Neetel Inside 文芸新都
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 2日が経ち、夕方には田原のお通夜が行われる事になった。
 電車に揺られ、吊るされたポスターを眺めると、見覚えのある芸能人が怪しむようにこちらへ目を向けている。俺が、犯罪者だとでも言うのか?
 先生の言う通り、俺は殺害現場を目撃しただけではなく、何かをしたのかもしれない。
 悪い想像ばかりが浮かび、何が現実なのか分からなくなる錯覚が反復される。
 会場の外には田原と同じ制服を着た学生が多い。田原は両親がいないため、親戚が受付係をしているようで、どことなく田原に似ていた。
 現実味のないまま、俺は会場に踏み込んだ時、声をかけられた。
 振り返った先に居たのは先日、自宅に聞き込みへ訪れた警官だった。
「どうも」と言って会釈をする。
「こんな時に、申し訳ありません。実は、先日採取した貴方の指紋が、室内のドアノブや窓の桟に付着していたんです」
 想定内の、一番恐れていた事態だ。
「では、俺も容疑者と言うことでしょうか」
「いえ。凶器に残されていた指紋に貴方の物はありませんでしたし。貴方は記憶を無くしているようですし詳細は分かりませんが」
「凶器に犯人の指紋が残っていたということですか?」
「それが、なんとも言えないんですよ。包丁の柄、持ち手のところですね。途切れ途切れの指紋が沢山あってですね。貴方のご友人の田原君と、家政婦の指紋は確かに鑑別できたようです。これらは、普段使用した際に付着した指紋だと考えるのが普通ですよね。しかし、問題の途切れ途切れになっている点。これは、真犯人が中途半端にふき取ったため。若しくは手袋をはめていたために、このような状態になったと考えられるんですね」
「なるほど」
「もう一つ、他殺の場合は防御創といって、刺される際に刃先を掴んで掌に傷が残る場合が多いんですけど、それが見られない事から、自殺という線もありますが。まあ、なんとも」
「それは」どうだろうか、田原は軽度の躁鬱病に罹患していたので、可能性はあるのだろうが最近の彼を見ている上では、その可能性は低いと思う。
「捜査状況はどうなっているんですか?」
「そうですねえ、怪しい痕跡は他にもあるのですが。如何せん、普段から来客されることが多い御宅のようですから」
「なるほど」
 何もつかめていないというわけか。
 つまり、俺が犯人の可能性も残る訳だ。
「そういう訳で、まず親戚や、同僚、同級生、知人を訪ね回ってるわけです。とくに貴方は重要参考人ですから」彼は妙な笑みを浮かべ、「何か思い出したら頼みますよ」と言った。

       

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