Neetel Inside 文芸新都
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 大学生活が始まる。
「人生とは大学からが本番だ」
 親父から何度も聞かされた言葉である。
 
 この春から通う事になった大学は、一応、名門大学の一つではあるから、尚更期待が膨らむ。
 入学式を終え本館キャンパスへ戻ると、サークル勧誘でごった返していた。
 これだけ人が集まると、大学関係者かどうかも分からないなと思った。
 まあ、そんな時代でもないか。

「おい、今夜の新歓コンパ。行くだろ」
 調子良く話しかけてきたのは、入学式で席が隣だったそれだけの理由で仲良くなった人物、山中だ。
「ああ、人間関係は大事だからな」と俺は答える。
 早速、大学生活らしいイベントだった。
 俺達は、先輩達のサークル勧誘を幾つか適当に聞いて、新歓コンパの準備に移った。


 新歓コンパは最寄りの繁華街のビル二階で開かれた。
 俺の隣には、やはり山中が居た。
「ワクワクするよな」彼はそう言って肩を震わせている。
 新歓コンパは、同学科の学生が一斉に集結し、合わせて百人近くの人が集まった。

「みなさん、こんばんは」

 部屋の真ん中に立ち、挨拶を始めた男は、三回生の先輩であるらしい。
「おや、挨拶が悪いですね。いいですか、挨拶というのは全ての始まりなんですよ。礼に始まり、礼に終わる。この言葉は色々な状況で使われますよね。では、もう一度いきますよ」
 先程までの賑やかな空気が変わった。
 先輩が急に説教を始めるのだから、無理もない。
 そんな空気も、モノともせず、先輩は説教話を続ける。
「そこの君、あと、君もだ」
 突然、先輩は二人の新入生を指差した。
「退場だ」
 何だ?
 その途端。部屋の入り口から数人の男達が現れ、指名された新入生たちの腕を引く。
 新入生たちは状況が飲み込めないという様子を見せるが、居心地の悪くなった空間から逃げ出したい気持ちもあったのか、あまり抵抗せずに退室していった。
 そして、小さなざわめきが、あちこちで起こる。
「次はお前達だ」
 先輩は、その小さなざわめきをまとめて指名する。
 そして、先程、退場させられた新入生たちと同様に外へ誘導される。
 隣の山中は、黙って様子を眺めている。
「なあ、何なんだよ。これ」俺は山中に声をかける。
 その途端。
「はい。君も退場ね」



 あっけなく外へ連れ出された。
 俺を連れだした男は、まだこちらを見ている。
「何ですか?というか一体何なんですか?」
「おめでとう。君は合格だよ」 
 男は、そう言った後、笑顔を見せて俺に紙を手渡した。
「そこが、本当の会場さ」
「どういうことです?」
「あの状況では、君の様な反応が正しいという訳さ」
 ますます分からない。
「ほら、試験会場の不正防止システムの向上のお陰でさ、カンニングとかはほぼ、撲滅されただろ。科学の進歩のおかげさ」
「はあ」
「だけどさ、科学の進歩のおかげで、今度は脳内に不正を働かせることができるようになったんだ。とはいえ、繊細で複雑な脳をそう都合よくいじることはできないからさ。ただ、どんな状況でも注意の持続機能、いわゆる集中力をひたすら高める手術を施して、大学受験などに臨む人が増えてるんだ。だから、さっきみたいな異常な状況でも動じず集中し続けてしまう」
「じゃあ、俺の隣の」
「ああ、あの子は手術を受けてるかもしれないね。まあ、今の日本ではそれが不正にはなっていないし。大学側も色々、都合があるんだろう、特別対策も何もしていないんだ。だから、こうやって学生の間で選別するんだよ」
「聞いたこともなかったです」
「まあ、莫大な施術費もかかるし、一般的にはあまり浸透してないよね」
 なるほど。
 新手の裏口入学みたいなものなのだろう。
 しかし、選別した先には、何があるんだろうか。
 そもそも、手術を受けた事は咎められることなのか。確かに、地道に努力した者からみれば、卑怯に感じる。
 だが、この手術が社会に広く認知され、浸透した時、淘汰されるのは、手術を受けた者なのか、受けていない者なのか。
 俺には分からなかった。

       

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