Neetel Inside 文芸新都
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鍵のひみつ

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 とある休日。
 俺は同級生の清水と何をするでもなく、ワンルームの真ん中で無為な時間を過ごしていた。
「なあ、鍵ってあるだろ?」
「かぎ?」
「鍵だよ、鍵。家とか、金庫とかの錠前を操作する鍵だよ」
 ああ、その鍵か。
 彼が突然、鍵を特別な物であるかの様に話すため、何か違ったものかと思った。
「それが、どうかしたの?」
「お前さ、鍵穴に別の鍵を誤って差し込んだ事とかあるか?例えば玄関の錠前を開けるのに必要な鍵を間違えて選んだとか」
「うん?倉庫と玄関の鍵を間違えた事とかはあるかな。でも鍵穴に入らないから、すぐに気づくけど」
 こんな取り留めのない事を、男はどんなつもりで質問しているのだろうか。もしかして、俺がこの部屋に入った時の事につながるのか?
「そうだよな。その程度の事はあるよな。だけどさ、この間サークルの先輩からとんでもない事を聞いたんだよ」
「何?」
 どうせ下らない事だろうと、大して期待はしなかった。
「実はな。鍵ってさ、そんなに種類がないんだよ。穴に差し込むギザギザしている方をブレードっていうんだけど。ブレードの形ってのは、どの鍵も大体同じでさ、一つの鍵で大概の錠前が開くんだよ」
「はあ」
 意味不明である。否、馬鹿馬鹿しいにも程がある。しかし、目を輝かせて、快活に話す清水を見ていると、なんとなく無下にもできず、「大概って何?」と質問してみる。
「大概ってのは大袈裟だけどさ。例えばA荘っていう集合住宅があるとして。A荘の同じ棟内位の範囲であれば、どの部屋の錠前にも共通して一つの鍵が使えたりさ。同じ会社が作ってる倉庫だったら、一つの鍵がどの錠前にも使えたりするんだよ。つまり、鍵っていう物はそんなに種類がないんだよ」
「そんな馬鹿な」
「俺も最初は、お前と同じ気持ちだったけどさ。その先輩と一緒に試してみたらさ。本当に、開いたんだよ。一つの鍵で、同じ棟内の部屋の鍵が」
「嘘だろ」信じられない。
「実際、鍵を注意深く視たりしないだろ。それに、鍵は限定した範囲でしか使えないっていう先入観をみんな持ってるからさ、誰も気づかないんだよ」
 まさか。本当なのか。少し信じてしまっている。全て出まかせならば、大した話術だ。
 それにしても何だか聞いたことがある話のような。
「そういえば、最近、誰かから聞いたような気がする。その時は聞き流してたけど」
「もしかして、今流行ってる話題なのかもな」
「分からないけど。やっぱり、俺がこの部屋に入った時の事に繋がるんだな」
「どういう意味だ?」
 清水は首を傾げる。この期に及んで、何故惚けるのか。
「だからさ、この部屋の鍵も清水が開けたんだろ?さっき部屋に入るとき、鍵が開いてたんだよ。確かに鍵は閉めたのにおかしいなと思ってたよ」
「俺がか?」
 違うのか?では、俺が鍵を閉め忘れていたのだろうか。
 否、そんな筈はない。そう思ったとき。
 背後のクローゼットが不自然な勢いで開く音がした。


       

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