さめない

草野
「山田は違ったみたいだな。悶々と過ごした大学生活と、この数年間は何だったんだ」
 俺が泣き言を口にすると、椎名が、「自分ばっかり」と言い、睨みつけてきた。
 良かった。
 大学に入学して間もなく、田原の事件が自殺で処理された事で、行き場を失い、燻り続ける復讐心により、苦しみ、もがいていたのは俺だけじゃなかったのか。
「症状は出てないの?」
「ああ。田原の事件以来だ」
「そう。ちなみに、事件の事は?」
「まだ、思い出せてない」
 そう。思い出せない。
 俺は何を見て、何をしたのか。俺は事件の第三者か、被害者か。加害者の場合だってあるのだ。つまり、自分が何者なのか、掴めていないのだ。
 10年間続く浮遊感。憑き物に憑かれているような地に足がつかない感覚。
 俺の指紋が現場に残っている事から部屋に入った事は間違いない。
 窓から侵入した俺は、ドアを開け、殺人現場のリビングへ辿り着く。その後は、数々のパターンが再生される。いずれも客観的情報で構成された、イミテーションの記憶なのだが。
「ねえ、今回戻ってきたのは山田を追及するため、だけじゃないんでしょ?」
 鋭い。
「実は、もう一人の容疑者に出会ったんだ」
「それって、東京で?」
「そう。そいつは福岡の企業に勤めていて、出張で東京に来てたらしい。何の因果か、俺も仕事で偶然出会ってさ。会社を辞めて戻ってきたんだ」
「え?」