暁人」
「欠席です。死んだから」
「中澤青花」
「欠席です。……どうしてですかね」
「野井亜美」
「欠席です。家族の人に聞くと、自殺したみたいです」
「橋本雄吾」
「欠席です。行方不明みたいです」
「日口梓弥」
「はい」
「古田哲」
「欠席です。家族の人に聞くと……、死んじゃったみたい」
「真城芽衣」
「欠席です。不運な事故死」
「宮村亮太」
「はい」
「森まりな」
「はい」
「山崎椿」
「イインチョーダー」
「吉川遥菜」
「欠席です。家族の人に聞くと消えたみたいです」
全ての名前が言い終わった。委員長は大きく息を吐いた。出席を取ったから分かると思うが、卒業式から欠席が多いのだ。久々の同窓会というのにろくに集まらない。

「はい。これで出席確認を終わります。皆、今日も楽しく一緒に過ごしましょう」
「はい。委員長」
先生の顔は真っ青になっていた。

       

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